2014/12/24(水) 23:54 【 EDIT

ファイル3【冬山も素数意識かな】

ファイル2【ひとつの石から Primzahl を拾え】
ファイル4【♪】
ファイル5【名画→名】
ファイル1【8/8 5/6 2/9 4/6 5/5 6/8 6/6 3/8 6/9】
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2014/12/24(水) 23:53 【 EDIT

ファイル1【8/8 5/6 2/9 4/6 5/5 6/8 6/6 3/8 6/9】

ファイル2【ひとつの石から Primzahl を拾え】
ファイル3【冬山も素数意識かな】
ファイル4【♪】
ファイル5【名画→名】
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2014/12/24(水) 23:52 【 EDIT

ファイル5【名画→名】

ファイル2【ひとつの石から Primzahl を拾え】
ファイル3【冬山も素数意識かな】
ファイル4【♪】
ファイル1【8/8 5/6 2/9 4/6 5/5 6/8 6/6 3/8 6/9】
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2014/12/24(水) 23:51 【 EDIT

ファイル4【♪】

ファイル2【ひとつの石から Primzahl を拾え】
ファイル3【冬山も素数意識かな】
ファイル5【名画→名】
ファイル1【8/8 5/6 2/9 4/6 5/5 6/8 6/6 3/8 6/9】
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2014/12/24(水) 23:50 【 EDIT

ファイル2【ひとつの石から Primzahl を拾え】

ファイル3【冬山も素数意識かな】
ファイル4【♪】
ファイル5【名画→名】
ファイル1【8/8 5/6 2/9 4/6 5/5 6/8 6/6 3/8 6/9】
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2014/12/23(火) 14:52 【 EDIT

『ニールの視点』

ニールの視点1 
※ニールの視点:近見(熊本)「TSUTAYA AVクラブ近見店」にて発見。

 電話に向かってとりあえずどなる。
「どうしてオレが熊本なんだよ!」
 向こうから聞こえてきたのは苦笑だった。
「オレが割り振ったわけじゃない。センセイ
がしたことだ。仕方ないだろ?」
「そもそもどうしてオレが本屋なんかにい
かなくちゃならな?使いっ走りなんかそ
のへんの馬鹿にやらしておけばいいだろ」
「ごちゃごちゃともめたくないんだよ。セン
セイの帰還で、タイミングはイヴだ、誰だっ

て浮足立つさ。とりあえず招待状が届いた奴
を向かわせるのが、いちばん問題がない」
「もめたい奴らはもめりゃいい」
「そういうなよ。もうすぐクリスマスだ」
「いつからキリスト教徒になった?」
「うちにとってもクリスマスは特別だろ?」
「いつの間にかずいぶん協会員らしくなっ
たじゃないか、ドイル」
「その呼び方は嫌味か?」
「はっ。お前にそう聞こえたならそうなんだ

ろうさ」
 九州は嫌いだ。
 南の方ならなおさらだ。
 どうして鹿児島本線なんてふざけた名前の
路線で移動しなくちゃいけない? まったく
空が晴れているのさえ嫌になる。
 八千代はいつものように鼻に付く笑い声を
上げる。

「ついでに、実家に顔を出してこいよ。そろ
そろ親父と仲直りしろって、センセイも考え

てるんだろ」
「うるせぇ。いいか?あのバカは自分の価
値観だけで生きてきたんだよ。そういう生き
方しかできない奴と、気が合わなかったなら
距離を取るのが当然なんだ。血が繋がってい
ようが例外じゃない」
「ああ。話を聞く限りじゃ、お前によく似た
親父さんみたいだ」
「どこがだ?真逆だよ」
「真逆ってのはだいたいが似ているもんさ。

まったく違うと反対にもなれない」
「オレにわかった風な口をきくんじゃねぇ」
 初めて八千代に会ったのがいつだろうが
知ったことじゃないが、なんにせよもうずい
ぶん前のことだ。互いに高校生だったか、高
校を卒業したあとか。まあだいたいその辺り
だった。
 あったのは聖夜協会関係のなにか--あい
つはオレをニールと呼び、オレはあいつを
八千代と呼んでいるから、きっとそうなんだ

ろう。あの馬鹿がドイルなんて名前を継いだ
のはほんの数か月前のことだった。
 八千代は気に入らない奴だが、気に入らな
い奴らの中じゃまだましだ。小器用ぶった連
中の中では不器用に生きていて、小賢しい連
中の中じゃ馬鹿なことができる。そんな印象
だった。
「お前、今どのあたりだ?」
「駅と本屋のあいだだよ」
「あとどれくらいで着く?」

「知らねぇよ。道に聞け」
「道が答えるかよ。グーグルマップに訊いて
みろ」
「オレにちまちまフリック入力しろっての
か?」
「入力方式までは知らねぇよ」
「別にいいだろ、そのうち着く」
 寒いとつい前屈気味の姿勢になる。オレは
片手をポケットに突っこんで、もう片方の手
でスマートフォンを握って、できるだけ大き

な歩幅で歩く。すでに駅を出てからずいぶん
歩いていた。あれは本当に最寄り駅だったの
か? これだから田舎は嫌なんだ。
「そういやさっき、ベートーヴェンと話した
ぜ」
「ベートーヴェン?」
 協会員だろうが、聞き覚えがない。
「新人の。ほらアルベルトの紹介でいきな
りセンセイの招待状が届いたって話題になっ
てるだろ」

「ああ、思い出した。どうでもいい」
「とはいえアルベルトは気になる。お前、
会ったことは?」
「ずいぶん前に一度か二度」
「どんな印象だった?」
「覚えてねぇよ。興味ねぇ」
「ベートーヴェンは、よほどの役者じゃなけ
りゃ、なんにも知らない。そんな奴を送り込
んで、アルベルトになんの利点がある?」
「なんにも知らない馬鹿がいちばん使いや

すい場面だってあるさ」
「たとえば?」
「雑用だろ。裏にややこしい理由がある奴。
嘘の演説を上手くさせたけりゃ、それが嘘
だって知らない奴にさせればいい」
「それ、だれの言葉だ?」
「オレだよ。引用は嫌いだ」
「私は引用が嫌いだ。君の知っていることを
話してくれ」
「なんだよそれ?」

「どっかの哲学者の引用だよ」
 はっ、とオレは笑う。趣味の悪いことをい
う。
 前方にようやく、目的の本屋がみえた。
「着いた。切るぞ」
 本屋で電話をしている奴は嫌いだ。そのま
ま狭い通路を歩いている奴は最悪だ。その場
所にはその場所のマナーがある。
「ああ。なにかみつけたら教えてくれ」
 八千代は電話の向こうでそう答えて、それ

から電話を切った。

 ※

 で、いったいオレに、ここでなにをみつけ
ろってんだ?
 目的の書店は、有名なレンタルショップ
だった。オレは本よりは映画の方が好きだ。
まあまあレベルのぬるい映画を二倍速でみ
るのがいちばんいい。アクション、ミステ

リー、SF、アニメ--その辺りの棚に向かい
たかったが、こんなところでレンタルして東
京まで持って帰るのは馬鹿げている。手荷物
があるとすぐゴミ箱につっこみたくなる性質
だ。
 オレはふらふらと店内を歩き、惰性で読ん
でいる漫画の新刊が出ていたのでレジに持っ
ていく。
 会計をしていると、カウンターの脇に小さ
なメモが張りついているのをみつけた。

 鏡に映った左右の少女。
 ぴったり形を重ねたときに、合わない所に
キーがある。

「おい、なんだこりゃ」
 指さしてオレは店員に尋ねる。
 だが店員もよく知らないようで、まともな
答えはかえってこなかった。
「これ、もらうぜ」

 オレはメモをはがしていく。店員がなにか
言っていたが、知ったことじゃない。
 オレはそのまま本屋を出る。
 と、また八千代から電話があった。
「なにかみつかったか?」
「漫画の新刊があった」
「そりゃよかった」
「じゃあな」
 メモのことを思い出したが、話題には出さ
なかった。寒くてスマートフォンをにぎって

いるのが、いい加減嫌になってきたのだ。

 鏡に映った左右の少女。
 ぴったり形を重ねたときに、合わない所にキーがある。


ニールの視点3 鼻に「着」く→鼻に「付」く
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2014/12/23(火) 12:11 【 EDIT

『アルベルトの視点』

アルベルトの視点1 
※アルベルトの視点:札幌(北海道)「三省堂書店 札幌店」にて発見。

 目下の問題は英雄の体調だ。
 --このテキストを、あなたは確認できて
いるだろうか?
 物語は強い制限を受けている。
 ルールによって。
 この表現が通ることは確認されている。
 ●●によって。
 これは?おそらく通らない。
 ●●●●●●●●によって。
 必ず制限される。

 現状、すべてはただの物語として進行しな
ければならない。

 ※

 空が白い。
 それは冬の色のように感じた。色がないの
に重たく感じる空だった。雪は軽やかに振る
舞っても空よりは重い。だから地上に落ちる。
その色だと思った。北海道にくるのはこれで

三度目だ。
 センセイの招待状が私にまで届いたことは
意外だった。また聖夜協会に戻れというのだ
ろう。私に。言い方を変えるなら、センセイ
の事情を--少なくとも、ある程度は--理
解している私があちら側に戻る必要が生まれ
たのだ。それはもちろん良い傾向ではない。
 私は札幌駅の目の前にあるショッピング
モールに向かう。センセイはそこになんらか
の手がかりを残していく。物語を前に進める

ための。
 スマートフォンが震えた。
 私はポケットからそれを取り出す。それは
冷たくて少し驚く。応答のボタンに触れ、耳
に当てる。短い沈黙。それから声。
「おはようございます」
 戸惑っているような声だ。
 私は応える。
「おはよう」
 男。聖夜協会員のひとりだ。二代目のドイ

ル。
「今はどこに?」
「札幌駅を出たところ」
「そうですか」
 また、短い沈黙。
「なんとなく、貴女は電話にはでないだろう
と思っていましたよ」
「必要なら応じる」
「書店にはなにがあるんですか?」
「まだわからない。到着していない」

「貴女も、知らないんですか?」
「センセイの計画をすべて知っているわけ
ではない」
「では、どうして書店なのかも?」
「推測はできる」
 軽いテストのつもりで、私は応える。
「深い意図はない。おそらく、あの本に近づ
けるためだろう」
「あの本?」
 ここまでは通る。相変わらず、ルールの意

図は読めない。
「なんでもない」
 と私は応える。
 ドイルはしばらく沈黙していたが、深く追
求しても無意味だと考えたのか、話題を変え
る。
「センセイには敵がいるんですか?」
「敵?」
「彼がなにをしているのか、まったく推測が
立たない。お手上げです。でもまあ、みんな

ただの気まぐれだとは思えない」
 確かに彼らからみれば、センセイの行動は
不可解だろう。●●●●●●●●●がルール
として機能しているというのは、少し考えづ
らいことだ。
「敵はいない」
 と私は答える。
「ひとりも敵と呼べる人間はいない」
 あるのは物語と、物語への参加者と、物語
の読者だけだ。

「ならどうしてセンセイは、こんなにもやや
こしいことをするんですか?」
「それはまだもうしばらく公開されない」
「どうして?」
「いずれわかる」
 電話の向こうで小さなため息が聞こえた。
おそらく私に聞かせるためのものだろう。そ
の音は冬の空によく似合っていた。
 ふと思いついて、私は告げる。
「時系列を整理するといい」

「時系列?」
「そろそろ目的地だ」
「ああ、はい。何かわかれば、ご連絡よろし
くお願いしますよ」
 返事をせずに、私は通話を切る。



 センセイが残したものだろうメモはすぐに
みつかった。

 四つの答えが、五つ目の答えを導く。

 ただ一文。それだけだった。
 私はぐしゃりとメモ用紙を丸める。
 それから軽く書店内を見回して、あの本が
ないことを確認した。

四つの答えが、五つ目の答えを導く。


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2014/12/23(火) 11:51 【 EDIT

『ファーブルの視点』

ファーブルの視点1 
※ファーブルの視点:秋葉原(東京)「書泉ブックタワー」にて発見。

 ほんの一瞬、気がつかなければよかった、
と感じたことは事実です。もちろん私にとっ
て彼女は敵ではありません。良き友でありた
いと、常日頃から考えております。あちらが
どう思っているのかは知りませんが。
 正直なところ彼女からは稀に敵意のような
ものを感じます。であればやはり人として、
顔をあわせることに多少の抵抗があったとし
てもそれは仕方がないことだと思うのです。
 秋葉原駅を出ようとしたとき、通路の向こ

うから歩いて来るのは、見目麗しい--と表
現すること自体にはなんの抵抗もない--ひ
とりの女性でした。彼女は我ら場聖夜協会で
は、ノイマンと呼ばれております。
 私はにっこりとほほ笑んで、彼女に声をか
けました。
「これはこれはノイマン、奇遇ですね。おは
ようございます」
 彼女はあからさまに顔をしかめて、さも
嫌々といった様子で、小さな会釈を返してき

ました。
 これはいけません。澄み切った朝の空気に
は似つかわしくない。素気のない態度だと私
には感じられました。
 通り過ぎていこうとする彼女に、私は声を
かけました。
「どこにいかれるのですか?」
 彼女はさも嫌々といった様子で答えます。
 「ドン・キホーテに」
「ほう。ドン・キホーテ?」

「ディスカウントストアの」
「それは存じ上げておりますよ。こんな時間
に一体どうして?」
 彼女は小さなため息をついた。
「紙ふぶきが欲しいんですよ。あと、あれば
ドミノ」
「貴女には似つかわしくないものですね」
「どうしようもない事情があって」
「その事情というのを、よろしければ教えて
いただけますか?」

 彼女がしつこいわねと呟いたような気がし
ましたが、おそらくは空耳でしょう。
「センセイから依頼があった、極秘映像に必
要なものです」
「ああ--」
 なるほど、なるほど。
「一体それは、どのような映像なのでしょうか?」
「極秘だと言っているでしょう」
「ええ、もちろんですとも。とはいえ--」

私はつい余裕の笑みを浮かべてしまいました。
「その映像は私が受け取ることになってお
ります。懇親会を欠席される貴女に代わって
ですよ。私にまで秘密ということはないで
しょう」
「ええ。指示にあった通り、二四日中にはお
送りいたしますよ。ま、子供だましのつまら
ないものです」
「センセイからの指示をつまらないと言っ

てしまうのは感心しませんね」
「センセイの指示に従わないのも。極秘は極
秘です」
 では、と告げて彼女は歩き出してしまい
ました。
 それにしても--紙吹雪? いったい、ど
んな動画を作るつもりなのでしょう。
 センセイが主催される懇親会にふさわしい
ものになっているとよいのですが。正直なと
ころ、不安は残ります。

 ※

 さて目的の書店に辿り着いた私は、活気の
ある店内を進みます。ここになんらかの、セ
ンセイへとつながる手がかりがある--そう
私は確信しておりました。
 ですから、一階、二階……と調査が空振り
に終わっても、不安はありませんでした。そ
れはセンセイと会話を交わしているような安

らかな時間でした。
 ついにそれが見つかったのは、八階に到達
したときでした。その階の、おそらく今は使
われていないレジカウンターに、まるで私に
みつけられるのを待ちわびていたように、一
枚のメモ用紙が乗っておりました。
 そこにはどこか温かみのある文字で、こう記
載されておりました。

 キーのひとつは太陽が照らす文字にある。

 双子の差が重要だ。

 もちろんその真意はわかりません。
 ですがなんとも優美な謎の香りがするセン
テンスではありませんか。
 これは、センセイが私のために残したもの
に違いない!
 そう確信して私は、そのメモ用紙を丁寧に
手帳に挟み、持ち帰ることにいたしました。

キーのひとつは太陽が照らす文字にある。
双子の差が重要だ。


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2014/12/23(火) 11:14 【 EDIT

『ベートーヴェンの視点』

ベートーヴェンの視点1 
※ベートーヴェンの視点:唐崎(滋賀)「本のがんこ堂 唐崎店」にて発見。

 三日ほど前から私はベートーヴェンだ。
 とりあえず好きな偉人を選びなさいといわ
れたのでベートーヴェンにしておいた。彼に
ついて、特別詳しいわけではない。ぱっと思
い出せるのは運命の頭を第九くらいで、一般
常識にも及ばない程度の知識だ。でもその名
前には愛着があったので、まあいいかという
くらいの気持ちだった。潜入調査のための一
時的な名前だし、本当に好きな偉人なんて考
え始めると、とても一晩ではひとりに絞り込

めない。それよりも潜入調査への期待と不安
で胸がいっぱいである。
 どうやらクリスマスイヴに、聖夜協会と呼
ばれる謎の組織の元にセンセイを名乗る謎の
首領が戻ってきて懇親会という名の怪しげ
なパーティをひらくらしいとのことで、「行
く?」と尋ねられたから「そりゃもちろん行
きます」と答えざるを得なかったわけだけれ
ど、いまだに五割くらいどっきりじゃないか
と疑っている。イヴにこんな小粋なサプライ

ズパーティを仕掛けるようなウィットに富ん
だ友人はいただろうか?

 なんにせよパーティに参加する者の義務と
して、まずは招待状に記載されている住所を
尋ねなければならないとかで、私は馬鹿みた
いに忙しい年末進行の中、祝日をまともに休
んで早朝から滋賀県に富んだのだった。

 ※

 滋賀に訪れるのはこれが初めてだ、と一瞬
思ったけれど、琵琶湖で泳いだ記憶があるの
で二度目だ。琵琶湖は身体が浮きづらくてず
いぶん疲れたけれど、口の中がしょっぱく
なったり髪がべとついたりしないのでその辺
りの海よりも好感が持てる。
 目的地は琵琶湖の片隅にある書店だった。
うかがう前にPCの地図で確認すると右半分
に巨大な青い範囲が映ったので海かと思った
がそれが琵琶湖だった。さらに地図を縮小す

ると、元々みえていたのが琵琶湖の下の方の
ほんの狭い範囲だとわかって戦慄した。やは
り琵琶湖は偉大である。
 私は高架になっている駅を出て、歩道の広
い道路をまっすぐに南に走った。寒いと走り
出したくなる。おそらく人体が熱を求めてい
るのだろう。その点でこの辺りの土地は最適
だ。冬の澄んだ空が頭上に広がっていた。視
界を遮るものが少なくて、気持ちがいい。立
派な街路樹の影を同じリズムで踏みつけてい

るとマラソンランナーみたいな気分になる。
 やや入り組んだ道を抜け、再び大通りに出
ると、正面の、家と家のあいだから琵琶湖が
覗く。
 目的の書店は簡素な住宅街にあった。白い
壁と、広い駐車場。そして「本」だけが赤字
になったわかりやすい看板。
 私は店内に入る直前で、呼吸を整える。大
した距離でもないのに息が上がっていた。最
近、身体がなまっているかもしれない。ちょ

うど自動販売機があったので、お茶を買って
飲む。脇の駐輪場に設置されているカプセル
トイに気を取られていると、携帯電話が鳴っ
た。「ドイル」という名前で登録している番
号だった。聖夜協会員のひとりとして紹介さ
れた人物だ。
「やあ。本屋には着いたかな?」
 と受話器から声が聞こえた。
「はい。ちょうど今、到着したところです」
「そう。様子は?」

「まだ店の前なので、何とも」
「それは悪かったね。じゃあ--」
 相手が電話を切る気配がしたので、慌てて
私は叫ぶ。
「ちょっと待ってください!せっかくな
ので聖夜協会のことを少し教えてもらってい
いでしょうか?」
 ドイルさんは、喋り方は柔らかいけれどな
かなか電話に出てくれない。取材のチャンス
を逃してはならない。

「いいよ。なにが知りたいんだろう?」
「聖夜協会って、結局どんな組織なんです
か?」
「簡単に言ってしまえば社交クラブみたい
なものだよ。気の合う人たちがたまに顔を合
わせて、お酒を飲んで、雑談する。残念なが
らそれだけだ」
 それだけなわけがない、と、私のジャーナ
リストとしての第六感が告げている。
「でも主催のセンセイという人は、なかなか

姿を現さないんですよね?」
「ああ、うん。オレもよく事情を知らないけ
どね、たぶん忙しいんだろう」
「どんな人なんですか?」
「さあね。オレも会ったことがないんだ。な
にぶん、新人なものでね」
 君の方が詳しいんじゃないのかい? とド
イルさんが言った。
「え?どうして?」
「だって君、アルベルトの紹介だろ」

「どうやらそうらしいですね」
 確かに私はアルベルトという人物の紹介で
聖夜協会に入ったことになっているけれど、
その人のことも知らない。
「なんにせよ、質問があればアルベルトに訊
いた方がいい」
「アルベルトさんって偉い人なんですか?」
「聖夜協会に上限関係はない。アルベルトは
最古参のひとりだと聞いているよ。とはいえ
彼女も長い間、聖夜協会には顔を出していな

いから、オレも面識はないな」
「そうなんですか」
 アルベルトが女性だということも。私は
初めて知った。
「二四日の懇親会は楽しみだよ。残念ながら
オレには招待状が届いていないけどね。セン
セイとアルベルトがそろって姿を現すという
のは、とても珍しいことだ」
 謎だらけである。なにもわからない。
 とりあえず私は、気になっていた点を尋ね

てみる。
「懇親会って、参加費はいかほどですか?」
 正直、あまりお金はないのだ。
 電話の向こうで、はは、と笑い声が聞こえ
た。
「君は気にしなくていいよ」
「いえでも」
「本当に。ま、友達の家の飲み会にでも誘わ
れたとでも考えればいい。気になるなら、な
にかセンセイにプレゼントを持っていくとい

いよ」
 クリスマス会だからね、と彼は笑う。
「センセイって、どんなものが好きなんです
か?」
「さぁ。子供っぽいものが好きな人だと聞い
ているけどね。男の子が喜びそうなものなら
だいたい気に入るんじゃないかな」
 なかなか難しい。いくらくらいの予算がベ
ストなんだろう? ハンズで買ったもので気
に入ってもらえるだろうか。

「あ、あと、服は? ドレスですか?」
「なんでもいいよ。みんなラフなものだ。カ
ジュアルな格好でいいい」
 その答えがいちばん困るのだ。カジュア
ルってなんだ。フリースでいいのか。それと
も明るい色のスーツとかだろうか。
「ともかく本屋でなにかみつかったら連絡
してね。ああ、それと--」
 彼は笑い声を含んだ声で言う。
「もしアルベルトに会ったら、尋ねてみて欲

しい。貴女のプレゼントはなんですか、と」
「はあ」
 アルベルトさんも、センセイにプレゼント
を持っていくのだろうか。
 じゃあねと言って、ドイルさんは電話を
切ってしまった。なんだか胡散臭い人だな、
というのが私の感想だ。

 ※

 気を取り直して、お茶を飲み切って、私は
本屋に入る。実のところ、この本屋でなにを
すればいいのかもわかっていなかった。なに
かみつかったら連絡してくれといわれても困
る。ここでは本屋にありそうなものしかみつ
かりそうになかった。
 私はセンセイへのプレゼントに頭を悩ませ
ながら、書店をぐるりと回ってみる。男の子
が喜びそうなもの、と言っても、この店の前
にあったカプセルトイで済ませるというわけ

にもいかないだろう。ゲームソフトか? で
もハードを持っているかわからない。ハード
から買うとお金がかかり過ぎるし、もしか
ぶっていたりすると最悪だ。そもそも男の
子っぽいものといっても、ゲーム機というの
は違うだろう。
 と、ぼんやり店内をうろうろしていたら、
後ろから声をかけられた。
「ねぇ、お姉さん」
 小学生くらいの少年が立っている。

「これ、落としたよ」
 少年はメモ用紙を一枚、差し出す。
「ありがと--」
 お礼を言いながら、受け取った。でもそれ
は私のメモではなかった。硬めの、たぶん男
性の字で、こう書かれている。

キーのひとつは、絵画が語る。
 ミレー・ルノワール・ビアスタット・レン
ブラント・ゴッホ・コロー・モネ・ドーソン・

シスレー・ゴッホ。
 世界の偉大な画家たちに感謝を。

聞き覚えのある画家の名前が並んでいる。
 それはそれとして、私は少年に尋ねる。
「ねぇ、クリスマスに何が欲しい?」
 プレゼント選びは苦手なのだ。
 でも少年は首を傾げるだけで何も答えず、
走って本屋から出ていってしまった。

 キーのひとつは、絵画が語る。
 ミレー・ルノワール・ビアスタット・レンブラント・ゴッホ・
コロー・モネ・ドーソン・シスレー・ゴッホ。
 世界の偉大な画家たちに感謝を。


ベートーヴェンの視点2 サプ「レ」イズ→サプ「ラ」イズ
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2014/12/23(火) 10:02 【 EDIT

『【第2部】ワーグナーの視点』

東戸塚 ワーグナーの視点1 
※【第2部】ワーグナーの視点:東戸塚(神奈川)「アシーネ東戸塚店」にて発見。

 変わりようのないものがある。
 真冬の匂い、クリスマスのミュージック、
書店ならではの静かな雑踏。
 それから年の差--もちろん一方が死んで
しまわない限りは、と注釈がつくけれど、い
くら時間が流れてもふたりの人間の歳の差は
埋まらない。
 ひとりが宇宙船に乗り、光みたいな速度で
びゅんと飛び回ってくればまた話は違うのか
もしれない。でもどれだけウラシマ効果が発

生したところで、戸籍に登録されている生年
月日までは影響がないだろうから、結局は
同じなのかもしれない。なんにせよ僕がなん
ど誕生日を迎えてもノイマンよりも年下だと
いう事実は変わりようがなく、ふいに飛んで
くる不条理な命令にも逆らえないのだった。

 ※

「横浜でいいのよ」

 と彼女はむしろ得意げに言った。
「北海道とか熊本とか思わずため息が出る
ような場所もあるけれど、横浜なんてゆっく
り日帰り観光できる距離でしょう」
 なら自分でいけと言いたかった。
 ノイマンはずいぶん前から東京だが、僕は
まだ長野で暮らしている。長野と横浜はずい
ぶん遠い。
「私は別件で暇がないの」
「別件?」

「センセイからちょっとした頼みごとをされ
て」
 簡単に言ってくれる。
「ちょっと待ってくださいよ。僕たちはその
センセイを捜して右往左往してるんですよ」
「貴方は現代の若者らしくない言葉を使う
わね」
「どうでもいいでしょうそんなこと」
 もう僕もだんだん、若者を名乗っていいの
か不安な歳になりつつある--けれど、今は

関係ない。
「センセイに会ったんですか?」
「メールが届いただけよ」
「協会への報告は?」
「したわよ、もちろん。内容の細部はセンセ
イからの指示で秘密だけれど」
「それはそれは。ファーブル辺りが嫉妬で機
嫌を損ねていそうですね」
「そうでもないわ。あの招待状、彼にも届い
たらしいじゃない」

「あ、そうなんですか」
 センセイからふいに連絡があったのは、ほ
んの数日前のことだ。今年は二五日に簡単な
懇親会を開きたい--という旨の、短い招待
状が届いた。それで聖夜協会がざわついてい
て変な気まずさを感じる。
 気まずいのは、招待状が僕の手元にもある
からだ。もちろん僕は、協会内ではとくに目
立つ方でもないし、なんの権威もありはしな
い。実際のところ、その手紙で招待されたの

はノイマンだったけれど、彼女が参加を取り
やめると言って僕のところに回ってきたの
だった。
 ノイマンがパーティを辞退した理由はわか
らない。彼女は大学を出るまで長野で暮らし
ていたくせに、極端に寒いのが苦手だから、
冬場は家から出たがらない。そんなつまらな
い理由で、普通のパーティであれば参加をや
めてもおかしくない。でもさすがに、センセ
イからの誘いを断ったのだから、もうすこし

まっとうな事情があるのではないか、とも思
う。
「センセイからの頼み事ってなんですか?」
 と僕は話を戻す。
「極秘映像の撮影よ」
「へぇ。どんな?」
「極秘だって言ってるでしょう」
「いいじゃないですか。パーティの代役だっ
て引き受けてあげたんだし」
「それ、普通の会員なら泣いて喜ぶことよ」

 まあそうか。
 センセイに会えるのなら、僕としてももち
ろん光栄だ。ただ、羨ましがられる立場だけ
に、やはり気まずくも感じる。
「なんによ、子供っぽい映像よ。この歳で
せっせと色画用紙をハサミで切ってるわ。涙
ぐましい努力だと思わない?」
 一体、どんな映像なんだ。僕は部屋でひと
りきり色画用紙を切るノイマンを想像する。
「軽いホラーですね」

「本物のホラー空間に閉じ込めてあげま
しょうか?」
「嫌です」
「なら横浜ね」
 と、彼女は軽く笑った。

 ※

 センセイからの招待状には奇妙な点があっ
た。送り主の住所がばらばらで、日本中に散

らばっていたのだ。
 だから招待状を受け取った人間が、それぞ
れその住所に行ってみることになった。記載
されている住所はすべて書店のもので、実際
にセンセイが暮らしていた場所ではないこと
は明白だ。
 ノイマンから招待状を押しつけられた僕の
担当は、東戸塚駅からすぐの位置にある大型
スーパーマーケットの3階に入った書店だっ
た。

--さて。
 ここで一体、なにをしろというのだろう?
 僕はとりあえず店内を歩いて回る。一応、
住所を確認してこいという旨の役割は果たし
たわけだから、これで用件は終わりだという
こともできる。許されるなら好きな本を買っ
て、この辺りの喫茶店でのんびり過ごしたい
ものだ。
 店内はすっきりと整理されていて、見通し
がよく、陳列もわかりやすかった。良い書店

は初めて訪れても棚の位置がわかりやすいも
のだと、僕は思う。
 僕は大抵の書店でそうするように、まず新
刊コーナーをざっと眺め、次に文庫本の書架
の前をゆっくりと歩く。くるりと一回りして
から、斜め向かいにみえるコミックのコー
ナーに移動した。
 と、足元に、奇妙なメモが落ちているのを
発見する。

 短い文章がふたつ並んでいる。

 キーのひとつは錠にある。
 文字は点でも、言葉は線だ。

 --どういう意味だろう?
 でも、僕も文章を書くから、なんとなく言
いたいことはわかるような気がした。
 文字と文字は繋がって言葉になり、言葉と
言葉は繋がって文になる。それらは固い絆で
結ばれている。

 僕はメモを拾い上げ、書架の上に置いた。

キーのひとつは錠にある。
文字は点でも、言葉は線だ。


東戸塚 ワーグナーの視点14 奇妙「に」→奇妙「な」
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