2014/12/23(火) 16:26 【 EDIT

12月23日(火)

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★★★東戸塚(神奈川)「アシーネ東戸塚店」にて『【第2部】ワーグナーの視点』を発見。

 『【第2部】ワーグナーの視点』

・ノイマン:クリスマス懇親会への招待状を受け取ったが、別件で暇がないため欠席。センセイから極秘映像の撮影を依頼された。
・ワーグナー:ノイマンの代役として、クリスマス懇親会へ出席予定。
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・センセイを捜して右往左往している。メールが来ただけで会っていない。協会へ報告したが、センセイからの指示で内容の細部は秘密。
・ノイマンが依頼された極秘映像は「子供っぽい映像よ。この歳でせっせと色画用紙をハサミで切ってるわ」
・「本物のホラー空間に閉じ込めてあげましょうか?」
・奇妙なメモ【キーのひとつは錠にある。文字は点でも、言葉は線だ】


★★★唐崎(滋賀)「本のがんこ堂 唐崎店」にて『ベートーヴェンの視点』発見。

『ベートーヴェンの視点』

・ベートーヴェン(女):アルベルトの紹介により3日ほど前からベートーヴェンとして聖夜協会員になった。潜入捜査のための一時的な名前だが、愛着がある。アルベルトが女性だということも初めて知った。
・ドイル:喋り方は柔らかいけれどなかなか電話に出てくれない。センセイ、アルベルトと会ったことがない。
・アルベルト(女):聖夜協会にベートーヴェンを紹介。聖夜協会においては最古参のひとりだが長い間、協会には顔を出していない。
・センセイ:聖夜協会の主催。子供っぽいものが好きな人。
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・クリスマスイヴに、聖夜協会と呼ばれる謎の組織の元にセンセイを名乗る謎の首領が戻ってきて懇親会という名の怪しげなパーティをひらくらしい。
・琵琶湖で泳いだ記憶があるので、滋賀は2度目。
・ドイルからの電話。取材のチャンスを逃してはならない。
・聖夜協会は簡単に言ってしまえば社交クラブみたいなもの。気の合う人たちがたまに顔を合わせて、お酒を飲んで、雑談する。聖夜協会に上限関係はない。主催のセンセイは忙しいのか、なかなか姿を現さない。
・センセイにプレゼントを持っていくといい。「もしアルベルトに会ったら、尋ねてみて欲しい。貴女のプレゼントはなんですか、と」
・少年に渡されたメモ【キーのひとつは、絵画が語る。ミレー・ルノワール・ビアスタット・レンブラント・ゴッホ・コロー・モネ・ドーソン・シスレー・ゴッホ。世界の偉大な画家たちに感謝を】


★★★秋葉原(東京)「書泉ブックタワー」にて『ファーブルの視点』発見。

『ファーブルの視点』

・ノイマン:ドン・キホーテ(ディスカウントストア)へ紙吹雪とドミノを買いに行く。
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・紙吹雪とドミノはセンセイから依頼された極秘映像に使用する。
・極秘映像はファーブルが受け取る事になっている。
・レジカウンターの上にあったメモ用紙【キーのひとつは太陽が照らす文字にある。双子の差が重要だ】


★★★札幌(北海道)「三省堂書店 札幌店」にて『アルベルトの視点』発見。

『アルベルトの視点』

・アルベルト:先生の事情をある程度理解している。あちら側に戻る必要が生まれた。それは良い傾向ではない。
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・物語は強い制限を受けている。ルールによって。●●によって。●●●●●●●●によって。現状、すべてはただの物語として進行しなければならない。
・北海道に来るのは3度目。
・ドイルと通話。「どうして書店なのか」「深い意図はない。おそらくあの本に近づけるため」
・センセイの行動は不可解だろう。●●●●●●●●●がルールとして機能しているというのは、少し考えづらいことだ。
・センセイに敵はいない。ひとりも敵と呼べる人間はいない。あるのは物語と、物語への参加者と、物語の読者だけだ。
・「時系列を整理するといい」
・センセイが残したメモ【四つの答えが、五つ目の答えを導く】


★★★近見(熊本)「TSUTAYA AVクラブ近見店」にて『ニールの視点』発見。

『ニールの視点』

・ニール:新幹線で熊本の書店へ向かう。寒いとつい前屈気味の姿勢になる。大きな歩幅。アルベルトとは随分前に一度か二度会っている。本屋で電話をしている奴が嫌い。そのまま狭い通路を歩いている奴は最悪。手荷物があるとすぐゴミ箱に突っ込みたくなる性質。
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・ニールと八千代が初めて会ったのは高校時代か、卒業した頃。
・八千代がドイルの名を継いだのは数か月前。
・「そういやさっき、ベートーヴェンと話したぜ」
・レジカウンター脇にメモ【鏡に映った左右の少女。ぴったり形を重ねたときに、合わない所にキーがある】


■山本美優/12月23日/16時

 それぞれ実家に帰る前にランチでもということで、数人の友人に会った帰りだった。
 私はよく利用する商店街のパン屋さんに立ち寄り、カレーパンとベーコンのフォカッチャを買った。夜は抜いて明日の朝食にするつもりだけれど、今日はランチが早かったため、夜にたべてしまうかもしれない。よくない。平均よりも少しだけ身長が高いから、体重も同じだけ上回ってしまうのだと言い訳してきたけれど、やはり理想ではもうちょっと落としたかった。
 商店街では相も変わらずクリスマスミュージックが繰り返されている。
 私はここから逃げ出したい気分になる。
 ――今夜のうちに、実家に帰ってしまおうかな。
 と少し考える。
 明日の予定はない。
 あの怪しげな「クリスマス懇親会」とやらには、やっぱり出るべきではないだろう。
 久瀬くんのことがあるせいで、なかなか「いかない」と決断できないでいるけれど、このまま返事を引き延ばせば自ずと不参加ということになりそうだ。
 それでいいのだ、と自分に言い聞かせる。
 ただ一通、彼のことを尋ねるメールだけは送ろう。
 それでいい。だって友人が同じ状況に巻き込まれていたなら、「そんなの行っちゃだめだよ」とアドバイスする。馬鹿なことは避けて通るべきだ。
 一方で、もし久瀬くんだったなら、ためらわずにクリスマス懇親会に参加するだろう、という予想も簡単についた。彼に関する記憶はほんの幼いころのもので、もちろん大学生になった今の私の判断基準にするのはおかしな話だけれど、彼に対する憧れのようなものは今も拭い去れない。だから未だに、いかないと決めてしまうこともできない。
 私は本質的に、とても臆病で優柔不断なのだと自覚しているけれど、でもほんの1パーセントか2パーセントだけ無謀なところがある。
 久瀬くんが私と同じ小学校に通っていたのは、たった4か月間のことだ。
 21年間の人生のうち、たったの63分の1だ。
 その63分の1の影響が、今も私の中に残り続けている。
 ――もしもその比率が、もう少し高かったなら。
 あのクリスマスに久瀬くんが事故に遭わなかったなら、私はまったく違っていただろう。
 私は本当は、そちらの私になりたかった。
 だからクリスマスは嫌いだ。

       ※

 と、そんなことをつらつらと考えながら歩いていた時だった。
 後ろからふいに、声をかけられた。
「すみません」
 私は足を止めて振り返る。
 そこに立っていたのは、眼鏡をかけた、ひょろりとした印象の青年だった。
「山本さんですね?」
 やばい、と感じた。
 この青年は、一昨日から起こっている、わけのわからない出来事の一部なのだと直観で理解した。どうしてみんな私の名前を知っているのだろう? 本当に止めて欲しい。
「違います」
 と私は答える。
 それから、返事をせずに逃げ出せばよかったと思った。
「いえ。貴女が山本さんだ」
「違うって言ってるでしょう」
 眼鏡はこちらの話なんてちっとも聞いていないようだった。
「悪いことはいわない。明日のクリスマス懇親会には、出るべきではありません」
「貴方、だれなんですか?」
「山本さんよりはセンセイに会うことを望んでいる者です。招待状をこちらに渡してください」
「招待状なんて知りません」
「そんなはずがない。必ず持っているはずです。さぁ、早く」
「知らないって言ってるでしょ」
 本当に、知らない。
 私が受け取ったのはメールだ。招待状じゃない。
 ――もしかしてこいつは、あのスマートフォンを渡せと言っているのだろうか?
 でも、それは。
「さっさと渡せ!」
 と眼鏡が叫ぶ。
「嫌」
 理性より先に感情で答えていた。
 なんだこいつ。気持ち悪い。
 でも、嫌だ。クリスマス懇親会なんてものに出るつもりはないけれど。
 あのスマートフォンも気持ち悪いけれど、唯一の久瀬くんへの手がかりだ。
 手放すつもりなんてない。

 私は眼鏡に背を向けて、走り出した。


■山本美優/12月23日/16時10分

 運動には多少なりとも自信があった。
 でもあの眼鏡の方が速い。
 足音でそれがわかった。肩をつかまれ、バランスを崩す。
「ふざけるなよ」
 と眼鏡が言った。
「なんなんだよ、あんたは。どうしてセンセイに呼ばれたんだ? いったい、どんな手を使った? いったいどれだけの人がセンセイの帰還を待ちわびていたと思っているんだ。どうしてお前なんだよ!」
 なにを言っているんだ、こいつは。
 不条理だ。私がなにをしたっていうんだ。
 センセイなんて知らない。この眼鏡がどれだけセンセイに会いたがっているのかも知らない。そんなの私に関係ない。
 強くつかまれた肩が痛くて、いらっとした。
 よくない傾向だとわかっていた。それはつまずいて転ぶ前の浮遊感に似ていた。一瞬先でトラブルが起こると知っていた。
「そっちの事情なんて、私には関係ない」
 私を追い詰めないで欲しかった。自分でもわけがわからないことをするんだ。
 ほら――
「センセイに呼ばれたのは私でしょ。何に嫉妬してるんだか知らないけど、クリスマス懇親会に行くのは私よ」
 目の前への苛立ちだけで、つい叫び返してしまう。
 眼鏡の表情が明らかに変わった。彼が右手を固く握るのがわかった。
 殴られるのだろう。身体が硬直する。でも別にいい。
 妙に冷静に、私は胸の中でため息をつく。
 ――ほら、私はすぐに意地を張るんだから。
 私を追い詰めないで欲しい。

 眼鏡が拳を振り上げて、その直後。
 彼の真後ろに、赤いスポーツカーが止まった。


■八千代雄吾/12月23日/16時15分

 尾道は、のんびり過ごすには良い街だ。
 静かで、落ち着いている。波の音は心が穏やかになる。
 それほど栄えているとは言い難いが、意外に居心地が良い店も多い。
 それに入り組んだ狭い坂道は、冒険心をくすぐられる。
 とはいえここで2泊したのは、ゆっくり休むことが目的じゃない。もう一度あの山本という少女に会うためだった。
 彼女はこちらを警戒しているだろうから、どうコンタクトを取るのかは少し迷った。ワイルドカードになりそうなのは、久瀬という10年前に失踪した少年。だがそちらの情報はなかなか手に入らない。
 最悪、次のコンタクトは24日の朝でいい。そう考えていると、熊本を訪れていた友人が、新幹線で戻ってくるというから合流することにした。

       ※

「で、書店にはなにがあった?」
「忘れた」
「つれないねえ。友達だろ?」
「いつからそうなった?」
「オレはね、並んでお好み焼きを食ったら友達だって決めてんだよ」
 そのとき、オレとニールは狭いお好み焼き屋で肩を並べて飯を食っていた。
 本当に狭い店だ。スライド式のドアを開けば、4人ほどが座ると満席になるカウンターがあり、それだけ。民家の玄関で飯を食っているような気分になる。
 だが味はいい。
「これで500円だぜ。べらぼうだろ?」
 とオレは割り箸で暴力的な量のキャベツが入ったお好み焼きを指す。
 ニールは、は、とつまらなそうに笑う。
「だとしてもそれはお前の手柄じゃねぇ」
「そりゃひどいな。君の好みに合わせてわざわざ探したんだぜ? こういう、安くて美味いジャンクなのが好みだろ」
「飯屋で勝ち誇る馬鹿は嫌いだよ。いちいち人の趣味がどうこう語る馬鹿もだ。おい、水」
 オレはニールのグラスに水を注いでやる。
 と、そのとき、スマートフォンが震えた。
 番号は非通知。応答すると、女性の声が聞こえた。
「ゲストに会員の一人が接触した」
 ――アルベルト。
 なんの前置きも注釈もない電話だ。
「わかりました。場所は?」
 わざわざ連絡が来たのだから、様子を見に行けといいたいんだろう。
 要点のみ聞きながら、ニールに「出るぞ」と声をかける。
「おい、まだ食ってる途中だぞ?」
「ねぇおばちゃん。これ、テイクアウトってできる?」
「勝手に話を進めてんじゃねぇよ」
 通話の切れたスマートフォンをポケットに突っ込み、パックに詰まったお好み焼きを手に、オレたちは店を出る。細い通路を駆け抜けて、止めていた車に飛び乗った。

       ※

 現場はすぐそばだ。ほんの数分で到着する。
 助手席でお好み焼きを食っていたニールが、窓の外をみて「ん?」と唸った。
 そこにいるのは山本美優という少女――それから、眼鏡をかけたひとりの青年。確かに聖夜協会員だったはずだが、名前は覚えていない。
 少女の、意外に大きな叫び声が聞こえる。
「何に嫉妬してるんだか知らないけど、クリスマス懇親会に行くのは私よ」
 なかなか元気がいい。余計な手間が省けたようで、オレは笑う。
 眼鏡のすぐ背後に車をつけた。
 運転席のドアを開けようとしたオレに、ニールがお好み焼きを押しつける。
「オレが行く」
「どうして?」
「そういう気分なんだよ」
 ドアを開けて車を降りるニールに、後ろから声をかけた。
「じゃ、貸しひとつだ」
「どうしてそうなる?」
「女の子を助けられる機会を譲ってやるんだ。当然だろ?」
 舌打ちして、ニールは律儀に車のドアを閉めた。


■山本美優/12月23日/16時20分

 赤いスポーツカーから降りてきたのは、サングラスをかけた男だった。
 彼は車内になにか言ってから、舌打ちしてドアを閉めた。
 私も、眼鏡も、その様子をただ眺めていた。
「ニールさん」
 と眼鏡が言う。
「どうしてあんたが、ここにいるんです?」
 どうやら知り合いらしい。
 サングラス――ニールと呼ばれた男は、頭を掻いて答える。
「ああ? 熊本から新幹線乗って、駅弁食おうと思ったら運転席の馬鹿から美味いお好み焼き屋があるって電話がかかってきて、だから腹減ってんのに我慢して広島まで――」
「そういう話をしてるんじゃないんですよ!」
「うるせぇ叫ぶな。なんとなく馬鹿を殴りたくなったから食いかけのお好み焼きパック詰めにしてわざわざ来てやったんだろうが」
 なんだかよくわからないけれど、このあいだに逃げ出そう。
 そう思っていると、スポーツカーの窓が開いた。
 ――八千代さん?
 あの赤いスーツの男が、窓から顔を出して手招きしている。
 私がそちらに近づいても、眼鏡は反応しなかった。サングラスの男に意識が向いているようだ。
 八千代さんが車を降り、後部座席のドアを開ける。
「どうぞ」
「でも」
「いざとなったら、逃げ出そう。走るより車が速い」
 仕方なく私は、後部座席に乗り込む。八千代さんは再び運転席に戻った。
「まずは懇親会への参加を決めてくれて、ありがとう」
「聞いていたんですか?」
「ぎりぎり聞こえた。聞き逃さなくてよかった」
「あれは、つい勢いで」
「じゃあやっぱりやめておく?」
「……いえ」
 なんとなく投げやりな気分で、私は答える。
「行きますよ。その、センセイって人に会えば久瀬くんのこともわかるかもしれないし」
 ふふ、と八千代さんは、愉快そうに笑う。
「うん。そうしてくれると助かる」
「どうして?」
「わからないけどね。センセイが君の参加を望んでいるなら、きっとそうなった方がいい」
 センセイ。
 その人はいったい、何者なんだろう?
 と、考えていると、助手席のドアが開いた。
 サングラスの男だ。あの眼鏡は、いつの間にかいなくなっている。
「お疲れさん」
 と八千代さんが言う。
「別に疲れてねぇよ」
「じゃあ缶コーヒー買ってきてよ」
「あ?」
「オレ、ブラック。君は?」
 八千代さんがこちらに視線を向ける。
「待てよ。寒いだろうが」
「だからあったかいの飲みたいでしょ」
「そういうことじゃねぇんだよ」
「貸し。さっさと清算しときたいでしょ」
 サングラスの男は舌打ちして、「自販機どこにあんだよ」と呟いた。
 再び車のドアが閉まってから、八千代さんが言う。
「久瀬って子のことを教えてもらえるかな?」
 と八千代さんが言う。
「簡単には説明できません」
 と、私は答えた。
 でも、明日はイヴだ。
 クリスマスが来るたびに、私は彼のことを考えていたように思う。

――To be continued


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