2014/07/26(土) 23:51 【 EDIT

『ワーグナーの視点』 / 書籍P:143

ワーグナー1
※『ワーグナーの視点』:長野県「黒姫童話館」にある喫茶室「時間どろぼう」にて発見。
 手帳(1)、トランプ画像、動画『少年ヒーロー』より。

「そんなわけで、ここはあなたに任せたいの
よ」
 とノイマンは言った。
 僕はため息をつく。
「僕だって大学を出たら、この辺りに残って
いるとは限りませんよ」
「あなた、作家になりたいんでしょ?そん
なのどこにいてもできるじゃない」
「就職はするつもりですよ」
「ならまた後任を捜せばいいでしょ」

 簡単に言ってくれる。
「長野にどれだけ会員がいるっていうんで
すか」
「知らないわ。上手いことやっといて」
 上手いことってなんだよ、と僕は思う。な
にもかも上手いことやれたらこの世界には困
難なんてない。
 ノイマンはアイスコーヒーに口をつける。
「ま、実際のところ、ここに会員がいなくて
もそれほど問題ないのよ」
「そうなんですか?」
 謎を捜しにくる会員は、この童話館を目指
してやってくるはずだ。
「あなただって別に、毎日ここに張りついて
いるわけじゃないでしょ。場所を特定できた
らドイルに聞けばいいじゃない。会員の連絡
先は、彼がみんな知ってるんだから」
「そういうのって、ありなんですか?」
「ドイルの気分次第ね」
 なんだか釈然としない。

「だったら初めから、こんな面倒なことさせ
なければいいのに」
「センセイはなんでもイベントにして盛り
上がりたいのよ。うちの会から遊び心を引い
たら、酔っ払いくらいしか残らないわよ」
 そんなものだろうか。
 まあいい。問題は、問題が起こってから考
えた方が効率的だ。
「ノイマンはどんな謎を作ったんですか?」
 と僕は尋ねた。
「これよ」
 笑って、彼女はタブレットを差し出した。

 そのタブレットには、3Dで描写された部
屋が映っていた。一人称視点の、ダンジョン
を探索するゲームの一場面みたいだ。
「なんです、これ」
 と僕は尋ねる。

「ゲームよ」
 とわかりきったことをノイマンは答える。
仕方なく僕は、画面に触れてみた。
「左右にフリックすることで、周囲を見渡せ
るようだ。正面の壁には「上」、右手の壁に
は「右」、左手の壁には「左」、そして背後の
壁には「下」と書かれている。
 僕--というか、ゲームの主人公--は、
正方形の部屋の一角に立っている。壁に書か
れた上下左右に従うなら、右下の隅というこ
とになる。
 部屋が正方形だとわかったのは、真四角の
タイルが、縦横に4枚ずつ、ぜんぶで16枚
敷き詰められていたからだ。白いタイルが9
枚と黒いタイルが7枚。その色は、一見する
限りではランダムに配置されているようだっ
た。
 上と書かれた壁に隣接する、4枚のタイル
は、左から順に白、白、黒、黒だ。二段目も
同じく、左から白、白、黒、黒。でも三段目

は黒、白、白、白。そして下と書かれた壁に
面したタイルは、白、黒、黒、白。右下の
白いタイルの上に主人公はいる。
 僕は画面から顔を上げて、ノイマンに尋ねた。
「これ、どうしたらいいんですか?」
「あなたのキャラクタのすぐ後ろに、扉があ
るでしょ?」
「ええ」
「ここの部屋の床がみんな白くなっているあ
いだだけ、その扉が開くわ」
 よくあるタイプの、踏めばタイルの色がか
わるタイプの謎解き問題みたいだ。
 勝利条件は「すべてのタイルの色を白くし
た状態で、右下のマスまで戻ってくる」こと
だ。ノイマンが作ったにしてはわかりやすい
問題だなと思った。
「それから--」
 ノイマンはつけ足す。
「8歩以内にクリアすること。9歩目を踏み

出したとき、灰色の男たちがやってきて主人
公を連れ去ってしまうわ」
 なるほど。この童話館ではエンデを大きく
扱っている。モモにちなんだのだろう。
 僕は「左」を向いた状態で、画面をタップ
してみる。主人公が一歩進み、新たに踏んだ
マス--いちばん下、右から2番目--の色
が、黒から白に変わった。
 やはり踏んだ色の床の色がかわるようだ。
クリアはそう難しくないだろう、と思いなが
ら、もう一歩「左」に進む。足元のマスがま
た、黒から白に変わる。
 --と、そこで気づいた。
 初期配置のときの、黒いマスをすべて踏んで
右下のマスまで戻ろうと思えば、最短ルー
トでも12歩かかる。8歩以内ではクリアなんてできない。
「どういうことですか?」
 僕が睨むと、ノイマンは笑って、
「周りを見渡してごらんなさい」

 そう答えた。
 僕は画面をフリックして、愕然とした。
 --マスが、黒い。
 スタート時よりも黒いマスが増えている。
 現状--スタート時から、左に2歩進んだ
時点--の、マスの色はこうだ。
 いちばん上の段は、左から白、白、黒、黒
で変わっていない。上から2段目も変わらず
白、白、黒、黒。だが3段目は黒、白、黒、黒。
ひとつもタイルを踏んでいないのに、黒いマ
スが2つも増えている。さらにいちばん下の
段は、白、白、白、黒。スタート地点だった
右下のマスが黒くなっている。
 --さすがノイマン。意地が悪い。
 ただ踏んだマスの色が変わるわけではない
ようだ。でも前だけみて進んでいると、足元
のマスの色が変わっていくようにしかみえな
い。迂闊だった。わざわざ3Dマップにして
いる時点で、この手のトラップがあることに
気づくべきだった。

僕は一歩、右のマスに引き返してみる。周
囲を見渡して愕然として。
 --また黒が増えた。
 いちばん上の段と、2段目の計8マスには
相変わらず変化はない。でも3段目は4マス
すべてが黒になっている。いちばん下の段は
黒、白、黒、黒。たった一歩で、3つも黒のマスが増えた。
 でも、これでなんとなく、床の色が変わる
ルールがわかった気がする。
 確認のために、僕は一歩、上の方向に移動する。
 上から2段は変化がない。
 3段目は黒、黒、白、黒で、新たに踏んだ
タイルだけが白い。いちばん下の段は黒、黒、黒
白。先ほどまで白かったマスが黒に、踏んで
もいない右下のマスが白に変化している。
 --ルールはわかった。
「どうすればリセットできるんですか?」
 と僕は尋ねる。

「ゲームオーバーになりなさい」
 平然とノイマンは答えた。仕方なく僕は、
適当に移動する。
 9歩目で、少女が灰色の男たちに取り囲ま
れるゲームオーバー画面が流れた。
「残念だったわね」
 と嬉しげにノイマンが言った。
「次は解きますよ」
 と僕は答えた。
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ワーグナー6 ワーグナー7 【画像】ワーグナ8 【画像】ワーグナ9 ワーグナ10

BtcxU5MCcAEgI9i.png 【上上左下左右右下】
BtcxZ-vCAAAcfGV.png 【上左左右上右下下】
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