2014/08/11(月) 23:59 【 EDIT

8月11日(月)

8月10日(日) ← 3D小説「bell」 → 8月12日(火)

――水曜日のクリスマスには100の謎がある。

【再】21番目の謎は、彼らはどこにいるのか? だ。

★八千代へ:八千代さん突然だが申し訳ない。
 聖夜協会を調べている者だが15日付近に貴方が襲われる可能性が高い。気をつけてくれ ※8/10


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■佐倉みさき/8月11日/11時50分

 鹿児島での私たちは、いままでとは雰囲気が違っていた。
 まずひとつに、ニールがいつも以上に、機嫌が悪そうだったこと。
「こんな街の、どこに行けってんだ?」
 と彼はなかばケンカ腰に言った。
 ふたつ目はノイマンの返答だ。
「どこにも行かなくていいわよ」
「ああん?」
「うるさいわね、ニール」
「どういうことだよ?」
「知らないわよ。鹿児島には現地めぐりのリストが存在しないの」
「ならどうしてこんなところまで来たんだよ?」
「さあね。上から言われただけよ。貴方も同じでしょ」
 なんだかぎすぎすした雰囲気のまま、私たちは鹿児島駅から路面電車でほんの数駅だけ移動した。

       ※

 路面電車を降りてすぐ、私たちはこぢんまりとした建物の2階にあるカフェに入る。
 床も壁も白い、さっぱりとした店内だ。窓には青や緑、オレンジの色がついたガラスがはまっていて、趣味の良いイラストみたいにお洒落だ。
 私たちは窓辺のテーブルに座る。
 相変わらず不機嫌そうな口調のままで、ニールはアイスコーヒーを注文した。私とノイマンはカフェラテを頼む。
「さっさと思い出せよ」
 とニールが私を睨んだ。
 なぜだかは知らないけれど、よほどこの辺りが嫌いなようだ。
「1枚目は、これよ」
 と、ノイマンがイラストを指さす。
 1番のイラストだ。
1.jpg
 それは革靴のようだった。
「安定?」
 と、私はイラストに描かれた文字を読み上げる。
「なにか、思い出す?」
 尋ねられてもわからない。私は首を振った。
 これまでとは違う。
 まったくかけらも、なにも思い出せない。革靴についても、安定という言葉についても、それから鹿児島についても。久瀬くんとなにか話をした記憶はなかった。
 なのに、あの感覚はやってきた。
 まるで酔いのような、眠気のような。
 意識が抜け落ちていく、いつもの奇妙な現象に身をまかせ、私は目を閉じる。


★★★該当するカフェを「SANDECO COFFEE(サンデコ珈琲)」と推測。

■佐倉みさき/8月11日/12時

 まぶたの裏側には、やはり白いスクリーンが映っていた。
 だが、そのスクリーンに表示される文字さえ、これまでとは違っていた。
 ――これが、最後の儀式です。
 明朝体の、綺麗な、温度を感じさせない文字が流れていく。
 ――このエピソードは、彼のものではありません。
 彼。久瀬くん?
 久瀬くんではないの?
 ――これはある男のエピソードです。ですがこのエピソードはすでに失われています。その男自身さえ忘れており、通常は思い出すことがありません。
 どういうことだ。
 ある男って、だれだ。
 誰も知らないエピソードを、どうやって思い出せというんだ。
 ――これは書き換えられた記憶を、それでもみつけだすための儀式です。
 と、スクリーンの上の文字は言った。
 ――彼の真実をみつけだしてください。3枚目までの物語は、すでに「描写」されています。必要なのは、結末だけです。

       ※

 意味がわからなかった。
 私は目を開く。
 こちらにむかって、ノイマンがスマートフォンを差し出した。
 ――なんにせよ、これまで通りにするしかない。
 私はそう覚悟を決めて、いつもの通りに「@4koma_memories」のアカウントにツイートする。

 みなさん、いつもありがとうございます。
 今日で最後なので、また力を貸してください。


■佐倉みさき/8月11日/12時04分

1.jpg → 22_201408051057510e4.jpg →40.jpg
1→22→40→。離婚した両親。父親のもとで暮らした男は父が用意した革靴が嫌いだった。男はクリスマスに母親から履き潰すための靴を買ってもらったが、なかなか履けずに隠していた。しかし、通いの家政婦に見つかり捨てられてしまう。までは分かっている。

       ※

 はやい!
 ――どうして、わかるんだろう?
 私は不思議だった。
 1番。22番。40番。
 革靴の「安定」とスニーカーの「冒険」は、なにか繋がりそうだなと思うけれど、40番にはまったく発想がいかなかった。
 けれどスマートフォンの向こうの人たちは、このエピソードを正確に知っているようだ。
 目を閉じる。
 するとスクリーンには、鮮明な映像が映っていた。

       ※

 映像の中にいるのは、ある少年だ。
 知らない少年。中学生か高校生か、それくらいだと思う。
 その少年は、なんだかふてくされているように、顔をしかめていた。
 裕福な家庭で育った少年。
 でも彼には母親がいない。両親が離婚して、家を出ているのだ。
 少年は父親によって押さえつけられている。
 彼はぴかぴかの革靴を恨んでいた。なんだかそれが、窮屈に自分自身を束縛するものの象徴のように感じていた。
 だから、母親に会ったとき、少年はクリスマスプレゼントにスニーカーをねだる。
 どこにでもいける靴を。この束縛から、解放してくれる靴を。
 母親は約束通り、スニーカーを贈ってくれる。
 でも、少年はその靴を履くことを躊躇う。父親にみつかると、怒られるかもしれないから。
 そうしているあいだに、しまっていたスニーカーは家政婦に発見されて、捨てられてしまう。
 ――そこで、映像が途切れた。

       ※

 ふと、思い当る。
 ――あの少年は、ニールではないか?
 確信はできない。ニールはいつもサングラスをかけているから、目つきなんかでは判断できない。
 でも、なんとなくその少年は、ニールに似た、ひねくれた雰囲気を持っていた。それに「どこにでもいける靴」というのは、彼を想像させるフレーズだった。
 なんにせよ、きっとこれが、3コマ目までのストーリーなのだろう。
 残りはあと、1コマだけだ。


■佐倉みさき/8月11日/12時13分

38.jpg
38
結局その男は愛想笑いしかできなくなった

       ※

 38番。困ったような顔で、笑みを浮かべる男性のイラスト。
 まぶたの裏側で、光がはじけたような気がした。
 ――愛想笑い?
 それは、少なくともニールには、似合わない言葉だった。
 きっと彼がもっとも嫌うもののひとつだろう、と思った。
 なのにまぶたの裏側には、諦めたような表情で愛想笑いを浮かべる青年がいた。
 はっきりとわかる。
 確かに、彼はニールだ。
 ニールが真面目ぶったスーツを着て、愛想笑いを浮かべていた。
 似合わない、とは不思議と思わない。
 なぜだかしっくりきた。それはきっと彼自身が、愛想笑いに馴染んでいるようにみえたからだろう。
 今のニールとはまったく違う彼。
 なのに妙に、現実的な彼。
 私は目をひらく。
 斜め向かいのニールに視線を向ける。
 彼は額を右手で抑えて、苦しげに口元を歪めていた。


■佐倉みさき/8月11日/12時18分

1.jpg → 22_201408051057510e4.jpg → 40.jpg → 38.jpg
1→22→40→38
男は革靴に象徴される安定した人生に反発する→彼はスニーカーを履いていけるような冒険を求めていた→しかし大切なスニーカーを捨てられてしまう→彼は自分が鳥の籠と同じだと諦め愛想笑いしか浮かべられなくなった
とか?

       ※

 意外だった。
 きっと、今回のエピソードの「ある男」とは、ニールだ。
 タイムラインに現れたそのエピソードは、まったく彼らしくはなかった。悲しいけれど一般的な、現実的な挫折の物語に思えた。それは今のニールにはつながらない。なのに。
 白いスクリーンに、文字が走った。
 ――条件を達成しました。
 ――リュミエールの光景、起動します。
 これで正解なのか。
 これが、正解なのか。
 事情を呑み込めないまま、私はその「光景」を眺める。


■どこにだっていける男の視点

 15年前のオレは、どこにでもいるような中学生だった。そこそこ勉強ができて、愛想笑いが得意だった。
 オレと同じ人間なんていない。そう叫びたくなる。でもきっとオレと同じような中学生はこの世界中にいて、オレと同じように苛立ちながら、オレと同じようにいろんなことを諦めている。きっと、そういうことなんだと思う。

       ※

 親父はそれなりに金を持っていたから、世間的には不自由のない裕福な家庭にみえただろう。いかにも最近の金持ち風のスタイリッシュな家に住み、美味いものの感激を忘れるくらいに美味いものを食い、いちいちブランドの名前がついた服を着ていた。
 うちの家に足りないものがあるとすれば、それは母親くらいなものだった。彼女が家を出たのは、オレがまだ小学校を卒業する前のことだ。母はオレを引き取りたがっていたと聞いている。でももちろん親父はそれを許さなかったし、結局オレは、強い主張もなく、あの家で生活することになった。
 傍からどう見えようが、オレには自由なんてものはなかった。食事も、日常も、ささやかな趣味も、すべて管理されて過ごした。
 毎朝、ぴかぴかの革靴を履くたびに、ひどく気分が落ち込んだのを覚えている。
 それは心が躍らない靴だった。親父によって整備が行き届いた、でも花ひとつない道をまっすぐに、同じペースで歩くためだけの靴だった。
 ――こんなんじゃ、どこにも行けねえよ。
 毎日、ぴかぴかに磨かれた革靴をみるたびにオレは、内心でそうぼやいていた。

       ※

 オレは親父が嫌いだった。
 きっと親父も、オレと同じように不自由な人生を歩んだのだろう。親父の会社は祖父が興したもので、あいつはそれをただ受け継いだだけだ。綺麗に整備された道をまっすぐに歩いてきたあいつは、オレにもそれを強要することで、自分の人生を肯定したがっているようにみえた。あるいは、ゾンビが仲間を求めて新たなゾンビを生み出そうとしているようにも。
 オレが親父の葛藤に気づいたのは、彼のいかにも優等生的な書斎に、一枚の古臭いアルバムが飾られていたからだ。それはビートルズの『アビー・ロード』だった。そのチープな彼自身へのアンチテーゼは、彼を一層うすっぺらにみせた。

       ※

 母には、親父に内緒で会っていた。
 それが親父に対する、唯一の反抗みたいなもので、今思えば自分のちっぽけさが嫌になる。堂々と会いたいと言い、堂々と会えばよかったのだ。あんな家さっさと出ればよかったのだ。
 きっと当時のオレだって、今と同じように頭ではそうわかっていた。でもオレはいつもこっそりと、学校の帰りや、親父のいない休日なんかに、息を潜めて母に会っていた。もちろんあの、ぴかぴかの革靴を履いて。
 母は誕生日とクリスマスに、オレにプレゼントをくれた。一四年前の冬、欲しいものを尋ねられたオレは、「スニーカーが欲しい」と答えた。安っぽい、ぼろぼろに履き潰すためのスニーカーが欲しい、と。
 オレは自由が欲しかった。
 どこにでもいける靴が欲しかった。

       ※

 ロンドンにあるアビー・ロードはずいぶんな観光地になっているらしく、ウェブカメラで二四時間中継されていた。
 母が出て行った頃から、親父はよくその動画を眺めるようになった。
「その気になりゃ、オレは明日にでもここにいけるんだぜ」
 と親父はよく言った。でもあいつがその映像に映り込むことはなかった。
「いつだってここにいけるんだ」
 あんたはそこにはいけねぇよ、と内心で応えながら、オレは愛想笑いを浮かべていた。

       ※

 母はクリスマスに、スニーカーを贈ってくれた。
「たくさん履いて、ぼろぼろにしてね」
 と母は言った。
「また買ってあげるから、好きなだけ走り回ってね」
 オレは嬉しかった。本当に。それはどこにでもいける靴なのだと思った。
 でもオレは、そのスニーカーを箱に入れたままベッドの下にしまい込んだ。たまに、夜中にひとり、部屋の中でそのスニーカーを履いてみたことはある。でも外には出かけなかった。
 オレは親父を怖れていた。
 もしあいつに、このスニーカーのことがばれたらきっと、ひどく叱られる。すぐに捨てられてこれはオレのものじゃなくなる。そうわかっていた。だから履けなかった。
 でも、そんな警戒は無意味だった。
 ある日学校から帰ってみると、オレのスニーカーはなくなっていた。通いの家政婦にみつかって捨てられたのだとわかった。

***** 以上は、「ある男の視点1」「ある男の視点2」「ある男の視点3」にて描写済み。以降は初出。 *****

 許せなかった。
 それはたぶん、水滴が一粒ずつ落ちて、溢れ出す最後の一滴みたいなものだったのだと思う。
 管理された、なんの自由もない、ただ安定した、どこにもいけない生活に、我慢ができなかった。
 オレのスニーカーはゴミ袋につっこまれて庭のポリバケツの隣にあった。オレはそれを取り出す。ふざけるな、と内心で叫び声を上げる。こいつを汚していいのはオレだけなんだ。こいつはオレの宝物なんだ。勝手に人のもんゴミにしてんじゃねぇよ。
 オレはぴかぴかの革靴を脱ぎ捨て、ゴミ袋に突っ込む。それからスニーカーに足を通した。ぎゅっと靴紐を結ぶ。それは初めからオレの身体の一部分だったみたいに、ぴったりと馴染む。
 ふざけるな。オレは自由だ。
 そう叫びながら足を踏み出す。
 ほんの一歩。とたん、辺りの景色が一変した。いつの間にかオレの目の前には親父がいた。何度かみたことのある、親父の会社の社長室だ。親父はデスクに座り、驚いた風にこちらを見上げている。
「あんたとは違うんだ」
 オレは親父に指をつきつける。
「オレは、どこにでもいけるんだよ」

       ※

 そのプレゼントが「ニールの足跡」と呼ばれることを、オレは後になって知った。
 ほんの一歩。それだけで、どこにだっていけるんだ。
 オレは翌日、アビー・ロードのウェブカメラに向かって指をおっ立てて、そいつを金属バッドで叩き壊した。『マックスウェルズ・シルヴァーハンマー』を口ずさみながら、笑って。
 その風景を親父がみていたのかは知らない。どうでもいいことだ。
 オレは自由だ。
 どこにだって、いけるんだ。


■佐倉みさき/8月11日/12時25分

 ――違う。
 白いスクリーンに流れたエピソードは、きっと確かにニールのものだったけれど、タイムラインのストーリーとは結末の部分がまったく違う。
 私がみたのは愛想笑いなんて少しも関係しないエピソードだった。
 ただ暴力的で、傲慢な、今のニールに繋がる物語。
 目をひらいて、私は彼に視線をむけた。
 空調のよく効いた店内で、ニールは額に汗を浮かべて、頭を抱えてうつむいていた。眉間には深い皴が刻まれている。なにか悪夢にうなされているようでもあった。
 ノイマンが困ったような声を出す。
「一体、どうしたっていうのよ?」
 ニールはうつむいたまま、低い声でつぶやく。
「嘘だ」
 嘘。なにが。
 ニールがゆっくりと立ち上がる。
 そのままふらふらと、どこかに歩いていく。
 その姿は深い傷を負った獣を想像させた。誰の目にも触れないところに身をひそめ、誰にも知られないまま息を引き取っていくような。尖った、けれど弱々しい足取りだった。
 ノイマンが声をかける。
「どこに行くの?」
 ニールは足を止め、ちらりとこちらを振り返る。
「どこだってだよ」
 掠れた、細い声で彼は言う。
「オレは、どこにだっていけるんだ」 
 それは真実のはずだった。
 彼はたった一歩で、どこにだっていけるはずだった。
 なのに今のニールは、とうていそうはみえなかった。一歩足を踏み出すことにずいぶん苦労しているようにみえた。
 もがくように、よたよたと歩き、乱雑な手つきでドアを開けて彼は店を出た。
 私はノイマンに視線を向ける。
 どうすればいいのかわからなかったのだ。
 ノイマンは真剣な表情で、40枚のイラストを睨んでいる。
 私は彼女に尋ねてみる。
「リュミエールって、どんな人なんですか?」
 これで最後だ、とあのスクリーンには書かれていた。
 一体、リュミエールはなにを思って、私たちにこんなことをさせたのだろう?
「センセイと一緒に、協会から姿を消したメンバーのうちのひとりよ。私もよく知らない。彼女が協会にいたころに、何度か会っているけれど、それほど親しかったわけじゃないわ」
「リュミエールの光景って、なんですか?」
「それは貴女の方が詳しいんじゃない?」
 ノイマンは首を傾げる。
「推測だけれど、貴女はあのプレゼントの効果を体験していたんでしょう?」
 嘘をつく気にもなれなくて、私は頷く。
 タイムラインの向こうの人々が「エピソード」を教えてくれるたびに、私はリュミエールの光景をみた。
 尾道までは久瀬くんの過去を。
 でも今日はきっと、ニールの過去を。
「今日のニールは、今までの貴女によく似ていたわ」
 ――彼も、リュミエールの光景をみていた?
 どうして。
 一体、リュミエールの目的はなんだ。
 私に久瀬くんの過去を思い出させたかったのではないのか。ニールになんらかの「光景」をみせることが、本来の目的だったのか。
 ノイマンは頬杖をつく。
「なんにせよこれで、上からの指示は一通り終わったわ。あとはのんびり過ごしましょう」
「ニールを、放っておいていいんですか?」
「いちいち面倒をみなければいけない歳でもないでしょう」
 ノイマンはテーブルの上のスマートフォンを手にとる。
「彼らにお礼を言って、それでお終いにしましょう」
 彼女はツイッターに何か書き込もうとして、眉を寄せた。
「どうしたんですか?」
「変ね。操作できない」
 私もスマートフォンを借りて、画面に触れてみる。
 でもノイマンが言う通り、書き込みのアイコンに触れても、反応はなかった。
 ――故障?
 首をかしげていると、目の前で。
 勝手に、タイムラインに新しい書き込みが生まれた。

       ※

 みなさん、お疲れ様でした。
 目的を達成いたしましたので、これで「儀式」は終了です。
 最後に、ある人物からのメッセージを記載いたします。

 水曜日のクリスマスには100の謎がある――

 51番目の謎は、プレゼントとはなんなのか、だ。
 52番目の謎は、プレゼントはなぜ存在するのか、だ。
 53番目の謎は、プレゼントはどうすれば壊れるのか、だ。

 それではみなさん、ご協力、ありがとうございました。
 (リュミエール)

       ※

「どういう意味ですか?」
 と私はノイマンに尋ねる。
 彼女は顔をしかめていた。
「私にもわからない。それに――」
 ノイマンは私の手の中から、するりとスマートフォンを奪い取り、電源を落としてしまう。
「たぶん、貴女が知るべきことじゃないわ」
 なんだかもやもやした。
 私は大枠では、聖夜協会の指示で英雄――久瀬くんの過去を探しているのだと思っていた。でも本当は、まったく別のことをさせられていたのではないか?
 ノイマンは顔をしかめている。
「とりあえず、美味しいものを食べましょう」
 そう言って彼女は、メニューをひらいた。

       ※

 すっきりしないまま、私たちはやたらと可愛らしい「白熊」のかき氷を食べた。もやもやした気分でもそれは美味しかった。
 私たちがいたカフェは、本棚に数学の参考書が並ぶ、特徴的なお店だった。夜には数学の塾になるらしい。
 店を出るときに、ノイマンが言う。
「どこか、いきたいところはある?」
 私は首を振る。
 今はどこにもいきたくなかった。
 ただ、自分が置かれているわけのわからない状況を、少しでも理解したかった。


【あるお店の営業日に関するお知らせ】鹿児島のあるカフェに関してご連絡いたします。
・その素敵なカフェは、ふだんは火曜、水曜が定休日なのですが、
 13日から15日までお盆休みとなっており、一方12日(火曜)は営業なさっているとのことです。
 また、そのお店は「行かなければ物語が先に進まない」訳ではありませんので、頑張りすぎる必要はありません。
 でも本当に素敵なお店ですので、足をのばせる方はぜひご来店ください!

★★★鹿児島のカフェ「SANDECO COFFEE(サンデコ珈琲)」にて
 『どこにだっていける男の視点』 / 『どこにもいけない男の視点』発見。

『どこにだっていける男の視点』

・ある男(ニール):自由の証であるスニーカーを選ぶ。ほんの一歩でどこへでも行ける。そのプレゼントは「ニールの足跡」。
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どこにだっていける男の視点】にて公開済み。「ある男の視点1/2/3」に加筆。これまでの生活を象徴する革靴を放棄して、自由の証であるスニーカーを選んだ男。「オレは、どこにでもいけるんだよ」ほんの一歩でどこへでも行ける。そのプレゼントは「ニールの足跡」。


『どこにもいけない男の視点』

・ある男(ニール):全てを諦めて愛想笑いを浮かべている。
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「ある男の視点1/2/3」に加筆。自由の証であるスニーカーを手放し、全てを諦めて愛想笑いを浮かべる男。


★スマホを所持している誰かへ:こんばんは。
 先日は状況をよく確認せずに 窃盗犯呼ばわりしてしまったことは謝罪したい。
 さて,先日の君からの「重要な友人」となるための条件について私もよく考えてみた。
 その結果、君にまずひとつ情報を伝えよう。「英雄の証は四国にある」ということだ。
 私は是非とも君と協力していきたいと思っている。
 そのために、私が君の条件を飲んだように、私にも君を重要な友人として迎え入れられるよう
 こちらのお願いも聞いていただきたい。何度も言うようで申し訳ないが、久瀬太一に会ってもらいたい。
 彼は私の調査の一部を請け負っている。彼と繋がりを持つのは君にとっても有益だろう。
 また、彼と会ってスムーズに連絡を取れるようになることは、顔を見せたくない私からすると重要である。
 彼と会い次第、そのスマートフォンに連絡を入れよう。よい返事を期待している。
 →【誰かからのメール】ご連絡、ありがとうございます。また、貴重な情報、ありがとうございます。
 了解いたしました。必ず数日以内には、このスマートフォンを久瀬さんにお返しいたしましょう。
 その点はお約束いたしますので、ご安心ください。
 ところで私はまだいくつか、あなたにお尋ねしたいことがあります。
 あるいはあなたの疑問にも、私はお答えできるのではないかと考えております。
 そこでひとつ、ゲームをしませんか?
 聖夜協会では知性を重んじます。知識ではなく知性。
 それは様々な謎を愛したセンセイに由来するものですが、私も気に入っています。
 ですが残念ながら、私は謎を作る方はからきしです。一方で、解く方にはそれなりの自身があります。
 あなたに興味がおありなら、私に「謎」を出題してみませんか?
 もし私が1問解ければ、あなたは私の質問に、正直にひとつ答える。
 もし私が1問解けなければ、私はあなたの質問に、正直にひとつ答える。こんな方法でどうでしょう?
 こちらは3問程度を所望します。1問10分、30分時間をいただければいい。
 そのあいだに、私がひとつしか問題を解けなければ、私はあなたの質問に、2つ答える。
 かわりにあなたも、私の質問にひとつ答える。
 もちろん私がひとつも答えられなければ、ただ私があなたの質問にみっつ答えるだけです。
 あまりにずさんなのも考えものですが、時間をかけても仕方がありません。
 明日の夜に細部を詰めて、明後日の夜にゲームをする。こんなスケジュールでどうでしょう?
 あなたと一緒に遊べるのを、楽しみにしております。
★スマホを所持している誰かへ:君はプレゼントを持っているか?それもこのゲームが有利になるプレゼントを。
 それだけは公平のために答えてくれ。こちらは持っていない
 →【誰かからのメール】なるほど、もっともなご質問です。残念ながら私は、プレゼントを持っておりません。
 私が協会に入ったときにはもう、センセイはいらっしゃらなかったのです。ご安心してお受けください。
★スマホを所持している誰かへ:謎作成についての条件を聞いてくれないか?
 たとえば詰将棋のような、その謎を解くのに別途知識が必要なものを用意していいのか、
 あるいは問題文と知恵だけで溶けるタイプにしなければならないかあたりの条件は、問題作成に必須である。
 クロスワードも知識は要るしね。
 →【誰かからのメール】おっしゃる通り、問題作成にはルールが必要です。
 下記の4つのルールに従って謎を作成していただけましたら幸いです。
・ルール1
エレガントな答があること。
善意の第三者からみて、屁理屈と感じるような解法はおやめください。
また、これは紳士の遊びですから、あまりに下品な問題も避けていただけましたら幸いです。
・ルール2
もちろん出題者はその答を知っており、答え合わせで明確に提示できる問題にしてください。
たとえばミレニアム懸賞問題などでは、さすがにお受けできません。
・ルール3
日本の義務教育で学ぶ程度の知識で解ける問題でお願いします。
専門的な知識や、限定された個人しか知らない情報が必要・日本語以外での出題はお受けできません。
求めているのは知識ではなく、あくまで知性です。
・ルール4
人間がメモ用紙とペン以外に頼らずに10分以内で解ける問題であること。
10の100乗番目の素数を答えよ、といった問題ではお受けできません。
詰将棋などは、高度な問題になりますと、どうしても専門知識が必要となりますのでおやめください。
クロスワードなどに関しましては、常識的な内容でしたら問題ありません。
★スマホを所持している誰かへ:ゲームの勝敗の結果行った質問で,
 たまたま答えを求められた側が答えを有さない場合でも,それは質問を行った数に入ると理解してよいか?
 →【誰かからのメール】確かにゲームが終わったあとで、互いの答えが「わからない」では興ざめです。
 ですから、ゲーム本番を明後日として、明日の夜には「互いの質問」を用意できればと思います。
 つまり同じ数の、「相手が答えられる質問」を事前に準備して始めましょう。
 もちろん私は全能ではありませんから、答えようのない質問もございます。
 明日の夜までに少なくともみっつ、優先順位をつけて質問を考えておいていただけましたら幸いです。
★スマホを所持している誰かへ:そのルールを互いに適用するとした場合、
 それに抵触する問題は無効試合としてよいか
 →【誰かからのメール】ルールはあくまで出題用で、
 あなたにご作成頂く謎に問題がないかのみをチェックするものです。
 その上で、意図せずルールに抵触したものは無効試合といたしましょう。
 どちらも質問には答えない、という形で問題ありません。
★スマホを所持している誰かへ:ルール3の義務教育程度の知識という前提と、
 日本語以外の出題はお受けできないという条件が矛盾している。中学生でも読める程度の英語はどうなるのか?
 →【誰かからのメール】おお、書き方に語弊があり、申し訳ありません。
 義務教育レベルの英文が関係する問題でしたらお受けいたしましょう。
★スマホを所持している誰かへ:もう1つだけ条件としてこのゲームの勝敗にかかわらず、
 終わり次第その日に久瀬君にスマホを返すと誓ってほしい
 →【誰かからのメール】まず、勝敗にかかわらず、スマートフォンはお返しいたします。
 期限に関しましては、そうですね。
 お受けいただければ、必ずゲームの翌日にはお返しいたします、でいかがでしょう?
★スマホを所持している誰かへ:条件については諸々確認した。
 しかしゲームの開催やルール設定など、あなたから提示された条件だけで私が受けるのでは一方的すぎるので
 こちらからも条件を提示させていただきたい。
 明日提示された質問を確認し、私にとってゲームに参加する利点があると判断したなら
 私も喜んでゲームに参加させて頂こうと思う。
 それまでの期間はお互い質問を用意するのに集中する期間とするのはいかがだろう。
 明るい返事を期待しているよ。
 →【誰かからのメール】なるほど、おっしゃる通りです。
 お受けいただくか否かは、明日、質問が出揃ってからがフェアかと思います。
 それでは明日、色よいお返事をいただけることを期待しております。
★スマホを所持している誰かへ:日付指定したほうがいい。持ち越しされたら大変だから
 →【誰かからのメール】明日(12日)に互いの質問をそろえ、
 明後日(13日)にゲームをする、という形を希望いたします。
 現状、理性的に判断できる中では最速かと思いますので、ご理解ください。
★スマホを所持している誰かへ:問題はそれぞれ独立していなければいけないのか、
 それともそれぞれの問題の答えが問題に関わっていても良いのか
 →【誰かからのメール】答えが他の問題に関わっている出題でしても、問題ありません。
 あくまでひとつの問題に、第三者からみてフェアな答がひとつあればお受けいたします。
・【誰かからのメール】なお、私からの質問は、現状では下記の3つを考えております。
 1、英雄の証のできるかぎり正確な在り処。
 2、英雄の証の在り処を知った方法。
 3、「あなたはヨフカシか?」という質問への解答。
 以上です。

■久瀬太一/8月11日/24時

 2本の電話をかけた。
 まずは父親に。佐倉家に何人の子供がいたのか確認しておいて欲しい、とソルに言われていた。
 父もやはり、佐倉家の子供はみさきとちえりしか知らないようだった。ついでに聖夜協会についても尋ねてみたけれど、父の時代のそれは平和的で、ただ楽しげで、なにも影のない集まりにきこえた。
 次にオレは、ちえりに電話をかけた。
「毎年、ホテルでクリスマスパーティをやっていただろ?」
 とオレは尋ねる。
「12年前のクリスマスパーティ、覚えてるか?」
 ちえりは答えた。
「最後のクリスマスパーティですね」
 そうなるのか。
「その年、なにか特別なことがあったか?」
 ちえりはしばらく沈黙していた。おそらく、古い記憶を思い返しているのだろう。
「いえ。特には」
 とちえりは答えた。
「オレはその年、パーティに出ていないよな?」
「はい」
 オレの記憶と一致する。
「どうして翌年から、パーティはなくなったんだろう?」
「どうしてでしょうね。すみません。私はまだ幼かったものですから、あんまり事情に詳しくなくて」
「いや」
 オレだって知らないし、親父も把握していないようだ。ちえりを責める理由はない。
「ありがとう」
 と言って、それから少しだけ雑談して、オレは電話を切った。
 みさきのことは、話題に出さなかった。少なくとも数日前までは無事だと、伝えてあげたかったけれど、それを上手く説明できる気がしなかった。

       ※

 夜の遅い時間、オレは八千代の部屋を尋ねた。
 八千代は爪を切っていた。ホテルから借りたものを使っているのだろう。無愛想で実用的な爪切りだった。
 手元でぱちん、ぱちんと音を立てながら、八千代は言った。
「どうした?」
「いや。作戦会議でもしようと思って」
「作戦があるのかい?」
「少なくとも、共有できる情報はある」
「へぇ。どんな」
 八千代がデスクの前のチェアから立ち上がり、ベッドに移動する。彼が空けてくれたチェアにオレは腰をおろす。
「おそらくファーブルは、あんたを狙っている」
 あのバスの窓からみえた未来は、そういうことだろう。
 結局、オレはおまけでしかなくて、ファーブルの標的は八千代だ。オレよりも八千代の方を警戒するのは当然だと思った。
 だが八千代は首を振る。
「オレもそう思っていた。でも、ちょっと状況が変わったみたいだ」
「状況?」
「ちょうどその辺りを、今日調べていた。ファーブルの興味は少しずつ、こっちからも離れつつある。オレが邪魔だってことには変わりないだろうけどね」
「どういうことだ?」
「どういうことだと思う?」
 そう尋ね返されることにも、慣れつつあった。
 いわれる前から予想は立っていた。
 ――ソルか。
 ファーブルはおそらく、オレが八千代の指示で動いていると、当初は考えていた。でも今は、ソルの存在に気づきつつある。スマートフォンの向こうにいる、なぜだかこちらの事情を知っていてオレに手を貸してくれる大勢の人々、なんてもののことを正確に理解できるはずはない。オレだってまだよくわかっていない。とはいえ、オレのバックにより優秀な何者かがいることには感づいた。
 ファーブルの中では、オレよりも八千代が優先され、八千代よりもソルが優先されている。そういうことだろう。
 八千代はぱちんと親指の爪を切りながら、言った。
「君の友人について、できたら教えて欲しいね。ずっと不思議なんだ。アカテさえ君の友人に、食事会の招待状をさしだしている」
「アカテって奴は何者なんだ?」
「オレもよくは知らない。でも、少なくとも勘違いで君の友人に招待状を渡したわけではないはずだ。オレによっぽど人を見る目がないわけでなけりゃ、優秀な人物だ」
 わからないことだらけだ。
「ともかくファーブルは、君の友達をどうにかしたいんだろう」
 あいつらを、と言おうとして、なんとか呑み込む。
「あいつを拷問にかけて、情報を引き出すってのか?」
「なくはない。でもそこまで回りくどい方法はとらないように思う」
「回りくどい?」
「ファーブルはあくまで純粋な穏健派だからね。嘘はつかないし、悪事も働かない。もちろん拷問なんてしない。もしやるとしたら、それは強硬派だ」
「どう繋がる? ファーブルは強硬派と手を組んでいるのか?」
「手を組む、という言い回しは、あいつは好まないだろうね」
「ファーブルの好みなんてどうでもいい」
「まったくだ。きっとファーブルと強硬派は繋がっている。互いに利用しようとしていて、絡み合っている。君の部屋から白い星を盗んだのは強硬派みたいだよ。ところで、星の他になくなっていたものは?」
 ある。もちろん。
 ソルのスマートフォンだ。
「どうして?」
「もうひとつなければ、話がまとまらないんだ。ファーブルは君を部屋から連れ出して、その情報を強硬派に流した。もちろん、部屋を荒せとは言っていない。ただ事実を話しただけだろう。それでも強硬派がどう動くかは予想していた」
「そんなことをして、ファーブルになんの得があるんだ?」
「問題はそこだ。強硬派は白い星を求めていた。元々、あれは強硬派が持っていたものだ。自分たちの失態だから、なんとかして取り戻したかったんだろう。でもファーブルが、ただただ強硬派に手を貸すはずがない」
 ようやく話がわかった。
「オレの部屋からもうひとつなくなっているものがあれば、そちらをファーブルが受け取ったってのか?」
「ファーブルはおそらく、強硬派とは取り引きしない。でもあいつは平然と、自分で作ったルールの穴をつく。言い回し次第で、自己満足できればそれでいいんだろう」
「ずいぶんファーブルについてよく知ってるみたいじゃないか」
「ああ。今日、調べた」
「どうやって」
「いろいろ。可能性を想像して、ひとつずつ消していく。ホームズもそうやった」
「さすがにドイルだな」
「オレはあいにく、ホームズほどの知能はない。おかけで今日は、ずっと電話だ」
 電話をかければわかるものなのか。
「その辺りの構造が、よくわからないな」
「ネット検索に慣れた世代はこれだからよくない」
 ずいぶん年寄りくさい発言だ。
 オレは覚悟を決めて、少しだけ情報を開示することにした。
「星の他に、部屋からなくなったものがひとつある」
「君の友人との連絡手段」
「どうして知っている?」
「今のは、ただのはったりだ。でもスマートフォンだってところまではわかっている」
「誰から聞いた?」
「強硬派には、少し友達がいる」
 やはり八千代は信用できない。
「それでもオレは、ファーブルがあんたを狙っていると思っているよ」
 バスの窓からみえたあの景色は、そういうことではないだろうか。
「なら、都合がいい」
 八千代は笑う。
「そろそろホテルで電話番をしているのにも飽きてきたころだ。向こうから動いてくれた方が、都合がいい」
「どうするつもりだ?」
「ファーブルは、直接は手をくださない。おそらく強硬派を利用する。強硬派は単純だ。罠を張っておけば、向こうからひっかかりにくる」
 八千代は肩をすくめてみせた。
 ――罠、か。
 その結果が、あの血を流す八千代ではないだろうか。
 わからない。でも、未来は変わりつつあるはずだ。
 八千代とファーブルの問題に、オレも加われる隙が生まれるはずだ。
 ――きっとファーブルは、オレにコンタクトをとってくる。
 どんな形だかはわからないが、きっと。
 ソルがそう仕向けてくれるはずだ。

――To be continued


★★★「愛媛の愛情100%」管理人よりメール:現地へのアクセスについて
了解1 了解2 → 了解3 2014-08-12 162730

山本さま

バスだと、そうですね、供養堂で降りて南にちょっと歩いていただく、でいいはずです。
久瀬くんのお知り合いと連絡が取れたとのこと、よかったです。
はい、みなさんでお越しください。
記事についても、必要ないとのこと承知しました。
天候については、ほんと心配ですねー。いらっしゃるさいには、充分にお気をつけて。


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