2014/07/26(土) 23:50 【 EDIT

『ホメロスの視点』 / 書籍P:137

ホメロス1
※『ホメロスの視点』:三重県鳥羽駅にて発見。手帳(2)、トランプ画像、動画『少年ヒーロー』より。

 こぢんまりとしているがなかなか良いよと
聞いていた文学館に立ち寄ってみたその帰り
に、ホームのベンチに座り、以前から頼まれ
ていた案件をそろそろ片づけることにした。
友人に誘われた縁で、以前によく顔を出して
いた集まりから依頼されたものだ。面倒な話
ではあったが、友人の顔を立てるつもりで引
き受けた。謎解きを好む彼の趣味に合ってい
たから嬉しくなったというのもある。最近は
足が遠のいていたが、彼がいなくなった今で

も趣向は引き継がれているようだ。
 歩いているあいだに、おおよそのアイデア
はできていた。文学館に展示されていた書簡
の中に、与謝野鉄幹のものをみつけて、それ
でぴんときたのだ。そうだ、私は歌をテーマ
にしよう。だが鉄幹ではよくない。短歌は長
すぎる。五、七、五でもまだ長い。自由律俳句
の中の、特に短いものから選ぶことに決めた。
 まず思い浮かんだのは山頭火だ。私はス
マートフォンのメモを開く。

 --まつすぐな道でさみしい
 と入力した。でも、これはいけない。条件
を満たしていない。
 --笠も漏り出したか
 これもダメ。
 --音はしぐれか
 これもダメ。
 --うつむいて石ころばかり
 ダメだ。なかなか難しい。「は」も「か」
も使えないのがつらい。

 じっと考えて、思い当たる。
 --ひとりきいていてきつつき
 これなら大丈夫だ。--いや、だが待て。
正式な表記では、「いて」ではなく「ゐて」だっ
たはずだ。やはりこういった、甘えた改変は
加えたくない。
 とはいえ、私がそらんじられる山頭火の中
には、条件に合う句がなかった。「どうしよ
うもない私が歩いている」などが使えると素
晴らしいのだが仕方がない。およそ五分の一

といってもずいぶん制限されるものだ。そも
そも濁点は避けたい。
 私は句人を変えて考える。
 --夜が淋しくて誰かが笑いはじめた
 素晴らしい句だが、まったく条件に合わな
い。それに長すぎる。
 --ずぶぬれて犬ころ
 ふむ。おおよそ条件には合っているが、や
はり濁点が気になる。
 --みどりゆらゆらゆらめきて動く暁

 まったくダメ。もちろん、作品の話ではな
い。
 --墓のうらに廻る
 頭からダメ。
 と、ふいに思い当る。尾崎放哉であれば、
あの句があるではないか。
 私はスマートフォンのメモにこれまで並べ
た句をすべて消し、新たに入力する。
 読み返して、確信した。
 うん。これだ。これしかない。

 尾崎放哉も、まさかこんな理由で自身の句
が選ばれることになるとは、予想もつかな
かっただろう。
 私はひとり、にやりとして、軽く咳払いし
てみた。
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ホメロス1 ホメロス2 ホメロス3 ホメロス4 ホメロス5
ホメロス6 ホメロス7 ホメロス8 ホメロス9 ホメロス10

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【条件】「は」「か」は使えない。旧仮名遣いは使わない。およそ五分の一。濁点は避けたい。

「せきをしてもひとり」とフリック入力【右左左左右下左下左】
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