2014/08/24(日) 23:53 【 EDIT

チャット過去ログ

アクセス認証:http://kakushi.kirara.st/fox.cgi

石版から「まふゆにとびだす」を抜き出し、クロスワード解答と対応させると「メリークリスマス」
USER ID:【 Merry 】
PASSWORD:【 Christmas 】
※ログインすると過去ログの参照が可能となる。


【7/24 22:13-22:22】メリーニールの会話

トナカイ > ニールさん、いらっしゃい。 (07/24-22:13:58)
トナカイ > メリーさん、いらっしゃい。 (07/24-22:17:33)
★ ニール > メリー、いるかい?
★ ニール > 例の箱、ある新参者のスイマが開けようと躍起になってる。
★ ニール > やっぱりあいつが、12年前のイコンなのかい?

★ メリー > どうでしょうね。
★ メリー > ですが聖夜協会にとって、価値のあるものであることは間違いありません。
★ メリー > センセイが、あの箱に収めたものですから。

★ ニール > だが、あいつは開かない。
★ ニール > 暗号を知っている教会員のうち、2人はいなくなり、ひとりは隠居みたいなもんだ。
★ ニール > 答えがわかるのはノイマンのものくらいだろう。

★ メリー > そうですね。
★ メリー > 通常は、あの箱を開けることは不可能です。

★ ニール > ひどい話だ。
★ ニール > 動画の謎を解いてみても、その先には誰もいない。

★ メリー > ですが……ほんの僅かだけ、可能性があります。
★ ニール > プレゼントか?
★ メリー > ええ。
★ ニール > だれの?
★ メリー > それはわかりません。私にも。
★ ニール > 不思議な話だが……まあいいさ。
★ ニール > いま、小箱を持っているスイマ。あいつはお前に、もっと具体的なプレゼントを用意しているみたいだぜ?

★ メリー > ……そうですか。
★ メリー > 期待している、とお伝えください。

トナカイ > メリーさん、さようなら~。 (07/24-22:22:33)
トナカイ > ニールさん、さようなら~。 (07/24-22:22:35)

7/24 22:13-22:22


【7/25 22:00-22:18】メリーニールの会話

トナカイ > ニールさん、いらっしゃい。 (07/25-22:00:11)
トナカイ > メリーさん、いらっしゃい。 (07/25-22:01:02)
★ ニール > メリー。今日は報告がみっつある。
★ ニール > みんな最悪の報告だ。

★ メリー > なんですか?
★ ニール > あのスイマ、悪魔をみつけたが、誘拐しようとしてしくじった。
★ ニール > 今ごろは檻の中だ。

★ メリー > 悪魔……そうですか。
★ ニール > 助けるかい?
★ メリー > いえ、必要ありません。
★ メリー > 間違ったことをしたなら、反省し、それを正すのも「英雄」の教えです。

★ ニール > そうかい。ま、どうでもいいさ。
★ ニール > 悪い報告、ふたつ目だ。
★ ニール > あのスイマ、例の箱を紛失してやがった。

★ メリー > ……なるほど。
★ ニール > 面倒だが、すぐに取り戻すよ。
★ ニール > ただ、警察が持っている可能性がある。
★ ニール > オレの足でも、少しタイミングを選びたい。

★ メリー > いえ。もう数日は、放置してください。
★ ニール > いいのかい?
★ メリー > ええ。あるいは何者かが、あの箱を開けてくれるかもしれませんよ。
★ メリー > 物語はすでに、ほつれ始めているのかもしれません。

★ ニール > もしも今、箱を持っている奴が、あれを開けられなかったら?
★ メリー > この件には関わらないよう、手を回してください。
★ メリー > 出来る限り平穏な方法で。

★ ニール > オーケイ。
★ ニール > ま、オレなりの平穏でがんばるさ。
★ ニール > で、3番目だが。
★ ニール > いま、オレんちに悪魔がいるんだ。
★ ニール > すげぇ邪魔なんだが、どうしたらいい?

★ メリー > ……数日以内に、別の者に引き取らせます。
トナカイ > ニールさん、さようなら~。 (07/25-22:18:23)
トナカイ > メリーさん、さようなら~。 (07/25-22:18:30)

7/25 22:00-22:18


【7/27 22:20-22:27】メリーニールの会話

トナカイ > ニールさん、いらっしゃい。 (07/27-22:20:40)
トナカイ > メリーさん、いらっしゃい。 (07/27-22:21:44)
★ ニール > おいメリー、あいつ本当に箱をあけやがったぜ!
★ メリー > そうですか。……その方の名前は?
★ ニール > ん? ああ……。
★ ニール > 悪い。聞いてねぇ。聞いてても忘れた。

★ メリー > まったく。
★ メリー > まあ、いいでしょう。
★ メリー > 中身はなんでしたか?

★ ニール > ああ、拍子抜けだよ。
★ ニール > 星形の招待状だ。
★ ニール > どうして、あんなもんが……。

★ メリー > 招待状なんでしょう。
★ メリー > センセイから、「誰か」への。

★ ニール > センセイ?
★ ニール > なるほど、その時代のものなのか。

トナカイ > ニールさん、さようなら~。 (07/27-22:27:40)
トナカイ > メリーさん、さようなら~。 (07/27-22:27:57)

7/27 22:20-22:27


【8/2 19:00-19:15】メリーニールの会話

トナカイ > ニールさん、いらっしゃい。 (08/02-19:00:35)
トナカイ > メリーさん、いらっしゃい。 (08/02-19:00:53)
★ ニール > おい、メリー。ノイマンが消えた。
★ ニール > とりあえず悪魔は確保したが……穏健派と強硬派、どっちに渡せばいい?

★ メリー > どちらにも渡してはいけません。
★ ニール > どうして?
★ メリー > リュミエールから連絡がありました。
★ メリー > 悪魔が相手であれば、プレゼントを使う、と。

★ ニール > リュミエール……。
★ ニール > センセイと消えた、聖夜協会員のひとりか。
★ ニール > どんなプレゼントなんだ?

★ メリー > それは貴方にも話せません。
★ メリー > ですが、「12年前のイコン」捜しに有益なプレゼントです。
★ メリー > 詳しい指示は、ノイマンに出しておきます。
★ メリー > 彼女と共に、悪魔の相手をしてください。

★ ニール > ノイマンかよ……。
★ ニール > オレ、あいつ苦手なんだよな。

★ メリー > 彼女にはしばらく、「世界」には入らないように言っておきますよ。
★ メリー > 貴方の「足跡」で、せっかくのプレゼントが台無しになっても困りますから。

★ ニール > プレゼント? どのプレゼントだ?
★ メリー > どれでもありませんよ。
★ メリー > ノイマンに作って貰うようにお願いした、私の個人的なプレゼントです。

トナカイ > メリーさん、さようなら~。 (08/02-19:14:02)
トナカイ > ニールさん、さようなら~。 (08/02-19:15:45)

8/2 19:00-19:15


【8/12 20:20-20:38】メリーノイマンの会話

トナカイ > ノイマンさん、いらっしゃい。 (08/12-20:20:00)
トナカイ > メリーさん、いらっしゃい。 (08/12-20:20:46)
★ ノイマン > メリー、いる?
★ メリー > ええ。珍しいですね、どうしましたか?
★ ノイマン > ニールが消えたわ。昨日からいない。
★ メリー > 彼は自由ですから。
★ ノイマン > 少し様子が気になるわ。
★ ノイマン > ……貴女、リュミエールとどんな取り引きをしたの?

★ メリー > 英雄の過去エピソードを正確に知りたかっただけですよ。
★ メリー > 聖夜教典は、やはり歪んでいますから。

★ ノイマン > ほかの協会員にきかせてあげたい言葉ね。
★ メリー > 別にかまいませんよ。
★ メリー > 私は、現状が気に入っているわけではありません。

★ ノイマン > 知ってるわよ。
★ ノイマン > でも、無茶はしないように。
★ ノイマン > もしニールから連絡があったら教えて。

★ メリー > ええ。わかりました。
★ メリー > そちらは大丈夫ですか?

★ ノイマン > もうしばらく、のんびりと旅行するわよ。
★ ノイマン > 強硬派が暴走したら助けて。それじゃ。

トナカイ > ノイマンさん、さようなら~。 (08/12-20:38:30)
トナカイ > メリーさん、さようなら~。 (08/12-20:38:42)

8/12 20:20-20:38


【8/16 21:29-21:37】メリーリュミエールの会話

トナカイ > メリーさん、いらっしゃい。 (08/16-21:29:22)
トナカイ > リュミエールさん、いらっしゃい。 (08/16-21:30:11)
★ メリー > ようこそいらっしゃいました。
★ リュミエール > ここでいいの?
★ メリー > ええ。
★ メリー > このチャットを知っているのは友人ばかりですから。

★ リュミエール > ニールも?
★ メリー > もちろん。
★ リュミエール > そう。あの件のお礼なんだけど。
★ メリー > 約束のものは?
★ リュミエール > 仲間が確保しているわ。
★ リュミエール > でも、ドイルの息子のプレゼントを壊してどうするつもり?

★ メリー > 今は彼がドイルです。
★ メリー > 目的は、大枠ではセンセイと同じはずですよ。

★ リュミエール > でも、目指している結末はまるで違う。
★ メリー > いいえ。
★ メリー > 優先順位が違うだけです。

★ リュミエール > ……そう。ま、いいわ。
★ リュミエール > データだけでいいのね? 近日、仲間から届くと思う。

トナカイ > メリーさん、さようなら~。 (08/16-21:37:34)
トナカイ > リュミエールさん、さようなら~。 (08/16-21:37:41)

8/16 21:29-21:37


【8/18 22:00-22:07】メリーノイマンの会話

トナカイ > メリーさん、いらっしゃい。 (08/18-22:00:34)
トナカイ > ノイマンさん、いらっしゃい。 (08/18-22:00:57)
★ ノイマン > いいの? 下のデータ、残しておいて。
★ メリー > 私は気にしません。
★ ノイマン > そ。ところで、ファーブルから連絡があったんだけど。
★ ノイマン > 悪魔の保護をあいつに引き渡せっていうのは、本気なの?

★ メリー > ええ、なにか問題でも?
★ メリー > 同じ会員で、しかも穏健派の仲間でしょう?

★ ノイマン > 答えのわかり切っている質問をしないで。
★ ノイマン > ま、いいわ。貴女には従う。
★ ノイマン > でも、どうして今さら、悪魔に興味を持ったの?

★ メリー > なんとなくですよ。
★ メリー > 最近、閉塞感を感じていましたから。

トナカイ > メリーさん、さようなら~。 (08/18-22:07:10)
トナカイ > ノイマンさん、さようなら~。 (08/18-22:07:39)

8/18 22:00-22:07


【8/20 21:29-21:32】メリーノイマンの会話

トナカイ > メリーさん、いらっしゃい。 (08/20-21:29:35)
トナカイ > ノイマンさん、いらっしゃい。 (08/20-21:30:00)
★ ノイマン > 悪魔をファーブルに引き渡したわ。
★ メリー > お疲れ様です。それで、どうかしましたか?
★ ノイマン > いえ。
★ ノイマン > 報告を入れただけよ。一応ね。

トナカイ > メリーさん、さようなら~。 (08/20-21:32:42)
トナカイ > ノイマンさん、さようなら~。 (08/20-21:32:47)

8/20 21:29-21:32


【8/22 21:59-22:08】メリーノイマンの会話

トナカイ > メリーさん、いらっしゃい。 (08/22-21:59:20)
トナカイ > ノイマンさん、いらっしゃい。 (08/22-22:00:10)
★ ノイマン > その後、悪魔の様子は?
★ メリー > 特には、報告を受けていません。
★ メリー > ずいぶん気にしていますね。

★ ノイマン > ……ええ。
★ ノイマン > 昔から、拾った生き物にはすぐ愛着をもつタイプなのよ。

★ メリー > 貴女と彼女が、本当に最初に出会ったのはいつですか?
★ ノイマン > いつでもいいでしょ。そんなの。
★ ノイマン > なんにせよ、私は貴女の味方よ。
★ ノイマン > でもあの子の敵になるつもりもない。

★ メリー > ええ。
★ メリー > 覚えておきます。

トナカイ > メリーさん、さようなら~。 (08/22-22:08:22)
トナカイ > ノイマンさん、さようなら~。 (08/22-22:08:30)

8/22 21:59-22:08


【8/24 02:00-02:04】メリーからニールへのメッセージ

トナカイ > メリーさん、いらっしゃい。 (08/24-02:00:36)
トナカイ > ニールさん、いらっしゃい。 (08/24-02:01:03)
★ メリー > ニール。
★ メリー > 現在、「悪魔」はホールの元にいるようです。
★ メリー > 私は彼女に会わなければなりません。
★ メリー > 彼女を連れてきてください。
★ メリー > 私は「英雄と星をみた公園」で待っています。
★ メリー > そう伝えれば、悪魔にはわかるはずです。

トナカイ > ニールさん、さようなら~。 (08/24-02:03:55)
トナカイ > メリーさん、さようなら~。 (08/24-02:04:00)

8/24 02:00-02:04


【8/24 18:12-18:17】メリーからソルへのメッセージ

トナカイ > メリーさん、いらっしゃい。 (08/24-18:12:57)
★ メリー > あなたたちは、ソルですね?  はじめまして。メリーと申します。
★ メリー > あなたたちは、彼によく似ている。なにも知らないまま、希望を追いかける。その姿は美しいものです。でも、ひとつだけ、お教えしましょう。
★ メリー > 名前のないプレゼント――悪魔のプレゼントには、「再会」の願いが込められています。悪魔は強引に、彼の運命を書き換えた。彼にプレゼントで呪いをかけ、そして、血を流させた。 同じことが繰り返されてはいけません。
★ メリー > 悪魔は、消えなければなりません。

トナカイ > メリーさん、さようなら~。 (08/24-18:17:24)

追加


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2014/08/24(日) 23:52 【 EDIT

『赤い手の男の視点』

シャッツキステ1 赤い手の男の視点1
※『赤い手の男の視点』:秋葉原(東京)のカフェ「私設図書館カフェ シャッツキステ」にて発見。

 なぜこんなことになったのだろう、と何度
も考えた。
 あの少年が目覚めるのを祈っていた。彼の
父よりも強くとはいえないが、おそらくはそ
の次くらいに強く。彼自身のためではなかっ
た。オレのために。少しでもオレの罪が軽く
なるように。
 夜はなかなか寝つけなかった。窓の外が明
るくなってきたころ、ようやくほんの短い時
間だけ眠る生活を送っていた。そのたびに繰

り返し同じ夢を見た。暗い夜道、少年が倒れ
ている。オレは茫然と座り込んだまま動けな
いでいる。彼には触れていない。でも、ふと
みると半月が、真っ赤になったオレの両手を
照らしている。あのクリスマスの夢だ。奇跡
らしいことはなにも起こらなかったクリスマ
ス。--いや。彼が息をしているだけで、そ
れは奇跡なのだろうか。

 ※

 ある日オレは、八千代さんに呼ばれ、喫茶
店に向かった。八千代さんとは仕事で知り
合ったが、共通の趣味で盛り上がり、しばし
ば一緒に飲み歩くようになった。彼はオレの
親父よりも歳が上だが、好奇心が旺盛で若々
しいヒトだった。
 オレは八千代さんさえ、少しだけ恨んでい
た。あの夜、オレが車を走らせたのは、八千
代さんに頼まれたからだ。もちろん八つ当た

りだとわかっていたけれど、それでも彼の顔
は見たくなかった。
 -ーあの少年に関係している話だよ。
 と八千代さんは言った。
 であれば、オレには断りようがなかった。
 彼が指定した店は、いわゆるメイドカフェ
と呼ばれるもののひとつだろう。席について
まず、オレはついぼやいた。
「どうしてこんなところに」
 八千代さんは笑っている。
「ここは密談室と呼ばれる席らしいよ。内緒
話にはうってつけだ」
 オレは顔をしかめる。
 笑ったまま、八千代さんは肩をすくめてみ
せる。
「いいじゃないか。時には、無理やり明るく
ふるまうことも必要さ。空元気も続ければや
がて本当の元気になることだってある」
 八千代さんは、メイドのひとりに、「彼に
リラックスできる紅茶を」と注文した。

 ため息をついて、オレはぼやく。
「まだ、元気なふりをするほどの余裕はあり
ませんよ」
 「そうかい?でも今日は、君の希望になり
得る話を持ってきた」
 希望、と思わず聞き返す。なんだか生まれ
て初めて、その言葉を口にしたような気さえ
した。
「少年は目を覚ました」
 と八千代さんは言う。
 オレは頷く。その連絡は受けていた。ひと
まず最悪の事態は免れたようだ。
「でも、ひどい後遺症が残っていると聞いて
います」
 八千代さんは頷く。
「だが、少なくとも命の危機は去った。彼は
これからゆっくり回復していけばいい。現状
は最悪でも、未来は上を向いている」
 まあ、そういった考え方もできる。
 八千代さんはティーカップに口をつけてか

ら告げる。
「問題は、もうひとつの方だ」
「もうひとり?」
 被害者はひとりだけだ。
 そのはずだった。でも。
「友人に頼まれてね。できれば君にも、協力
して欲しい」
 八千代さんは、ゆっくりとその計画の話を
はじめた。
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2014/08/24(日) 23:51 【 EDIT

『ノイマンの視点』

ノイマンの視点1 代官山カフェ
※『ノイマンの視点』:代官山(東京)のカフェ「CAFE CLASSE」にて発見。

 わざわざ告げるつもりもないけれど、私は
以前にも一度、彼女に出会っている。
 それはある冬の日のことだった。

 ※

 友人、と言えるほど親しいかはよくわから
ないが、なんにせよ知人の女性から電話を受
けたせいで、クローゼットの中身をひっぱり
出すことになった。

 私はどちらかというと几帳面な方だ。新人
だからということで、会社の忘年会につき合
いで仕方なく参加したときにビンゴ大会で当
てた、誰がどんな悪ふざけで用意したのだか
わからない缶バッヂ製造キットなるものをど
こにしまっているのかも、もちろん記憶して
いた。クローゼットの奥には、日常的には使
わないあれこれを収納している段ボール箱が
積み重なっており、そのいちばん下だ。
 収納は比較的得意だが、半面で物を捨てる
のが苦手な傾向にあり、よくないとわかって
いても不必要なものをついついため込んでし
まう。そしてなぜか私には不必要なものがし
ばしば舞い込んでくる。
 どうにか段ボールの山を部屋のすみに移動
させて、目的のものを開くと、いちばん上に
載っていたのは名前も知らないロボットのプ
ラモデルだった。誰かに貰ったものだ。誰に
貰ったのだかはもう思い出せないが、「こう
いうの好きでしょう」と笑顔で言われたこと

は覚えている。どの観点からみれば私が、ロ
ボットのプラモデルが好きなようにみえると
いうのだろうか。理解に苦しむ。
 ともかくそのプラモデルの下に、缶バッヂ
製造キットはあった。子供用の玩具の、チー
プなものだ。
 私はそれをひっぱりだして、彼女との待ち
合わせ場所に向かった。
 今日は久しぶりの、仕事の予定のない休日
だ。明らかな重複表現に思えるが、そうでも
ないところにため息が出る。映画館にでも行
こうと思っていたのだけれど。
 --少女の初恋のためよ。
 と彼女は言った。
 さすがにそれは、放ってはおけない。
 応援するか、からかい倒すかは悩みどころ
ではあるけれど、どちらにせよスクリーンを
眺めているよりもドラマティックなはずだ。

 ※

 予想通りに、というのも語弊があるけれど
まだ小学生の女の子の純真な恋愛事情をあれ
これと訊きながら、紅茶を飲んでいる時間は
やはり充実していた。
 彼は正義感が強くて、勇気があって、優し
くて行動力があって――と同年代が口にして
いたなら「ああそう」と告げて立ち去りたく
なるような言葉も、少女のものであれば微笑
んで聞いていられる。恥ずかしがっている少
女というのは可愛らしいものだ。部屋にひと
つ置いておきたくなる。
 はにかみながら、彼女はヒーローバッヂを
ひとつ作った。なんだか意外と悪人面のヒー
ローバッヂで、それは彼から貰ったキーホル
ダーを参考にしているらしい。正義感が強く
て勇気があってどうこうの彼も、プレゼント
のセンスはないようだ。
「土台のを上にもってきた方が可愛いわよ」
 と私は言う。悪人面のヒーローに覆われて

しまった、缶バッヂの土台には、もう見えな
いけれどピンク色のハートと「がんばれ!」
という文字がある。
 少女は言った。
「がんばれって、はっきりとは書けないです
よ。やっぱり」
「どうして?」
「たぶん私よりもずっと、彼の方ががんばっ
ているので」
 ハートの方はどうして隠すの、と聞こうか
と思ったけれどやめる。もうすでに彼女の顔
が真っ赤だったから、さすがに可哀想になっ
たのだ。そういえば私も、幼いころはよく赤
面する子供だった。最近はそんなこともなく
なったけれど、懐かしい。
「喜んでもらえるといいわね」
 と私は言った。

 ※

 あの少女の初恋がどうなったのか、私は知
らなかった。
 でもひとつだけ、聞こえてきたことがある。
 どうやら件の少年は、ヒーローバッヂを受
け取るはずだった夜に事故に遭い、長いあい
だ昏睡状態にあったようだ。

 ※

 あの缶バッヂ製造キットは、今は手元に
はない。ある男性から連絡があり、譲ってほ
しいと言われたのだ。
 仕事の都合で秋葉原に行ったとき、少し変
わった喫茶店であれを引き渡した。店名はど
こかの国の言葉で、「宝箱」という意味を持
つらしい。
 入店すると時間ごとに料金を取られるタイ
プのお店ではじめは抵抗があったけれど、充
実したハーブティーからオリジナルブレンド
の紅茶を作れるシステムが素敵だ。私はエル

ダーフラワーとカモミールの組み合わせが気
に入っているけれど、たまには「今夜、ぐっ
すり眠れるブレンドを」という風に、アバウ
トに注文してみるのも、発見があって面白い。
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2014/08/24(日) 20:50 【 EDIT

『リュミエールの視点』

リュミエールの視点1 Cafe 泰明館
※『リュミエールの視点』:川越(埼玉)のカフェ「Cafe 泰明館」にて発見。

 その少女のことは、よく覚えていた。
 センセイが主催するクリスマスパーティで
毎年、顔を合わせていた少女だ。比較的年齢
層の高いパーティだったから、私と妹はたい
ていすみの方で黙々と料理を食べていたのだ
けれど、そうするとあの子が臆病なのに好奇
心の旺盛な猫のように、びくりびくりと距離
を詰めてくるのだ。
 もちろん私も妹も、あの子のことは気に
いっていた。生真面目な少女だ、というのが

私たちの共通した見解だった。
 生真面目というのは、あまりほめ言葉とし
ては使われないけれど、彼女になら大抵の人
は愛着を持つだろう。いつだって、何事にだっ
て一所懸命で、真摯な少女だ。そのくせ我儘
ではなかった。相手を傷つけることをひどく
怖れているようだった。それが言葉の節々か
ら感じ取れた。なにかしていると思わず応援
して、美味くいくと拍手を贈りたくなるよう
な少女だった。
 ある年の、クリスマスパーティ直前の日曜
日に、私と妹は街中でその少女をみつけた。
私たちと彼女は、ご近所というほどでもない
けれど、そう離れていない場所に住んでいた。
 聞けば彼女は、男の子への贈り物を探して
いるそうだった。
「去年、すごいプレゼントをもらったから、
そのお返しをしたいんです」
 と少女は言った。
 もう何週間も前からずっとプレゼントを探

しているけれど、なかなか決められないよう
だ。「これだ」と思ったものは高すぎて彼女
には購入できず、でも代わりに安いものを贈
るのも嫌で、いろいろな店をみて回っている
うちに底なし沼に沈んでいくように深く暗い
優柔不断の中に閉ざされてしまった。どうや
らそういうことらしい。
 私たちはちょうど、お茶をしましょうかと
話していたから、少女を連れて喫茶店に入っ
た。彼女はずいぶん恐縮していたようで、注
文もなかなか決められないでいた。
 「そういうのってだいたい、ぱっと思いつい
たものが正解なのよ」
 と妹が言った。
 オーダーの話かと思ったけれど、違う。プ
レゼント選びのアドバイスらしい。
 私は正直、プレゼントなんてものは誰から
貰うのかが重要なのであって内容なんてもの
はなんでもいいと思っていたから、妹の意見
に乗っておく。

「そうね。彼にいちばん似合いそうなものは
なに?」
 意外に迷わず、少女は答えた。
「ヒーローバッヂです」
「ヒーローバッヂ?」
 思わず反復する。
 なんだ、それは。そんなものどこに売って
いるんだ。
 少女は顔を赤くしてうつむく。
「いえ、なんでもないです。よくわからない
ですよね、なんだか子供っぽいし」
 やっぱり似合わないかも、と彼女は言う。
 私は彼女がプレゼントを贈ろうとしている
相手を知っていた。その子も毎年、パーティ
に参加していたのだ。
 子供っぽいものが似合わない子には、あま
りみえなかった。年相応の小学生だったよう
に思う。私は彼と話したことがないから、内
面まではわからないけれど。
「いいと思うわよ。ヒーローバッヂ」

 と私は言う。
 この子が必死に用意したプレゼントなら、
妙に高価なものやセンスの良いものよりも、
ヒーローバッヂなんて子供っぽくて馬鹿げた
ものの方が似合う気がしたのだ。悪い意味で
はなくて、純粋に。少女から少年にヒーロー
の証が贈られるなんて、それだけで美談じゃ
ないかと思った。
「そんなのどこに売ってるの?」
 と妹はいう。
「なければ作ればいいでしょう」
 と私は答えた。
 それから私は、知人に電話を一本かけた。
 --欲しいものがあるの。今日中に、でき
たら一時間以内に。少女の初恋のためよ。な
んだってやろうって気になるでしょう?
 相手の快諾を得て、私は通話を切る。
 それから、時間を潰すために、彼女に尋ね
た。
「さあ、どんなバッヂにしましょうか?」

 ※

 あれこれと悩む少女をからかいながら時間
を潰して、ようやく「これだ!」というバッ
ヂのデザインが決まったところで、私たちは
喫茶店を出た。
 電話の相手との、待ち合わせ場所に向かわ
なければならない。
 私たちは何度か電車を乗り継いで、代官山

に移動した。
 待ち合わせ場所は、駅のほど近くにある落
ち着いたカフェだ。そこで出てくる、ある動
物をモチーフにしたモナカに一目ぼれして、
彼女に会うときにはいつもこのカフェを使う
ことにしている。メニューが豊富でお弁当の
テイクアウトなんかもできるお店で、彼女は
よくランチに利用するそうだ。
 いつかあのお店で食事してみたいなと常々
思っているのだけど、まだ実現していない。
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2014/08/16(土) 23:51 【 EDIT

タイムカプセルの中身

バッヂらしきもの バッヂらしきものアップ バッヂアップ バッヂらしきものアップ2 がんばれ強調

【越智幸弘の手紙】

拝啓 未来の越智幸弘

どうも、ひさしぶり。
ぼくは今ぜっさん勉強をがんばりながら
休けい中にこれを書いています。
きみはもう世界をみてまわりましたか?
ラフレシアはくさかった?
タスマニアデビルのふくろはやわらかい?
こんど写真をおくってください。
隆と美優と久瀬とはちゃんとれんらくをとれよ!
久瀬は手紙を書けないからかわりに
あいつの宝物を勝手に入れます。怒られたら
すまん未来のぼく。
あけるときは4人一緒にな!
じゃ、また。

過去の越智幸弘より


【白石隆の手紙】

みらいのオレへ

たぶんオレは身長が2メートル
くらいあって、むてきなはず
だからがんばってなか
まをまもれ!!
あとうちゅういきたい!!
空気がないからきをつけろ!!
タイムカプセルはいい
アイデアだ!!
オレは太一がかえって
くるのをまちたかったん
だけど、いまじゃないと

だめらしいからしかた
なかった。ごめん!!
つぎは4にんでなんかうめようぜ!!
そのときまでに宝物
をみつけとく。

じゃあな!
オレもがんばるから、
おまえもがんばれ!!!

4年1組
白石隆


【山本美憂の手紙】

未来の私へ
私のしょうらいのゆめは、先生です。
まだかわっていませんか?
おととい、モモという本を読みました。
まだおぼえていますか?
すきなひとのこととかは、いいよね。
……(何文字か読めない)苦手だ!
ちゃんとみんなともだちですか?
それはだいじょうぶか。
いまは太一くんのことが心配です。
いつ退院できるんだろう?
あなたは知っているんだよね?いいなー。
P.S. あのバッヂだれにもらったのかきけた? じゃあね。
9才の山本美優


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2014/08/16(土) 23:50 【 EDIT

タイムカプセルの在り処

タイムカプセルの在り処1
※『タイムカプセルの在り処』:愛媛の山中にて発見。
 集合場所にて「いつの間にか置いてあった」と越智総一郎より渡された。

 タイムカプセルは赤い缶にした。
 それを持って、四人で山に登った。
「このへんでいいんじゃないか?」
「お前はいつも大雑把だな」
「じゃあどこがいいんだよ」
「そこそこわかりやすくて、でもひと目じゃ
わからない場所がいい」
「あの辺りはどうかな」
「うん。悪くない」
「オレが選んだ場所となにが違うんだよ」

 いつものように揉めながら、スコップで穴
を掘った。
 土は、表面は柔らかいけれど、少し掘ると
固くなった。それに大きめの石がごろごろと
あって、それにぶつかると手がしびれた。
 穴はどうしても丸くなって、四角い缶を埋
めるのはけっこう大変だ。
 それでもなんとか赤い缶を埋めて、ぎゅっ
と地面を踏み固める。
 それから、「目印」からの距離を測る。

「ほら、そこ。メジャー浮いてるぞ」
「仕方ないだろ。坂だし、でこぼこしてるし
よ」
「ちょっとななめになってもいいから、地面
にぴっちりつけるのをルールにしよう。なに
か基準がないと、あとで掘り返すときに大変
だ」
「早く掘れるといいね」
「すぐだよ」
「どうかな」

「どうしてお前は、そういうことをいうんだ
よ」
 ともかく計測を終えて、それから距離をメ
モした。
「ただの数字じゃ面白くない」
 ということになって、ちょっとだけ変化を
つけてみる。

 赤い星からペコちゃん一〇人

 ウキキからジャンプ九一くらい
 山の神様からマーブル二六本

「くらいってなんだよ」
「仕方ないだろ。だいたいそれくらいなんだ
から」
「あれ、山の神様なの?」
「なんとなくそれっぽくないか?」
「オレはもうひとつの方が好きだぜ。強そう

で」
「あっちはなんか、ウラオモテがあるのがこ
わいな」

 なんにせよ早く、このタイムカプセルを掘
り起こせるときがくればいいな、と思う。
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2014/08/15(金) 23:52 【 EDIT

シロクロ暦

シロクロ暦早見表 【シロクロ暦早見表】
※【無色の日】を起点日として、残る364日を4等分した91日をひとつの節と設定。

割れた鏡の中に落ちていた紙片】 ※本編

12/25【無色の日】:クリスマス
12/31【白と灰色の節、初めの力の日】:大晦日、除夜の鐘
1/1【白と灰色の節、初めの奈落の日】:元日、初詣
2/13【白と灰色の節、8番目の光の日】:バレンタインデー前日、チョコレート
2/14【白と灰色の節、8番目の陰の日】:バレンタインデー、本命チョコ、義理チョコ
3/14【白と灰色の節、12番目の陰の日】:ホワイトデー、3倍返し
4/1【黄と緑の節、初めの力の日】:エイプリルフール
7/7【青と紫の節、2番目の生命の日】:七夕、笹の葉
8/31【青と紫の節、10番目の慈愛の日】:夏休み最終日
(9/1 青と紫の節、10番目の生命の日:新学期開始)
11/15【赤と薄紅の節、8番目の意志の日】:七五三、千歳飴


【白い日記/黒い日記】 ※シロクロサーガ

黄と緑の節、最後の奈落の日:6/25
青と紫の節、4番目の光の日:7/17
青と紫の節、5番目の陰の日:7/25


【ナナミの日記】 ※シロクロサーガ

青と紫の節 9番目の陰の日:8/22

ナナミの日記


本編における【BAD FLAG-?? 非現実】

青と紫の節、9番目の陰の日:8/22


【門が開く日時】 ※シロクロサーガ

青と紫の節、9番目の意思の日:8/23 16時

門が開く


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2014/08/15(金) 23:51 【 EDIT

割れた鏡の中に落ちていた紙片

8月15日/25時45分 ※ドッペルゲンガーの部屋にて、割れた鏡の中に落ちていた紙片の内容。

【無色の日】
其は、全ての始まりの日
全ての元凶

【白と灰色の節、初めの力の日】
終わりを告げる鐘の音が響く

【白と灰色の節、初めの奈落の日】
人は願う
愛を、金を
人は祈る
平穏を、安寧を、成功を
神の社に長き列
飛び交う金の礫、灰の札

【白と灰色の節、8番目の光の日】
聖者の名を冠する日の前夜
生命を産み出す力を持つ者、黒き神器完成の時
熱く煮えたぎる黒き素体、生命を形どり冷たき箱へ封印する
これこそ黒き神器完成の最後の呪法

【白と灰色の節、8番目の陰の日】
黒き神器の力、現れる
その力、対なる者の魂を捉える
神器には真なるものと、偽なるものあり
真の神器に囚われし者、新たな世界へ誘われる
偽の神器に囚われし者、仮初の世界へ誘われる
神器なき者、その者は幸せか……

【白と灰色の節、12番目の陰の日】
黒き神器に対向しうる唯一の日
3倍の力を持ってすれば、黒き神器の力に拮抗しうる

【黄と緑の節、初めの力の日】
日が天の頂に登りし時まで、世界は偽りに包まれる
多くの網際網路の上で、偽りの告知あり
人は皆、これを楽しむ

【青と紫の節、2番目の生命の日】
2つの星の力、合わされし時
民は皆、願う
その願い、長き札に込め、白黒の獣の餌に合わせる

【青と紫の節、10番目の慈愛の日】
其は、多くの子供達の終わりの日
最後の自由、解放の終わり
子供たちの祈り、32を望むも、叶うことなし
青と紫の節、10番目の生命の日が絶望とともに訪れる

【赤と薄紅の節、8番目の意志の日】
髪袴帯の儀、執り行う
紅き棒、白き棒、その身に取り込み、永き生命を得んとす

ドッペル


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2014/08/15(金) 23:50 【 EDIT

吟遊詩人の歌

8月15日/25時10分 ※異世界から現れた勇者がまだこの世界の外側にいた頃のサーガ。

偉大なる勇者 立ち向かう
強く誘う 休息に
再び落ちる ぬくもりに
ああ勇者は偉大なり 偉大なり

偉大なる勇者 その朝知る
友との別れ 恩師との離別
しかし勇者はそれも定めと前を向く
ああ勇者は偉大なり 偉大なり

偉大なる勇者 新たな世界の扉を開く
見知らぬ顔 見知った顔
されど勇者は全てを誘う
ああ勇者は偉大なり 偉大なり

偉大なる勇者 広場に集う
刹那に消え行く 美しきもの
刹那に消え行く 美味しきもの
ああ勇者は偉大なり 偉大なり

そう 勇者は 世界を正す
清き子供たちに良き眠りが訪れることを願って


偉大なる勇者 暗き森へ進む
甘き水に集う 森の守り人たち
勇者と森の守り人 知略をかけた戦い
ああ勇者は偉大なり 偉大なり

偉大なる勇者 友の集いに向かう
暁の日差しの中 友と共に向かう
そこで集めし印 それは集いの証
ああ勇者は偉大なり 偉大なり

偉大なる勇者 水の世界へと向かう
数多の冒険者集う 流れる水の世界
冒険者の間かい潜り 世界の果てへと至る
ああ勇者は偉大なり 偉大なり

偉大なる勇者 夜の花を目指す
闇に蠢く人々 交差する思惑
残された子の手を取り 共に秘密の場へ
ああ勇者は偉大なり 偉大なり

そう 勇者は 世界を正す
清き子供たちに良き眠りが訪れることを願って


偉大なる勇者 夜明けを待たず目覚める
深淵からの箱 与えられるを知る
恐れず勇者 其の箱を開く
ああ勇者は偉大なり 偉大なり

偉大なる勇者 箱より希望を得る
希望を手にし 白き世界を駆ける
喜びとともに 勇者は駆ける
ああ勇者は偉大なり 偉大なり

偉大なる勇者 人の行き交う道にて聴く
天の声は歌う その偉大なる力により
歴史に名を残すと 讃えられしもの
ああ勇者は偉大なり 偉大なり

偉大なる勇者 純真なる心に刻む
自らの輝きで道を 照らす姿を
苦難に挫けず前を 向き続ける心を
ああ勇者は偉大なり 偉大なり

そう 勇者は 世界を正す
清き子供たちに良き眠りが訪れることを願って

弦楽器をかきならす


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2014/08/11(月) 23:51 【 EDIT

『どこにもいけない男の視点』

どこにもいけない男の視点2 どこにもいけない男の視点1
※『どこにもいけない男の視点』:「ある男の視点1/2/3」に加筆。
 鹿児島のカフェ「SANDECO COFFEE(サンデコ珈琲)」にて『どこにだっていける男の視点』と共に発見。

 15年前のオレは、どこにでもいるような中学生だった。そこそこ勉強ができて、愛想笑いが得意だった。
 オレと同じ人間なんていない。そう叫びたくなる。でもきっとオレと同じような中学生はこの世界中にいて、オレと同じように苛立ちながら、オレと同じようにいろんなことを諦めている。きっと、そういうことなんだと思う。

       ※

 親父はそれなりに金を持っていたから、世間的には不自由のない裕福な家庭にみえただろう。いかにも最近の金持ち風のスタイリッシュな家に住み、美味いものの感激を忘れるくらいに美味いものを食い、いちいちブランドの名前がついた服を着ていた。
 うちの家に足りないものがあるとすれば、それは母親くらいなものだった。彼女が家を出たのは、オレがまだ小学校を卒業する前のことだ。母はオレを引き取りたがっていたと聞いている。でももちろん親父はそれを許さなかったし、結局オレは、強い主張もなく、あの家で生活することになった。
 傍からどう見えようが、オレには自由なんてものはなかった。食事も、日常も、ささやかな趣味も、すべて管理されて過ごした。
 毎朝、ぴかぴかの革靴を履くたびに、ひどく気分が落ち込んだのを覚えている。
 それは心が躍らない靴だった。親父によって整備が行き届いた、でも花ひとつない道をまっすぐに、同じペースで歩くためだけの靴だった。
 ――こんなんじゃ、どこにも行けねえよ。
 毎日、ぴかぴかに磨かれた革靴をみるたびにオレは、内心でそうぼやいていた。

       ※

 オレは親父が嫌いだった。
 きっと親父も、オレと同じように不自由な人生を歩んだのだろう。親父の会社は祖父が興したもので、あいつはそれをただ受け継いだだけだ。綺麗に整備された道をまっすぐに歩いてきたあいつは、オレにもそれを強要することで、自分の人生を肯定したがっているようにみえた。あるいは、ゾンビが仲間を求めて新たなゾンビを生み出そうとしているようにも。
 オレが親父の葛藤に気づいたのは、彼のいかにも優等生的な書斎に、一枚の古臭いアルバムが飾られていたからだ。それはビートルズの『アビー・ロード』だった。そのチープな彼自身へのアンチテーゼは、彼を一層うすっぺらにみせた。

       ※

 母には、親父に内緒で会っていた。
 それが親父に対する、唯一の反抗みたいなもので、今思えば自分のちっぽけさが嫌になる。堂々と会いたいと言い、堂々と会えばよかったのだ。あんな家さっさと出ればよかったのだ。
 きっと当時のオレだって、今と同じように頭ではそうわかっていた。でもオレはいつもこっそりと、学校の帰りや、親父のいない休日なんかに、息を潜めて母に会っていた。もちろんあの、ぴかぴかの革靴を履いて。
 母は誕生日とクリスマスに、オレにプレゼントをくれた。一四年前の冬、欲しいものを尋ねられたオレは、「スニーカーが欲しい」と答えた。安っぽい、ぼろぼろに履き潰すためのスニーカーが欲しい、と。
 オレは自由が欲しかった。
 どこにでもいける靴が欲しかった。

       ※

 ロンドンにあるアビー・ロードはずいぶんな観光地になっているらしく、ウェブカメラで二四時間中継されていた。
 母が出て行った頃から、親父はよくその動画を眺めるようになった。
「その気になりゃ、オレは明日にでもここにいけるんだぜ」
 と親父はよく言った。でもあいつがその映像に映り込むことはなかった。
「いつだってここにいけるんだ」
 あんたはそこにはいけねぇよ、と内心で応えながら、オレは愛想笑いを浮かべていた。

       ※

 母はクリスマスに、スニーカーを贈ってくれた。
「たくさん履いて、ぼろぼろにしてね」
 と母は言った。
「また買ってあげるから、好きなだけ走り回ってね」
 オレは嬉しかった。本当に。それはどこにでもいける靴なのだと思った。
 でもオレは、そのスニーカーを箱に入れたままベッドの下にしまい込んだ。たまに、夜中にひとり、部屋の中でそのスニーカーを履いてみたことはある。でも外には出かけなかった。
 オレは親父を怖れていた。
 もしあいつに、このスニーカーのことがばれたらきっと、ひどく叱られる。すぐに捨てられてこれはオレのものじゃなくなる。そうわかっていた。だから履けなかった。
 でも、そんな警戒は無意味だった。
 ある日学校から帰ってみると、オレのスニーカーはなくなっていた。通いの家政婦にみつかって捨てられたのだとわかった。

***** 以上は、「ある男の視点1」「ある男の視点2」「ある男の視点3」にて描写済み。以降は初出。 *****

 許せなかった。もちろん。でも。
 --いつものことじゃないか。
 とオレは思った。
 オレは不自由なんだ。だれだって、どっか
が不自由なんだ。そんなことは知っている。
スニーカーひとつでなにが変わるってんだよ
と、自分の愚かさにぼやく。
 それでも諦めきれなくて、オレはゴミ袋か
らスニーカーを取り出して履いてみた。どき
どきしながら近所をぐるりと一周する。この
まま母親のところに行こうかと、途中で一度
だけ思った。でも結局はすぐに家に戻って、
そいつをまたゴミ袋に放り込んだ。
 --どこにでもいける靴、か。
 そんなわけがなかった。それはただのス
ニーカーだった。革靴ではどこにもいけな
かったオレが、スニーカーに履き替えたくら
いでなにが変わるっていうんだ。
 もう諦めていた。オレはきっと親父と同じ
ように、これからも生きていくんだろう。ど
こにでも行けるんだといいながら。どこにも
行けないまんま。
 オレはゴミ袋を固く縛り、隣に揃えて脱い
でいた、ぴかぴかの革靴をまた履いた。
 ※
 夜になって親父が帰ってきた時には、すこ
しだけどきりとした。
 でも家政婦は、スニーカーのことは父には
言っていないようだった。
「なんだ?」
 という親父に、オレはいつもの愛想笑いを
浮かべて、「お仕事、お疲れ様」と言った。
 これでいいのだと思った。
 オレは今までと同じように、愛想笑いを浮
かべて生きていけば、それでいいんだ。
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