2014/12/23(火) 14:52 【 EDIT

『ニールの視点』

ニールの視点1 
※ニールの視点:近見(熊本)「TSUTAYA AVクラブ近見店」にて発見。

 電話に向かってとりあえずどなる。
「どうしてオレが熊本なんだよ!」
 向こうから聞こえてきたのは苦笑だった。
「オレが割り振ったわけじゃない。センセイ
がしたことだ。仕方ないだろ?」
「そもそもどうしてオレが本屋なんかにい
かなくちゃならな?使いっ走りなんかそ
のへんの馬鹿にやらしておけばいいだろ」
「ごちゃごちゃともめたくないんだよ。セン
セイの帰還で、タイミングはイヴだ、誰だっ

て浮足立つさ。とりあえず招待状が届いた奴
を向かわせるのが、いちばん問題がない」
「もめたい奴らはもめりゃいい」
「そういうなよ。もうすぐクリスマスだ」
「いつからキリスト教徒になった?」
「うちにとってもクリスマスは特別だろ?」
「いつの間にかずいぶん協会員らしくなっ
たじゃないか、ドイル」
「その呼び方は嫌味か?」
「はっ。お前にそう聞こえたならそうなんだ

ろうさ」
 九州は嫌いだ。
 南の方ならなおさらだ。
 どうして鹿児島本線なんてふざけた名前の
路線で移動しなくちゃいけない? まったく
空が晴れているのさえ嫌になる。
 八千代はいつものように鼻に付く笑い声を
上げる。

「ついでに、実家に顔を出してこいよ。そろ
そろ親父と仲直りしろって、センセイも考え

てるんだろ」
「うるせぇ。いいか?あのバカは自分の価
値観だけで生きてきたんだよ。そういう生き
方しかできない奴と、気が合わなかったなら
距離を取るのが当然なんだ。血が繋がってい
ようが例外じゃない」
「ああ。話を聞く限りじゃ、お前によく似た
親父さんみたいだ」
「どこがだ?真逆だよ」
「真逆ってのはだいたいが似ているもんさ。

まったく違うと反対にもなれない」
「オレにわかった風な口をきくんじゃねぇ」
 初めて八千代に会ったのがいつだろうが
知ったことじゃないが、なんにせよもうずい
ぶん前のことだ。互いに高校生だったか、高
校を卒業したあとか。まあだいたいその辺り
だった。
 あったのは聖夜協会関係のなにか--あい
つはオレをニールと呼び、オレはあいつを
八千代と呼んでいるから、きっとそうなんだ

ろう。あの馬鹿がドイルなんて名前を継いだ
のはほんの数か月前のことだった。
 八千代は気に入らない奴だが、気に入らな
い奴らの中じゃまだましだ。小器用ぶった連
中の中では不器用に生きていて、小賢しい連
中の中じゃ馬鹿なことができる。そんな印象
だった。
「お前、今どのあたりだ?」
「駅と本屋のあいだだよ」
「あとどれくらいで着く?」

「知らねぇよ。道に聞け」
「道が答えるかよ。グーグルマップに訊いて
みろ」
「オレにちまちまフリック入力しろっての
か?」
「入力方式までは知らねぇよ」
「別にいいだろ、そのうち着く」
 寒いとつい前屈気味の姿勢になる。オレは
片手をポケットに突っこんで、もう片方の手
でスマートフォンを握って、できるだけ大き

な歩幅で歩く。すでに駅を出てからずいぶん
歩いていた。あれは本当に最寄り駅だったの
か? これだから田舎は嫌なんだ。
「そういやさっき、ベートーヴェンと話した
ぜ」
「ベートーヴェン?」
 協会員だろうが、聞き覚えがない。
「新人の。ほらアルベルトの紹介でいきな
りセンセイの招待状が届いたって話題になっ
てるだろ」

「ああ、思い出した。どうでもいい」
「とはいえアルベルトは気になる。お前、
会ったことは?」
「ずいぶん前に一度か二度」
「どんな印象だった?」
「覚えてねぇよ。興味ねぇ」
「ベートーヴェンは、よほどの役者じゃなけ
りゃ、なんにも知らない。そんな奴を送り込
んで、アルベルトになんの利点がある?」
「なんにも知らない馬鹿がいちばん使いや

すい場面だってあるさ」
「たとえば?」
「雑用だろ。裏にややこしい理由がある奴。
嘘の演説を上手くさせたけりゃ、それが嘘
だって知らない奴にさせればいい」
「それ、だれの言葉だ?」
「オレだよ。引用は嫌いだ」
「私は引用が嫌いだ。君の知っていることを
話してくれ」
「なんだよそれ?」

「どっかの哲学者の引用だよ」
 はっ、とオレは笑う。趣味の悪いことをい
う。
 前方にようやく、目的の本屋がみえた。
「着いた。切るぞ」
 本屋で電話をしている奴は嫌いだ。そのま
ま狭い通路を歩いている奴は最悪だ。その場
所にはその場所のマナーがある。
「ああ。なにかみつけたら教えてくれ」
 八千代は電話の向こうでそう答えて、それ

から電話を切った。

 ※

 で、いったいオレに、ここでなにをみつけ
ろってんだ?
 目的の書店は、有名なレンタルショップ
だった。オレは本よりは映画の方が好きだ。
まあまあレベルのぬるい映画を二倍速でみ
るのがいちばんいい。アクション、ミステ

リー、SF、アニメ--その辺りの棚に向かい
たかったが、こんなところでレンタルして東
京まで持って帰るのは馬鹿げている。手荷物
があるとすぐゴミ箱につっこみたくなる性質
だ。
 オレはふらふらと店内を歩き、惰性で読ん
でいる漫画の新刊が出ていたのでレジに持っ
ていく。
 会計をしていると、カウンターの脇に小さ
なメモが張りついているのをみつけた。

 鏡に映った左右の少女。
 ぴったり形を重ねたときに、合わない所に
キーがある。

「おい、なんだこりゃ」
 指さしてオレは店員に尋ねる。
 だが店員もよく知らないようで、まともな
答えはかえってこなかった。
「これ、もらうぜ」

 オレはメモをはがしていく。店員がなにか
言っていたが、知ったことじゃない。
 オレはそのまま本屋を出る。
 と、また八千代から電話があった。
「なにかみつかったか?」
「漫画の新刊があった」
「そりゃよかった」
「じゃあな」
 メモのことを思い出したが、話題には出さ
なかった。寒くてスマートフォンをにぎって

いるのが、いい加減嫌になってきたのだ。

 鏡に映った左右の少女。
 ぴったり形を重ねたときに、合わない所にキーがある。


ニールの視点3 鼻に「着」く→鼻に「付」く
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