2014/08/24(日) 23:59 【 EDIT

8月24日(日)

8月23日(土) ← 3D小説「bell」 → 8月25日(月)

――水曜日のクリスマスには100の謎がある。

 【制作者からのメール】送信されたメールは、「100番目の謎」のトリガーとなる情報が含まれているため、
 彼には届かない。100番目の謎のみは、まだ公開される予定はない。

★久瀬へ:25-1久瀬君はみさきさんを助けたいと強く思ってるようだけれど、
 その気持ちの理由にクリスマスパーティーであっていた以外、以上の気持ちはあると想いますが? ※8/23
★久瀬へ:検閲25の後半「もしちえりさんや他の人物が同じ状況に置かれていても、久瀬君は今と同じように必死になってその人を助けようとしますか? ※8/23


【未発表】
★久瀬へ:変な事を聞くけどこの世界が誰かの夢や脚本で君はその登場人物だと言われた君はどう思う?

【再】22番目の謎は、なぜこの物語は一部の情報が語られないのか、だ。

★久瀬へ:18番、千葉のおばあちゃんの所にはいつの頃までいってたの?またどんなおばあちゃんだった? ※8/23
★久瀬へ:今度暇なときにでも聖夜教典をテキスト化して、こちらに送って欲しい。
 最悪、我々のことを意識しながら読み上げてくれれば、全部伝わるはずだ ※8/23


【再】71番目の謎は、彼女たちはなぜ2人なのか、だ。

★久瀬へ:ぶっちゃけた話みさきもしくはちえりのどちらかはプレゼントで生み出されたと予想しているソルが何人かいる ※8/23


【再】54番目の謎は、英雄の証が証明するものはなんだ、だ。

★久瀬へ:君のイメージでは、バッヂはどんな状態にある? ※8/23


【再】52番目の謎は、プレゼントはなぜ存在するのか、だ。

★久瀬へ:攻略本検閲15番「プレゼントには、受け取った人の「願い」が大きく反映するようだ。
 もし久瀬くんがプレゼントを受け取るなら、どんな力を願うか?」 ※8/23
★久瀬へ:41,42「「名前のないプレゼント」に名前を付けるとしたら、メリー曰く「悪魔のプレゼント」らしい。
 聖夜教典の記述を借りるなら、悪魔が英雄にかけた呪いがプレゼントになったmのだと思われる。
 これを前提に、久瀬君が「英雄」でみさきちゃんが「悪魔」なのだとしたら、
 君はプレゼントを持っていることになる。何か心当たりは無いか? ※8/23


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【8/24 02:00-02:04】メリーからニールへのメッセージ

トナカイ > メリーさん、いらっしゃい。 (08/24-02:00:36)
トナカイ > ニールさん、いらっしゃい。 (08/24-02:01:03)
★ メリー > ニール。
★ メリー > 現在、「悪魔」はホールの元にいるようです。
★ メリー > 私は彼女に会わなければなりません。
★ メリー > 彼女を連れてきてください。
★ メリー > 私は「英雄と星をみた公園」で待っています。
★ メリー > そう伝えれば、悪魔にはわかるはずです。

トナカイ > ニールさん、さようなら~。 (08/24-02:03:55)
トナカイ > メリーさん、さようなら~。 (08/24-02:04:00)

8/24 02:00-02:04


■久瀬太一/8月24日/11時

 目を開くと、いくつものオレンジ色が、順にオレを照らしていた。
 見慣れたトンネルだ。
 バスの最後尾に、オレは座っていた。
「よう」
 ときぐるみが言う。
「よう」
 そう応えて、オレは尋ねる。
「未来は変わったか?」
 きぐるみは首をかしげた。
「どうかな。トンネルを抜けるのを、楽しみにしてろよ」
「昨夜、あの道路でみさきが刺されそうになっていた。あれで8月24日は終わりってことにはならないのか?」
「そういうわけにはいかない」
「でも、バスからはみていない悲劇だった」
「いろんな事情があるさ。未来は変わる。変えられなきゃいけない」
 わかっている。それなら。
「今日は寝坊するわけにはいかないんだ」
 8月24日――
 もうひと月近くも前から、彼女のバッドエンドとして予告されていた日。
「いつまでも、寝てるわけにはいかないんだよ。これまでの全部を、無駄にはできないんだ」
 きぐるみは黙って、窓の外をみていた。
 人工的な光が前から後ろへと流れているだけの、つまらない景色を。
「今日はずいぶん、寡黙じゃないか」
 きぐるみはようやく、首を傾げる。
「オレがべらべら喋るタイミングでもないんだよ」
 なんだ、それ。
 少なくともこいつくらいは普段通りでいて欲しかった。
「ほら」
 きぐるみが窓の外をみる。
「よくみとけよ。バスがトンネルを抜けるぜ?」
 そして、いつもの声で、アナウンスが流れる。
 ――次は、8月24日です。

       ※

 そこにいたのは、みさきだった。
 ――でも、違う。
 これまでに何度もみてきた、8月24日の風景とは違う。
 彼女は、どこだろう、部屋の一室にいた。
 壁際でスマートフォンをつかみ、どこかにコールした。
 ――どこに?
 わからない。
 部屋の片隅には時計があった。
 時刻は13時を指している。
 電話には誰もでないようだ。
 やがて、「なにをしているんだ」と男が叫ぶ声がきこえた。
 その映像は背後に流れていき、そして、消えた。

       ※

 なんだ、今のシーンは。
 これまではみなかった。知らない未来だ。
「ま、そりゃ近づけばよくみえるよ」
 ときぐるみが言う。
「いろんな人たちが、いろんなところで、ちょっとずつ変わって色々決まったんだ。そんなもんだろ」
 そんなものなんだろうか? まあ、なんでもいい。
 今は少しでも情報が欲しい。
「なんにせよ、君が目を覚ますには、彼女の声が必要だ」
 そう、きぐるみは言った。


■八千代雄吾/8月24日/11時30分

 身体を動かそうという気になれなかった。
 なにもかもに関わりたくなかった。すべてを忘れてしまいたかった。
 昨夜は予定外に目立ちすぎた。
 しつこい何人かの恨みを買うことをした。
 そのことが怖かった。
 もう何年振りだかも覚えていないが、がむしゃらに人を殴って、一発殴り返されて、それで車を奪って逃げた。震えながら一晩中、オレは車を走らせた。あいつらから離れていたかった。オレを知っている連中から離れて、殻に閉じこもっていたかった。
 ようやくこの街に辿り着いて、血だらけで意識を失っていた久瀬を、病院に放り込んだ。あいつの治療よりも遠くまで逃げることを優先した。高速道路を降りられなかった。
 ――大丈夫、死ぬ怪我じゃない。
 そう自分に言いきかせて、ひたすらアクセルを踏んでいた。
 ――オレは、こんなにも弱かったか。
 愕然とする。
 昔からずっと、オレは臆病だと知っていた。
 臆病だから疑う。臆病だから警戒する。臆病だから笑う。
 そのことに否定的な感情はなかった。恐怖を恐怖として感じるのは、正しいことだと思っていた。それは今も変わらない。でも。
 怯えて、逃げ出すのか。
 怯えながら進むのか。
 まったく別物だ。オレは、後者でいられる自信があった。
 なのに。
 ――ああ、そうだ。
 思い出してしまった。
 ――オレは、アイの病室を訪ねられなかったんだ。
 昔からそうだ。ずっと昔から。 
 震えて逃げ出して、いつも、なにもかも手遅れだ。 
 ――知りたかったな。
 キャンディを美味く食べる方法を。
 アイは知っていた、手のひらに乗るサイズの幸せを。
 ――でも、もうだめだ。
 身体が震えあがって動き出せない。こうして、頭を抱えていることしかできない。オレはヒーローじゃない。
 たぶんメリーと電話で話したあの日に、心だか勇気だかに、深い傷が入って、そこからなにか大切なものが流れ出て、オレはもう動けない。
 息を吐き出す。
 その時だった。
 スマートフォンが震えた。

 メール。
 件名にはただ、「雪」とだけ書かれていた。
 そこには、どこか投げやりにも感じる2文があった。

       ※

 彼に彼女の声を届けろ。
 彼にまで、言葉を聞き逃させてはいけない。

       ※

 なんだよ、それ。
 意味がわからないまま、ずきりと胸が痛む。
 声って、なんだよ。
 そんなもん、どうやって届けろってんだ。


■佐倉みさき/8月24日/12時

 何度もフラッシュバックする。
 昨日の、久瀬くんの姿だ。
 私は膝をかかえて震えている。
 まるであの、クリスマスパーティの日みたいに。
 ――助けて。
 と誰かにすがる。
 誰に? 久瀬くんに? まさか。
 彼は私を助けるために血を流したのだ。
 私がいけないのだ。私が彼を不幸にしたのだ。私が、悪魔だ。
 悪魔が呪いをかけて、英雄は血を流した。
 ――許されない。
 私は、彼に助けを求めてはならない。
 そう考えてうつむいていた。
 ドアの開く音がきこえた。
 そんなことでいちいち、彼を思い出して嫌になる。どうしようもなくて、顔を上げる。彼の姿に期待する。ふざけるな、と自分で思う。
 もちろん、そこにいたのは久瀬くんではなかった。
 その男は黒いスーツを着ていた。イメージがあまりに違って、一瞬、誰だかわからなかった。
「よう」
 と、そいつは言った。
 ――ニール。
 彼はもうサングラスをかけていなかった。だから表情がよくわかった。みたことのない、真剣で、どこか怯えているような顔。
「まるで、死んだような顔つきだな」
 ニールはつかつかと歩み寄り、私を見下ろす。
「その顔で正解だよ。お前は、絶望したまま死ね」
 吐き捨てるようにそう言って、彼は私の腕をつかんだ。


■佐倉みさき/8月24日/12時30分

 手足をしばられ、黒い車に詰め込まれた。
 後部座席だ。運転席には昨日、久瀬くんを刺した眼鏡がいた。
 私はうつむく。その男が憎くて、どうしようもなく憎くて、なのに睨みつけることもできないで震える。
 隣にニールが座った。
 窓ガラスの暗い色合いで、外から車内の様子はみえないのだろうとわかった。
 車で運ばれているあいだ、私は抵抗らしい抵抗はしなかった。じっとうつむいて、なにも考えられないでいた。
「久瀬くんは、無事なの?」
 と私は、どうにか尋ねる。
「知るかよ」
 とニールはそっけなく答える。
「ノイマンは?」
「お前」
 ニールはほんの一瞬、ちらりとこちらをみた。
「そうやって、助けてくれそうな奴らを羅列してれば、助かると思ってんのか?」 
 尖った、胸に刺さる声だ。
 ――別に、そんなつもりで訊いたんじゃない。
 そう反論したかった。純粋に、心配で。
 でも。
 本当にそうだろうか、と自分自身で疑う。
 私はまだ、今でも誰かが助けにきてくると思い込んでいるのではないだろうか。震えているだけで誰かが、その身を犠牲にして、血を流して、私を助けに来てくれると信じているのではないだろうか。
 ――ふざけるな。
 内心で怒鳴る。
 いつまで、甘えているんだ、私は。
 どうしてすぐに、人を頼ろうとするんだ。
「勘違いするなよ」
 とニールは言った。
「お前は悪魔なんだよ。だれが悪魔を助けようとするんだ」
 その通りだ。
 私は悪魔で、救われようとしてはならない。
 ――だって。
 だって、なんだ?
 ほんの一瞬、私は何かを思い出したような気がした。
 久瀬くんの記憶。血の記憶。
 呪われたヒーローの記憶。
 でも脳裏に浮かび上がるのは昨日の久瀬くんの姿ばかりで、血を流す彼を思い出すのは苦痛で、私は目を閉じる。
 ずるいとわかっていた。卑怯だとわかっていた。
 それでも、ほんの一瞬、彼の姿を忘れたいと思った。


■佐倉みさき/8月24日/12時45分

 あまり時間の感覚がない。
 胸がじくじくと痛くて、それをこらえようと目を閉じているあいだに、周囲の状況が変わっていた。
 私はどこか、部屋のかたすみにいる。
 隣でふたりの男が会話している。
 一方はニールだ。
 もうひとりは、久瀬くんを刺した、あの眼鏡の男だ。
 ふたりは何か口論している。
「悪魔をメリーに近づけるなんて、あってはならないことです」
「メリー自身が、そうしろっつってんだよ」
「私は、そんな指示は受けていない。ニール、そもそもあなたは、今までなにをしていたんですか?」
「うるせえな。お前は黙って、オレの言う通りにしてりゃいいんだよ」
 叫ぶような声で、眼鏡が言う。
「悪魔を捕らえたのは私だ。貴方が口を出す権利はない」
「たまたま殴られなかったから、上手く拾い物をしてきただけだろう?」
「ドイルは私に怯えていた。私から逃げだしたんだ」
 直後、なにか鈍い音がきこえた。
 眼鏡が倒れている。ニールが彼を、殴り倒したようだった。
「うるせえ。黙れ」
 とニールは言った。
 座り込んだまま、ニールを睨んで眼鏡が吐き捨てる。
「プレゼントを持っているのが、そんなに偉いのか?」
「偉いんだよ。プレゼントを持ってる奴は、選ばれた奴だ。いいから言う通りにしろよ、グズが」
 彼は眼鏡に背を向けて、部屋を出る。
 眼鏡が立ち上がり、彼を追いかけていく。
 ドアが閉まり、がちん、と大きな音で鍵がしまった。
 その音が聞こえて初めて、私は、逃げ出すべきなのだろうか、と考えた。


★★★雪からメールが届く。

【雪からのメール】

本日、宮野さとみを「梅田/中自然の森公園」に向かわせた。
彼女からみえる景色はこれだと連絡を受けている。

中自然の森公園2 中自然の森公園1

宮野さとみはミュージックプレイヤーを返却する意志がある。
あの男に光が届くことを願っている。

ただし、それだけでは完全ではない。
英雄はまだ眠っている。
彼に声を届けるのは、あの男の仕事だ。


■佐倉みさき/8月24日/13時

 じっと、床をみていた。
 なにをすればよいのかもわからなかったし、なにかをしようという気にもなれなかった。
 ――と、ふと。
 視界のすみに、白い、銀色の何かが落ちているのがひっかかる。
 ――スマートフォン?
 あの眼鏡が、先ほど殴り倒されたときに落としたものだろうか。
 少し、悩んだ。
 私はどこかに電話をかけるべきなのだろうか。
 また助けを求めて、それで、どうなるというんだろう。
 悩みながら私は、スマートフォンを拾い上げた。
 ――ドイル。
 先ほどのニールと眼鏡の会話でわかった。
 久瀬くんを連れていったのは、ドイルという人だ。
 ドイルという名前の聖夜協会員がいることは知っていた。あの眼鏡とは、仲間のようにはみえなかったけれど、もしかしたらあの人の電話番号が載っているかもしれない。
 どうしても久瀬くんの安否だけは、知りたかった。
 私はスマートフォンのアドレス帳を開く。


★★★生放送「ヒロイン“佐倉みさき”がとらえられている部屋から生中継」開始
http://live.nicovideo.jp/watch/lv190826639
みさき電話部屋
★★★飛鳥山公園にて発見したスマホとボイスレコーダーを使ってみさきの声を録音。
★★★みさきの声:DL

■佐倉みさき/8月24日/13時05分

 数度のコールで、電話が繋がった。
 私はスマートフォンに向かって、尋ねる。
「あの、すみません。久瀬くんは、無事ですか?」
 その時。
 背後で、ドアが開く音が聞こえた。
 思わず振り返る。
 あのメガネだ。
「なにをしているんだ」
 と彼は叫ぶ。
 そのお蔭で、少しだけ、意識がはっきりした。
 なにか迷いのようなものが吹き飛んだ。
「彼に伝えてください」
 なんて?
 ごめんなさい? ありがとう? 無理をしないでね?
 肩をつかまれる。反射的に、声が出ていた。
「絶対に、また会おう」
 ――そう言った、直後だった。
 ふいに、思い出す。
 それは写真のような、一瞬の記憶だ。
 久瀬くん――幼い彼が、ヒーローバッヂをつかんでいる。
 彼は血を流し、ヒーローバッヂは無残に破れている。
 なのに彼は微笑む。
 そして、私に向かって、なにかを言った。
 手の中からスマートフォンが滑り落ち、床にぶつかって硬い音をたてた。
 そのスマートフォンから、私の名前を呼ぶ声がきこえた気がした。


★★★雪より返信。「現状、私はこれ以上、物語に介入する予定はない。」
★★★中自然の森公園に到着。宮野さとみと思しきプリンを持った人物を発見。
中自然

■久瀬太一/8月24日/13時30分

 バスはもう、トンネルには入らなかった。
 なにもない、ひたすらまっ白などこかを、ただ走っていた。
 景色がなければ、前に進んでいる実感もない。
 まるで停滞しているようで、ただ振動だけを感じる。
「状況は動き続けている」
 ときぐるみは言った。
「君たちを動かすために、遠くで大勢が動いている」
 きぐるみは丸っこい手で、窓の外をさす。
「次はあいつの番だ」

       ※

 窓の外にみえたのは、どこか、事務所のような部屋だった。
 がらんとした部屋だ。デスクが両側の壁にひとつずつ置かれている。
 その、右側の椅子に、ひとりの男が座っている。
 ――八千代。
 八千代雄吾。
 彼は憔悴しきっているようだった。
 頭を抱えて、うつむいていた。
 部屋にチャイムの音が響く。
 八千代は動かない。
 ただじっと頭を抱えている。
 また。今度は続けて、繰り返し、チャイムが鳴った。
 八千代はゆっくりと立ち上がり、玄関に向かう。
「うるさいよ」
 ドアを叩いて、言った。
「今は誰にも会いたくないんだ。用があるなら、メッセージを郵便受けに突っ込んでおいてくれ」
 なんだか疲れた声だ。聞いているだけでもため息が出るような。
 彼は踵を返してデスクに戻った。

       ※

「なにもかもが上手く進まなければいけない」
 ときぐるみは言う。
「失敗したらどうなるんだ?」
 とオレは尋ねる。
「君は彼女の元に辿り着けない」
「それで?」
「何度もみただろう?」
 きぐるみは首を傾げる。
「結局は、こうなる」

       ※

 窓の外にみえた景色に、背景はなかった。
 まっ白だ。ただ、どこまでも。
 その中で。
 ぱん、と、まるで、冗談みたいな銃声が響く。
 そして鮮明な赤が広がる。
 その姿を眺めながら、
「間にあうよ。必ず」
 そう、オレは答えた。


★★★宮野から八千代のミュージックプレイヤーを預かり、みさきの声を入れる。
八千代のプレイヤー
★★★生放送「“八千代雄吾”のアパートから生中継」開始。http://live.nicovideo.jp/watch/lv190831488
八千代のアパート 飴と手紙
★★★八千代の声:DL

■久瀬太一/8月24日/14時

「このバスは、どこに向かっているんだ?」
 とオレは尋ねた。
 ずいぶん前にも、同じ質問をした記憶があった。
「バッドエンドだよ」
 ときぐるみは答える。それから彼は、でも、と続けた。
「行き先は変えられる。きっとね。誰も彼もが、それを望んでいる」
 きぐるみは窓の外に視線を向ける。
 そこには――誰だろう? 知らない男がいた。

       ※

 その男は汗を拭って、白い壁の建物に入る。「開運」と大きく書かれた看板のある建物だ。
 1階にはアジア風の雑貨やエスニックファッションが並んでいる。男はそれをちらりとみて、階段をのぼる。
 2階はシックな作りのカフェになっていた。
 男は、すでに先客のいるテーブルに歩み寄る。
 先客が彼を見上げて、「今日の天気は?」と尋ねた。
 男は答える。
「大雨だ。でも夕方にはあがる」
 先客の方が、なら夕陽はみえるな、といって笑った。
 男はチェアを引いて席につく。
「川越は初めてだよ」
「いいところだよ。のんびりしていて」
「ああ」
 男はメニューを確認して、ウェイターに「ミルキーマンデリンを、ダブルで」と注文する。
「することはわかっているね?」
「合言葉を知っている奴に、この封筒を渡す。それだけか?」
「ああ」
「だれがくるんだ?」
「それは知らない。誰にもわからない」
「本当に来るのか?」
「おそらく。間違いなく」
 先客の方が、席から立ち上がる。
「じゃあね。ここは任せたよ」
 先客はテーブルに背を向けて歩き出す。彼はスーツ姿で、手にはなぜだか軍手をしていた。


★★★該当するカフェを「Cafe 泰明館(埼玉県川越)」と推測。
★★★「Cafe 泰明館(埼玉県川越)」にて『リュミエールの視点』と「ヒーローバッチの手書きの絵」を入手。

『リュミエールの視点』

・リュミエールの妹
・少女:生真面目で、いつだって何事にだって一所懸命で真摯な少女は相手を傷つけることをひどく怖れているよう。
・少年:子供っぽいものが似合わない子には、あまりみえなかった。年相応の小学生。
-----------------------------------------------------------------------------
・その少女とはクリスマスパーティで毎年、顔を合わせていた。
・パーティ直前の日曜日に街中で少女を見つける。少女は何週間も前から男の子への贈り物を探していた。妹と少女を連れて喫茶店に入り、彼に一番似合いそうなものを尋ねる。ヒーローバッヂ、と答える少女。彼もまた毎年パーティに参加していた。
・ヒーローバッヂがなければ作ればいい、と3人でバッヂのデザインを決めた。


★★★生放送「“八千代雄吾”のアパートから生中継」終了。

■八千代雄吾/8月24日/15時

 部屋のチャイムが鳴ったのは15時になる少し前だった。
 その音を聞いても、椅子から立ち上がろうという気にはならなかった。
 疲れ果てていて、動き出せない。
 周りのみんなが現実だとは思えない。
 ――あのときだってそうだ。
 アイの体調が悪化していくのを人づてに聞いて、でもどうしてもそれが現実だとは思えなくて、逃避していた。
 なにも変わっていない。
 あのころと同じように、オレは弱く、幼い。
 だがそのチャイムは、しつこく繰り返されていた。
 さすがに、我慢できなくなり、立ち上がる。
「うるさいよ」
 とオレは叫んだ。
「今は誰にも会いたくないんだ。用があるなら、メッセージを郵便受けに突っ込んでおいてくれ」
 そしてまた、チェアまで引き返す。
 すると。
 ざらざらと、玄関に、無数のキャンディが流し込まれた。


★★★リュミエールの視点に登場する代官山のカフェを「CAFE CLASSE」と推測。

■八千代雄吾/8月24日/15時15分

 オレは茫然と、玄関に近づく。
 ――どんないたずらだよ。
 と、そのキャンディの山の中にひとつ、透明な袋が混じっている。
 オレはチェアから立ち上がり、それを拾い上げる。

       ※

 プレイヤーには、久瀬くんの救いたい彼女から
 久瀬くんへの伝言も入っています。
 必ず届けてください。

       ※

 そう書かれていた。文章の後ろには、太陽のようなマークがある。
 そして、その後ろに隠れて。
 白い、古臭い、ちゃちなミュージックプレイヤーが入っていた。

       ※

 不思議なことに、そのミュージックプレイヤーへの嫌悪感は、欠片もなくなっていた。ただ、愛おしかった。
 オレはミュージックプレイヤーを取り出す。
 イヤホンを耳に入れ、再生のボタンを押す。
 アイの声がきこえた。
 あの頃となにもかわらない声だ。
 以前はただ明るくて、無邪気に聞こえていた声。
 でも今は違うのだとわかる。
 ただ能天気に振る舞うことに、彼女がどれだけ苦労していたのかが見て取れる。あらゆる感情を呑み込んで笑っているような声だった。
 それは作り物みたいに綺麗だ。フィクションじみて、輝いて聞こえる。彼女の声はキャンディに似ている。宝石のような、でも安っぽい、口に含むと純粋に甘い声に。
 それが嬉しかった。
 ――悲しいわけじゃないんだ。
 そう言い訳しながら、涙を拭う。
 ひとつ目のトラックには、12年前の彼女の声が入っていた。
 以前と同じように、彼女はジングルベルを歌う。
 ふたつ目のトラックを、きちんと聞くのはこれが初めてだ。
 高校3年生の、冬。
 それは11年前の冬だ。
 彼女が迎えた、最後のクリスマスに吹き込まれた声だった。


■トラック02

 ユウくんへ。
 メリークリスマス、アンドお久しぶりー。
 急な長期外泊が長引いて、去年渡すはずのクリスマスプレゼントがまだ手元にあるのでした。なんてこった。
 丸1年ですよ。リッチな暮らしも考えものです。
 怠惰に寝転がっているだけで食事が運ばれてくる生活にも、もう飽きてきました。慣れとはおそろしいものです。このままだと、どんどんセレブ化が進行してしまいます。

 残念だけど、まだしばらく会えないっぽいです。
 新しいプレゼントを買いにいく時間もないです。ごめん!
 なので、「キャンディをおいしく食べる方法」を吹き込んでおくことにしました。
 いつかちゃんとしたプレゼント買うから! 許して!

 さて、「キャンディをおいしく食べる方法」です。
 大事な話だけと一度しかいいません。繰り返し聞いてください。
 ポイントは、「本当にがんばったあと、すかさず食べる」こと!
 充実感やら満足感やら幸福感やらを、ぎゅっとキャンディひとつに圧縮するのです。
 そうしたら今後、キャンディを食べるたびに幸せな気分になります。
 幸せだと美味しいです。味とか関係ない。ストロベリーもレモンもピーチもグレープもオレンジもハッカも美味しい。間違いない。
 キャンディというのは、口の中でゆっくりとける思い出なのですよ。

 それではまた。
 まあ、100年以内には会いましょう。


★★★宮野から受け取ったプレイヤーに入っていたアイの声【ひとつめのトラック】WAV版:DL
★★★アイの声【ひとつめのトラック】MP3版:DL

■八千代雄吾/8月24日/15時25分

 なんだそれ、と思った。
 いかにもアイらしい、と思った。
 これが、オレの、長いあいだずっと知りたかったことなのか。
 ――最高だ。
 素直に、そう思う。
 アイはどこまでもアイだ。
 彼女はいつだって、オレの知らないことを知っている。気づいていないことに気づかせてくれる。
 オレは玄関に届いたキャンディをポケットに入れる。それから、デスクに引き返し、そこに乗っていたキャンディをひとつかみポケットにいれる。
 ――試してやるよ。
 そう決めた。
 もしキャンディが美味くなかったら、思いっきり文句を言ってやる。
 あいつをからかって、子供扱いして、大笑いして――
 そのためには一度、あいつがいうことを、実戦する必要がある。
 充実感やら満足感やら幸福感やらを、さっさと手に入れなければならない。
 ミュージックプレイヤーは3番目のトラックを再生していた。
 ある、悪魔と呼ばれる少女の声だ。
 まずはこの声をあいつに届けるところから始めよう、と決めて、オレは駆けだした。


★★★「CAFE CLASSE(代官山)」に到着。
代官山カフェ

■久瀬太一/8月24日/15時45分

 バスはまだ走り続けていた。
 なにもない、まっ白な景色の中を、ひたすらに。
「ここはどこなんだ?」
 とオレは尋ねる。
「まだどこでもない」
 ときぐるみは答える。
「そろそろオレは、目を覚まさないといけない」
「どうして?」
「みさきのところにいかなくちゃ」
「でもさ、君が間に合ったとして、本当に彼女を救えるのかな?」
 わからない。でも。
 理由なんてどうでもいい。そんなもの、適当に後から見繕えばいい。
 彼女は強がっているけれど、意外と弱虫なんだ。今も震えているかもしれない。あのキーホルダーには魔法がかかっているんだ。彼女には絶対に、悲しいことは起こっちゃいけない。
 魔法なんて嘘だ。そんなもの存在しない。だからオレが、その嘘を本当にしないといけない。
「わからないけど、オレがいかなきゃいけないんだよ」
 オレは彼女が撃たれることを知っている。
 さっき知った。それがすべてだ。
 きぐるみは相変わらず、ぼろぼろのまま不敵に笑っている。
「その通りだよ、ヒーロー」
 つい、眉を寄せる。
「オレはヒーローなんかじゃない」
「そうだよ。みんな嘘だ。でもその嘘を本当にするんだ」
「どうすればいい?」
「耳をすませよ」
 きぐるみがこちらをみる。
「ほら、彼女の声がきこえるだろう?」
 半信半疑のまま、オレは耳をすます。
 でも、聞こえない。
「なにも聞こえないよ」
 当たり前だ。
 どうしてこんなところまで、みさきの声が届くんだ。
 なのにきぐるみは、は、と馬鹿にしたように笑う。
「そんなわけないだろ? みんなでがんばって運んだんだぜ?」
 とたん、確かに、声がきこえた。
「みんなが動けば、奇跡ってのは、意外と当たり前に起こるんだ」
 それは暗闇の中で、ささやかな光をみつけるように。
 確かにまっすぐに、確かな熱をもって、彼女の声がオレを射していた。

       ※

 思わず、笑う。
 彼女の声は、妙に強がるようで。
 悲壮感はまったく隠せていなくて。
 なのに、声だけは強くて。
「絶対に、また会おう」
 と彼女は言った。
 ――オレは、その言葉を知っている。
 なぜか、そう思った。
 ずっと昔にきいたことがある。
 懐かしい歌みたいな、古い古いおとぎ話みたいな。
 まぶしい、と感じた。
 オレは目を開いていた。

       ※

「よう」
 と声がきこえた。
 そちらをみる。なんだか、泣き顔のような笑顔で、八千代がオレをみていた。
「よう」
 とオレは応える。
 起き上がろうとして、でも脇腹に激痛が走って、オレはうめき声をあげる。
「大丈夫かい?」
「どうみえる?」
 苦笑して、八千代は言った。
「少なくとも、死んじゃいない」
 オレは耳にイヤホンがついているのに気づいた。それは八千代の手の中にあるミュージックプレイヤーに繋がっている。
「あんたが、みさきの声を届けてくれたのか?」
「オレは仕上げだけだ。目が覚めたら枕元にあったんだよ」
 まるでサンタクロースのプレゼントだ。
 ソルだろう。きっと。ほかには考えられない。
「もう一度、流してくれるか?」
「ああ」
 八千代が手元のボタンを押して、またみさきの声がきこえた。
 ――絶対に、また会おう。
 オレは息を止めて、身体を起こす。
「八千代。頼みがある」
「なんだ?」
「みさきのところにいかないといけない。手伝ってくれ」
「どこにいるんだ?」
「まだわからない。これから捜す」
 オレはベッドから立ち上がる。
 また、脇腹の激痛で、軽くよろめく。
 八千代がオレの肩をささえた。
「報酬は?」
「最高のハッピーエンドをみせてやる」
 彼は笑う。
「ああ、オレもたまたま、そいつを探してたんだ」
 キャンディ食べる? と八千代が言った。
 ああ貰うよ、とオレは答えた。


■佐倉みさき/8月24日/16時

 絶対に、また会おう。

 と、自分でそう言ったことで、思い出しつつあった。
 同じことを、あの夜の私も望んでいた。
 だから広いパーティ会場で、私は彼の姿を探した。
 去年のお礼を言いたかった。お返しのプレゼントを手渡したかった。いや、そんなことよりも単純に、また彼に会いたかった。
 なのに彼はみつからなかった。
 ――どうして?
 私は、悲しくて、不安で。相変わらず臆病で。
 その年も私は、ピアノの演奏をすることになっていた。
 どうにか心を落ちつけたくて、私は――

       ※

「私が悪いんだ」
 と声がきこえた。
 小さな女の子が、ベッドの上で膝をかかえている。
「みんな、私が悪いんだ」
 それは、私だ。 
 まだ幼かったころの私だ。
 幼い私はほとんど無表情で、うつむいている。
 声をかけることができなかった。
「私が悪いんだ」
 と、また彼女が言った。
 胸の中で、その声がこだまする。
 自分の心が書き換えられていくような感覚がある。
 ――そうだ。
 私がいなければ、彼は傷つかなかった。


★★★「CAFE CLASSE(代官山)」にてアカテに依頼された人物と遭遇。『ノイマンの視点』を発見。

『ノイマンの視点』

・少女
-----------------------------------------------------------------------------
・その少女とはある冬の日に出会った。
・少女の初恋のために缶バッヂ製造キットを持参。
・缶バッヂの土台には、もう見えないけれどピンク色のハートと「がんばれ!」という文字がある。
・件の少年は、ヒーローバッヂを受け取るはずだった夜に事故に遭い、長いあいだ昏睡状態にあったようだ。


★★★ヒーローバッヂの作成を開始。
ヒーローバッヂ量産

■久瀬太一/8月24日/16時15分

 新幹線の座席に座って、少しだけまどろんでいた。
 まだ意識がはっきりとしない。
 身体が上手く動かない。
 目を閉じる。
 気がつけばまた、隣にはあのきぐるみがいる。

       ※

「制作者が望んでいるのは、たったひとつの証明だ」
 ときぐるみが言った。
「それは夢みたいな証明だ。本来なら目にみえないもの、きっとどこにも存在しなかったもの」
 オレは頷く。
「つまり、ハッピーエンドか」
 昨日、雪が言っていた。
 ――この物語にはバッドエンドしか存在しない。
 だからそれを、無理やりに、強引に、生み出さなければいけない。
「ヒーローバッヂを手に入れろ」
 ときぐるみが言った。
「お前は誰にも、悪魔にも負けない、本物のヒーローになるんだ」
 窓の外に、また知らない光景がみえる。

       ※

 そこには、オレがいた。
 黒い車の助手席に座っているようだった。
 その車は道路上の駐車スペースに、停まっていた。
 東京メトロ早稲田駅のすぐ隣だ。目の前に、コーヒーショップがある。緑地に、白い楕円の描かれた看板。コーヒーショップのすぐ左隣は、赤と黄色の看板が特徴的な牛丼屋だった。
 オレは車内の時計を確認する。19時15分を少し回った辺りを指している。
「誰もいないな」
 と、運転席の八千代がいう。
「ヒーローバッヂは、間に合わなかった」


★★★「ノイマンの視点」に登場する喫茶店を「私設図書館カフェ シャッツキステ(秋葉原)」と推測。

■佐倉みさき/8月24日/16時45分

 12年前。
 私がまた会いたいと願って、だから彼は来てくれたんだ。
 私が強引に、彼の運命を捻じ曲げて、彼に血を流させたんだ。
 ――どうして、忘れていたんだろう?
 あの夜。
 私は、パーティ会場を抜け出した。
 ピアノの発表会の前に、前の年に彼と一緒に、星を見上げた場所にいこうと思った。
 魔法のかかったキーホルダーを握りしめて走る。心を落ち着けるために。私ひとりでも、上手くピアノをひけるように。
 ――本当に?
 違う。
 私は、彼に救われたかった。
 また彼に優しい言葉をかけて欲しかった。
 でもパーティ会場に彼はいなかった。
 だから、彼の姿を捜して。夜道をひとり走って、そして。
 あってはならないタイミングで、彼は来てくれた。
 甲高いブレーキの音が聞こえた。ふたつのライトが目の前まで迫っていた。
 そのとき、彼はふいに現れて、笑って。
 私の背中に思い切りビンタするように。
 ――彼は紛れもなく私を救った。
 たったひとつ、私についた嘘を本当にするために。
 私の身に不幸なことが起こらないようにするために。
 少女の声が聞こえる。
「貴女は再会を望んではいけなかった」
 昨日の、血を流す彼の姿に、幼いころの彼が重なる。
 路上に倒れた彼。やっぱり血を流している。
 ――私は、悪魔だ。
 私は助かってはならかった。
 私のせいで彼は血を流した。
「貴女は何度も、同じことを繰り返す」
 と少女が言った。

       ※

「おい」
 と呼びかけられて、私は目を開く。
「お前には今夜、メリーに会ってもらう」
 目の前にはニールがいた。
 ――メリー。
 いまさら、どうでもいいような気がした。
「約束の時間は20時だ」
 とニールは言った。


★★★シロクロサーガ更新【v2.2】:http://neumann.2-d.jp/sksaga/SK/
★★★街の非ログインプレイヤーがノイマンに変化。
非ログイン → 非ログイン-ノイマン1 非ログイン-ノイマン2 非ログイン-ノイマン3

【悪魔がいる場所のヒント】
ichinennokotaewotsunagero
http:/9,14,3,16,15,1,2.11,2,5,4,5,10.15,7/


★★★アカウントたすけて!よりツイート

しばらく現実を離れます。
悪魔の居場所を捜している者だけと面会する予定。
――ノイマン


★★★「私設図書館カフェ シャッツキステ(秋葉原)」にて缶バッチ製造キットと「赤い手の男の視点」を確保。
シャッツキステ1 シャッツキステ

『赤い手の男の視点』

・八千代:赤い手の男の父よりも年上。好奇心旺盛で若々しい。仕事で知り合ったが、共通の趣味で盛り上がり、しばしば一緒に飲み歩くようになった。
-----------------------------------------------------------------------------
・暗い夜道、少年が倒れている。オレは茫然と座り込んだまま動けないでいる。彼には触れていない。でも、ふとみると半月が、真っ赤になったオレの両手を照らしている。あのクリスマスの夢だ。あの夜、オレが車を走らせたのは、八千代さんに頼まれたから。
・八千代に呼び出され、密談。
・少年は目を覚ました。ひどい後遺症は残っているが命の危機は去った。
・「問題は、もうひとつの方だ」「友人に頼まれてね。できれば君にも、協力して欲しい」八千代さんは、ゆっくりとその計画の話をはじめた。


★★★悪魔がいる場所のヒントが判明

ゲーム世界の名前を四季に従って並べ替え、宝箱の鍵となった言葉を繋げて重なる文字を消す。
【春】黄と緑:ほっきょくせい
【夏】青と紫:いし
【秋】赤と薄紅:しろくてらす
【冬】白と灰色:すかし
ほっきょくせいしろくてらすかし(北極星白く照らす歌詞)をアルファベットに変換しアドレスの数字と対応させる。
ほっきょくせいてらすかし
hikaretekakedasu
→ 1h 2i 3k 4a 5r 6e 7t 8e 9k 10a 11k 12e 13d 14a 15s 16u
http:/9,14,3,16,15,1,2.11,2,5,4,5,10.15,7/
http://kakushi.kirara.st/
【チャット】:「まふゆにとびだす」月と星、そして太陽に照らされた世界を探せ。


★★★シロクロサーガver2 クリア直前データ(仮):DL ※SKSagaフォルダに入れる
★★★「私設図書館カフェ シャッツキステ(秋葉原)」にてヒーローバッヂ作成開始。
バッヂ製作中
★★★チャットのアクセス認証:http://kakushi.kirara.st/fox.cgi

8月8日/26時45分の石版から「まふゆにとびだす」を抜き出し、
7月25日/12時05分のクロスワード解答表と対応させる
→「メリークリスマス」
石版対応 → クロスワード対応 【メリークリスマス】

USER ID:【 Merry 】
PASSWORD:【 Christmas 】
※ログインすると過去ログの参照が可能となる。


★★★ヒーローバッヂ作成終了。
バッヂ作成終了

【8/24 18:12-18:17】メリーからソルへのメッセージ

トナカイ > メリーさん、いらっしゃい。 (08/24-18:12:57)
★ メリー > あなたたちは、ソルですね?  はじめまして。メリーと申します。
★ メリー > あなたたちは、彼によく似ている。なにも知らないまま、希望を追いかける。その姿は美しいものです。でも、ひとつだけ、お教えしましょう。
★ メリー > 名前のないプレゼント――悪魔のプレゼントには、「再会」の願いが込められています。悪魔は強引に、彼の運命を書き換えた。彼にプレゼントで呪いをかけ、そして、血を流させた。 同じことが繰り返されてはいけません。
★ メリー > 悪魔は、消えなければなりません。

トナカイ > メリーさん、さようなら~。 (08/24-18:17:24)

追加


■久瀬太一/8月24日/18時30分

 ふいに、スマートフォンが震えた。
 ――ソルからだ。
 ほとんど確信を持って、オレはスマートフォンを開く。
 メールを開いた。
 そこには、シンプルに、オレがもっとも欲しい情報が書かれていた。

       ※

 みさきは君と星を見た公園にいる。バッヂを受け取ったあと向かって欲しい


★久瀬へ:いまどこにいるか
 →【久瀬さんからの返信】もうすぐ、東京につく。そこからは車で移動する予定だ。
★久瀬へ:みさきは君と星を見た公園にいる。バッヂを受け取ったあと向かって欲しい
 →【久瀬さんからの返信】わかった、ありがとう!本当に助かる!
★久瀬へ:佐倉ちゃんは、英雄と星を見た公園にニールが連れて行くようです。そこでメリーが待っています。
 またヒーローバッヂを届ける算段はついているので、届けるソルの連絡も確認してください
 →【久瀬さんからの返信】わかった、ありがとう!連絡を待っている。
★久瀬へ:これからこの一日は怒涛の一日になると思う。こちらからも全力のサポートをするのでどうか負けないで
 →【久瀬さんからの返信】わかった、ありがとう!
★久瀬へ:我々ソルは、今君を目指している!なるべく分かりやすい目印はないか?
 →【久瀬さんからの返信】目印……難しいな。ヒーローバッヂを受け取る地点には、車で向かう予定だ。
★久瀬へ:12年前のクリスマス、君はどこにいた
 →【久瀬さんからの返信】少しずつ思い出してきたよ。オレはたぶん、パーティ会場に向かっていた。
★久瀬へ:場所がわかれば そちらに向かってバッジをその公園に届けようと動いています
 走って伝えてくださいませんか?
 →【制作者からのメール】 先ほど送信されたメールは、「100の謎」のトリガーとなる情報が含まれているため、
 彼には届かない。 その謎はすでに公開されている。91番目の謎は、ソルはなにを書き換えられるのか、だ。
★久瀬へ:メリーは名前のないプレゼントを壊すかもしれない。気をつけてくれ。今度怪我したら許さないからな!
 →【久瀬さんからの返信】わかった。気をつける。怪我をしたくないとは、いつも思ってるんだよ。

■久瀬太一/8月24日/18時45分

 新幹線を下りて、八千代がレンタルしたのは、トヨタの高級そうな黒い車だった。品川のナンバー。頭2桁は共に6だった。後部座席の窓ガラスには、スモークが入っている。
 オレはその助手席に腰を下ろす。
 身を屈めると、刺し傷が痛んで、オレは顔をしかめた。身体をまともに動かせない。
「大丈夫か?」
 と八千代がいう。
「もちろん」
 とオレは答える。
 なんとか背もたれに身体を預けて、言った。
「みさきに会う前に、ちょっと用がある」
「なんだ?」
「奇跡を貰いにいく」
「どういう意味だよ?」
 オレだって知らない。でも、
「みんなが動けば、当たり前に奇跡だって起きるらしいぜ」
 とオレは言った。 
 ソルたちが動いていることは、もうわかっている。
 今だってスマートフォンが震え続けている。
 きっとみんな、上手くいくはずだ。


★★★生放送「“久瀬太一”の乗る車から生中継」開始。 http://live.nicovideo.jp/watch/lv190859549
・【久瀬さんからのメール】オレが乗っているのは、トヨタの高級そうな黒い車だ。
 品川のナンバー。頭2桁は共に6だ。後部座席の窓ガラスには、スモークが入っている。これでわかるか?
★久瀬へ:バッヂは手に入った、どうやって受け渡せばいい?バスの中でみた店に行けばいいか?
 →【久瀬さんからの返信】急いでいる。極力早く、みさきに会いたい。
 コーヒーショップの前で、車の窓から放り込んでくれないか?
★久瀬へ:私達がバッジを届ける。バスから見えた場所で会おう。
 届ける時に分かりやすい目印が欲しい。目印になりそうな物はある?
 →【久瀬さんからの返信】ありがとう! 本当に助かる!さっきの情報でわかるか?
★★★早稲田現地にて質問や久瀬・八千代へのメッセージ作成。
★久瀬へ:今君の乗ってる車が生放送されて一部ソルが見ている!
 →【久瀬さんからの返信】生放送? よくわからないが、ソルがみてくれているなら、心強い。
 ヒーローバッヂを待っている。必ず届けてほしい。頼む。
★久瀬へ:キーホルダーを渡したときの願いをぼかさず恥ずかしがらず正直に答えてほしい
 それがハッピーエンドへの道筋を形作るものになる可能性がある
 →【制作者からのメール】先ほど送信されたメールは、「100番目の謎」のトリガーとなる情報が含まれているため、
 彼には届かない。100番目の謎のみは、まだ公開される予定はない。
★久瀬へ:みさきと星を見た公園とはどこか
 →【制作者からのメール】 先ほど送信されたメールは、「100の謎」のトリガーとなる情報が含まれているため、
 彼には届かない。 その謎はすでに公開されている。21番目の謎は、彼らはどこにいるのか、だ。
★★★ヒーローバッヂの受け渡し場所、早稲田に到着。
★久瀬へ:ミサキちゃんは今、悪魔のことで色々不安定になっているようです。
 多少強引だけど、最悪ビンタしてでも目を覚まさせてあげて!
 →【久瀬さんからの返信】いいのかな。わかった、そうするよ。
★★★久瀬・八千代が乗った乗用車が早稲田に到着。ヒーローバッヂの受け渡し完了。
ヒーローバッヂ受け渡し 飴 新ヒーローバッヂ
★久瀬へ:そのバッチにはソルたちみんなのハッピーエンドへ導くという願いもこもってる
 だから絶対にみんなで一緒にハッピーエンドに行くぞ
 →【久瀬さんからの返信】本当にありがとう!がんばるよ。

■久瀬太一/8月24日/19時20分

 それは、窓から押し込まれてきた。
 意外に大きな紙袋だった。
「なんだよ、それ」
 と八千代がいう。
 オレはその紙袋を開く。
 何通もの手紙が入っていた。
 それから、スマートフォン。おそらく八千代のものだ。続いてキャンディ。これもきっと、八千代用だろう。
 それから、もちろん、ヒーローバッヂが入っていた。
 ちゃちで小さな円盤だった。
 でも、なによりも価値のあるものだと知っていた。
 それをつかんだ瞬間、ふいに。
 視界が、あのバスの車内に切り替わった。

       ※

「よう」
 ときぐるみがいう。
「よう」
 とオレは答える。
「ヒーローバッヂは手に入ったか?」
「ああ」
 オレはそっと、手を開く。
 そこには、新品の、綺麗なヒーローバッヂがあった。
「本物か?」
 思い出していた。
 ヒーローバッヂ。それは、みさきがオレへのプレゼントとして用意したものだ。オレが知っているヒーローバッヂは、ぼろぼろに傷ついていた。
 アスファルトに転がっていたそれを、オレは間近でみていた。それに手を伸ばそうとして、でも届かなかった。
 ずきん、と顔の左半分が痛む。
「偽物なわけないだろ」
 オレは無理やりに答える。
「このヒーローバッヂが、偽物なわけないだろ」
 きっと。
 みんなが、用意してくれたんだ。
 オレとみさきのために、心を込めて。
 このバッヂか偽物だっていうんなら、一体どこに本物のヒーローバッヂがあるっていうんだ。これよりもわかりやすい形をした奇跡が、どこにあるっていうんだ。
 オレはヒーローじゃない。 
「オレがヒーローだ」
 結局、オレはみさきを悲しませた。
「絶対に、みさきに悲しいことなんて起こらない」
 みんなが助けてくれたんだ。
「オレが助けてやる」
 いつの間にか、全身から、痛みが消えていた。
 なぜだろう? なんでもできるような気がした。
 いや。それは不思議なことではなくって。たぶん奇跡というのも違って。もちろんどこまでも当然だけど、反面で、当たり前のようでもあった。
「もう大丈夫だ」
 とオレは答える。
「そりゃよかった」
 きぐるみは笑っている。
「ソルだけは裏切るな。あいつらは遠い世界にいる。でも確実に、君を照らす」
 首を振る。
「どうかな。意外と、すぐ傍にいるのかもしれないぜ」
 オレは目を開く。

       ※

 真夏でよかった、と思った。
 19時でも、青空に太陽が浮かんでいた。
 その光に目を細めると、自然と、笑った表情になった。
「どうしたんだ?」
 と八千代がいう。
「機嫌が良さそうじゃないか」
 そんなわけがない。
 これから、みさきが撃たれる未来を知っているのだから。
 でも。
「ああ。プレゼントを貰ったんだ」
 そう答えて、オレは手の中のヒーローバッヂを握りしめた。

【BREAK!!/BAD FLAG-06 8月24日 回避成功!】
【BAD FLAG-ALL BREAK!!】


■八千代雄吾/8月24日/19時30分

「傷は?」
「問題ない」
「問題ないわけないんだがね」
「でも、問題ないんだ。不思議とね」
 久瀬とそんなやりとりを交わしていたときだった。
 道路脇からふいに、男が飛び出した。
 どうしようもなくオレは、ブレーキを踏み込む。
 ボンネットが男に触れる。その、数センチ手前で停まる。
 その男はもちろん、ひと目でわかった。
 ――ニール?
 どうして?
 彼は不敵に笑って、ボンネットに右足をかける。
「よう、八千代」
 と彼は言った。
 さすがにアクセルは踏めなかった。
「久しぶりだね、ニール。悪いんだけど、ちょっと急いでるんだ」
「ああ。こっちも急ぎの用だ」
「なんなら、乗ってくかい?」
「残念だがな。お前らを車から引きずりおろすのが、オレの用でね」
 もう2人、周囲には男たちが現れていた。片方が車のすぐ後ろに立っているせいで、バックもできない。
「どうする?」
 と久瀬が言う。
「いいアイデアはあるかい?」
「こういうのはお前の専門だろ」
「おいおい、車の前に飛び出してくる男の専門家なんているかよ」
 ――目的地は、それほど遠くはない。
 車を捨てた方が早い。わかっていた。
 だが、今の久瀬が走れるとは思えない。
 なのに、こいつは言った。
「走ろう」
「お前は走れない」
「いや。走れるよ」
「どうして?」
 笑うだけで、彼はなにも答えなかった。
 そんなわけない。痛みは物理的に肉体を制限する。精神論じゃないんだ。刺された人間は、そう簡単には走れない。
 なのに久瀬は平然と、「問題ない」と言った。
「同じドアからだ、ついてこい」
 小さな声でそう告げて、オレは車を降りる。
 ニールと、2人の男が、こちらに近づいてくる。
 久瀬が降車したのを確認してから、オレはニールに尋ねた。
「なんの用だい?」
「ちょっとお使いでね。ここから先に通すなって言われている」
「だれに?」
「メリー」
 は、とオレは笑った。
「どうしたんだニール。お前は誰よりも自由な男だろう?」
「ああ。だからたまには、気まぐれに命令に従ったりもする」
「メリーってのはそんなにいい女なのか?」
「ちょっと愛着があるんだよ」
「へぇ。詳しくききたいね」
 オレは、指先で久瀬の注意をひいて、叫ぶ。
「左だ。走れ」
 間髪いれずに、久瀬が走り出す。まっすぐ左。そこには、黒いスーツの男がひとり立っていた。強硬派の誰かだったとは思うが、名前までは覚えていない。
 オレは、久瀬よりもほんの少し早く、動き出していた。
 腕力で吹き飛ばすように、大きく腕を振って殴りつける。
 男が膝をついた。久瀬がその脇を縫って、駆け抜ける。不思議だ。その走り方は本当に、脇の傷がなくなったようだった。
 ――なんにせよ、あとふたりだ。
 久瀬が走り続けられるとは思えなかった。
 ニールを含めてふたりとも、さっさと処理しなければならない。
 久瀬を追いかけようとした男の、肩をつかむ。
 拳を固めて、顎の辺りを殴る。
 男は数歩、ふらついた。そのあいだに詰め寄り、また顎を狙う。だが、焦り過ぎたのだろう。腕で止められた。
 腹に膝を入れ、背中に肘をおとして、どうにか2人目を片付ける。
 ――時間をかけすぎた。
 ニールはもういない。そう思っていた。
 だが。
「相変わらず、強いな八千代」
 そう言って、ニールは笑う。
「どうして久瀬を追いかけない?」
「別に」
 彼は肩をすくめた。
「なんとなく、気分だよ」


■久瀬太一/8月24日/19時35分

「左だ。走れ」
 と八千代が叫んだ瞬間、走り出していた。
 すぐそこに男がいる。気にせず走った。殴れとは言われていない。
 と、目の前で、そいつは吹き飛んだ。脇を駆け抜けて走る。
 後ろからは足音が聞こえた。
 気にせずに走る。
 刺された傷は、やはり痛む。
 でも先ほどまでよりもずっと、その痛みは穏やかなものになっていた。
 不思議だ。
 ――いや。そうでもないか。
 今さら、ソルたちから届いたヒーローバッヂが特別な力を持っていたとして、それが不思議なことだとは思えない。
 オレは前だけをみて走る。


■佐倉みさき/8月24日/19時40分

 メリーとの待ち合わせ場所に向かう途中だった。
「道、わかるだろ」
 とニールは言った。
「勝手にいけよ」
 つまらなそうな声だ。なんだか、道端に投げ捨てていくような声だった。
 そして私は唐突に、およそひと月ぶりに、ひとりきり自由な身になった。
 ――自由?
 どこが、とため息がでる。
 ――メリーに会おう。
 そう決める。
 もちろん、あの公園への道はわかる。


■八千代雄吾/8月24日/19時45分

 ニールがアスファルトの上に、大の字になって寝転がっていた。
 彼は荒い息で、口元を歪めて笑う。
 なんだか、泣き顔みたいな笑い方だった。
 空を見上げたまま、ニールは言った。
「オレは、どこにだっていけるんだ」
 それはこいつの口癖みたいなものだ。
 あるいは、人生の目標みたいなものなのかもしれない。
「でもこのあいだ、靴を失くした」
「靴?」
「大事な靴だよ。ずっと前に貰ったんだ」
 ――プレゼントのことだ。
 すぐに、わかった。
「それで?」
 頭を掻きながら、ニールは言う。
「近所のコンビニに行くのも、やたら億劫でね。なかなか家からでなかった」
 何が言いたいのか、いまいちよくわからなかった。
「お前に勝ったら、またどこにでもいけるような気がしたんだよ」
 オレは首を振る。
「悪いが、オレは久瀬を追うぜ?」
「ああ」
 急いだ方がいい。もちろん、わかっていた。
 車に乗り込んで、だがオレはもう一度、ニールに視線を向ける。
「そうだ。キャンディ、食うかい?」
 ニールは首を振った。
「ポテトチップスの方が好きだ」
 勝手にしろ、と笑って、オレはエンジンをかけた。


■久瀬太一/8月24日/19時50分

 走っていた。
 ヒーローバッヂを握りしめて、まっすぐに。
 これはバトンのようなものなのだ、と思った。
 どこか遠くから届いた。意外とすぐ傍から届いた。誰でもない誰かの。誰でもある誰かの。大勢の。
 ――思い出していた。
 12年前の冬、オレは、同じように走っていた。
 パーティに遅刻して。前の年にみさきと、「絶対にまた会おう」と約束していて。その約束を破りたくはなくて。
 ――あのときはひとりだった。
 親父はあとから追いかけてくることになっていた。
 ――オレはひとりで走って、でも間に合わなかった。
 でも、今は違う。
 いくつもの力がオレの背中を押している。
 ――あの日、オレはヒーローバッヂを手に入れられなかった。
 でも、今は違う。それを持っている。
 大勢の力に護られていて、大勢のひとたちが応援してくれる。
 ――だから、間に合うんだよ。
 必ず。不安でも。
 全力で走れば、必ず間に合うんだ。
 ――みんなが動けば、当たり前に奇跡だって起きるらしいぜ。
 とあのきぐるみは言った。
 今、オレはたぶん、みんなで走っている。

       ※

 そして。
 公園の入り口に向かって歩く、みさきの後ろ姿をみつけた。
「待て、みさき!」
 オレは叫ぶ。そして――
 彼女に向かって、跳んだ。


■佐倉みさき/8月24日/19時55分

 ぐるぐると、考え込んで歩いていた。
 ――私は、悪魔なのだろうか。
 たしかに12年前のことは、私に原因があったのだと思う。
 弱くて、不注意だった私を庇って、彼は血を流した。 
 昨日の夜だって、廃ホテルに久瀬くんが助けにきてくれたときだって。
 ――私が、彼に近づけば、彼は傷つく。
 どうして? そんなの、偶然じゃないの?
 つい、そう考える。それは理性よりもむしろ感情で。
 でもあまりに、例示が多すぎた。
 この12年間で、私が彼に接近したのは、その3回だけなのだ。どうして。
 ――やっぱり、私は悪魔なのだろう。
 そう考えると、妙に腑に落ちた。
 なんだかとても自然なことのように思えた。
 ――そうよ。
 と声が聞こえる。
 少女の声。
 ――貴女は久瀬くんと一緒にいちゃいけないの。
 でも。どうしても。
 そんなの、みとめたくはなかった。
 メリーならなにかを知っているかもしれないと思った。私を悪魔と呼ぶ、聖夜協会のトップにいる女性なら。
 もちろんそんな人が、私にとって都合の良い答えを返してくれるはずなどなかった。でも。
 私が彼に近づくべきではないのなら、それをきちんと証明して欲しかった。
 プレゼントとか、そんな、無茶苦茶な理由でいいから。
 ちゃんと彼との再会を諦める理由が欲しかった。
 ――そのとき。
「待て、みさき」
 と、叫び声が聞こえた。
 聞き間違えるはずがなかった。
 久瀬くんの声だった。
 ――嬉しい。
 でも、同時に。
 また彼が傷つくのではないか、という恐怖に、背筋がぞくりと震えた。


■あるクリスマス

 その夜、少年はバス降り、ホテルへと向かう道を走っていた。
 昨年、彼女と約束していたのだ。――来年も絶対に、また会おう、と。
 ずいぶん到着が遅れてしまった。
 もしかしたら、少女は悲しんでいるかもしれない、と少年は思った。
 彼女には、絶対に悲しいことが起こらないようにする。それも、約束のひとつだと少年は思っていた。
 ――もちろん、そんなことできるわけがない。
 そのことを少年は知っていた。
 これまでもいくつかの、悲しいことを体験していた。
 少年の力ではどうしようもないことが、たくさんあった。
 ――でも、オレはそんな嘘、つきたくないんだ。
 本当に。嘘ではなく。彼女にふりかかる悲しいことを、すべて消し去ることができればいいと思っていた。
 だから、冬の夜の道を、少年は必死に走った。

       ※
 
 ホテルの前で、少年は彼女の後姿をみつけた。
 彼女は落ち込んでいるように、うつむいて、でも足早に歩いていた。
 ――どこに、行くんだろう?
 声をかけようと思った。そのときだった。
 彼女は信号のない道路を、うつむいたまま渡ろうとして、そのとき。
 鋭利な光が彼女を刺す。尖ったブレーキ音が、響いた。
 少年は、ほとんど意識もせず、走り出していた。
 そして、少女の背中を、まるでビンタみたいに。
 思い切り腕を振って、突き飛ばした。


■久瀬太一/8月24日/20時

 そしてオレは、彼女の背中を、思い切り抱きしめた。
 もつれあうように地面に転がる。腕の中で、彼女が強引に振り向いた。額がぶつかるほどの距離に、彼女の顔がある。まんまるな目に、少し涙が溜まっている。
 銃声は聞こえなかった。
 慌てて立ち上がって、辺りを見回す。
 周囲の見通しはいい。怪しい人物はいない。よほど専門的なスナイパーが敵でもない限りは。
 ――間に合った、のか?
 とりあえず危険はなさそうだ、とわかっても鼓動が激しく胸を叩いていた。脇を刺された痛みで、オレは顔をしかめる。
「大丈夫?」
 と泣き声みたいな、震えた声で、彼女は言う。
「久しぶり」
 とオレは言った。
 みさきはとぼけたような表情を浮かべたあとで、「久しぶり」と答えた。
 ここは危険かもしれないけれど、じゃあ、どこにいけば安全なのだろう?
 よくわからなかった。
 とりあえずオレは、みさきの手をつかんで歩き出す。なるたけ見通しのいい方に進んだ。
「あの」
 言いづらそうに、みさきが告げる。
「大丈夫なの? そばにいて」
「なにがダメなんだよ」
「それは」
 彼女は言葉を詰まらせる。
 オレは、尋ねた。
「お前、悪魔なの?」
 真剣な表情で、みさきが答えた。
「うん。そうかもしれない」
 笑って、オレは、彼女の頬を軽くビンタする。
 女の子を叩くのは気が進まないことだったけれど、ソルとの約束だから仕方がない。
「そんなわけないだろ」
「でも」
「たぶんさ」
 オレは、ほんの僅かな時間だけ、空を見上げる。
 もう夜だ。星もあまりみえない。でもきっと太陽はどこか遠いところから、今でも光を届けていて、夜空でさえ少しだけ明るい。
「この世界中で、誰ひとり、お前が悪魔なんて信じてないよ」


■第1部完

 ――水曜日のクリスマスには100の謎がある。


 61番目の謎は、なぜ彼女は悪魔なのか、だ。
 62番目の謎は、彼女に殺意を向けていたのは誰か、だ。
 63番目の謎は、なぜ彼と彼女は出会ってはならなかったのか、だ。


■エピローグ

 そしてオレは、バスの最後尾に乗っていた。
 前方のリュミエールが、軽くのびをする。
「とりあえず、夏はここまでね」
 原稿用紙の束をまとめながら、グーテンベルクが首を傾げた。
「まだ続けるの?」
「センセイは、そのつもりだと思うけれど」
「結局、ひとつもバッドフラグは成立しなかったわよ」
「とはいえ、すべてが解決したわけじゃないもの」
「いつ解決するのよ?」
「さあね。とりあえず、『今』に帰りましょう」
 バスが停まる。
 それから、短い距離バックして、180度方向を転換した。
 オレはきぐるみの頭を取る。
 目を閉じた。
 耳の奥でまだ、ベルの音が反響している。

――End


■おまけのページ/応援のお手紙

8月23日(土) ← 3D小説「bell」 → 8月25日(月)
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