2014/12/24(水) 23:59 【 EDIT

12月24日(水)

12月23日(火) ← 3D小説「bell」 → 12月25日(木)
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★★★シスレーの絵が届く(2人目)。【シスレー/ルーヴシエンヌの道】
シスレー1 シスレー2 シスレー3 シスレー4盗まれた「ポプラの小道」代替品
★★★ドーソンの絵が届く。【ドーソン/カティサーク号】
ドーソン1 ドーソン2) ドーソン3) ドーソン4)
ドーソン5) [モンタギュードーソン]カティーサーク
★★★制作者より本「アインシュタイン 150の言葉」が届く。
from制作者本1 from制作者本2
★★★制作者より本「アインシュタイン 150の言葉」が届く(2人目)。
from制作者本3 from制作者本4 from制作者本5 from制作者本6
★★★メリーよりメール。
メリーからのメール メリーからのメール2
★★★Primzahl:ドイツ語で「素数」
★★★アインシュタインは「一つの石」という意味。
・公式サイトにて「1部のみさきとよく似た人物」が「メリー」として登場。
メリー登場

■メリー/12月24日/15時

 今日がクリスマスイヴだなんて、信じられなかった。
 そんな日は決して訪れないんじゃないかとさえ思っていた。
 準備が足りない。万全とは言い難い。
 それでも私は今夜にすべてをかけなければならないのだ。
 どちらかといえば友達付き合いはしっかりとしている方だから、イヴのお誘いにはことかかなかった。でもそのすべてを断った。いちいち恋人ができたのではないかと疑われるのは遺憾なことだ。今夜の私のテーマはありきたりな恋愛ではない。いってみれば世界と時間を相手にした壮絶な戦いだ。そうとう過剰な心意気だが、わりと本心である。
 ――なんといっても、今夜は久瀬くんを取り戻すチャンスなのだから。
 私はこの世界のなによりも奇跡的なプレゼントを求めている。

       ※

 久瀬太一という少年がいた。
 今はもういない。
 実のところ私も、正確にすべての事情を理解しているわけではないのだけれど、いろんなことがあって10年と何か月か前に、ふっと消えてしまった。
 私はそれから彼を取り戻すことばかりを考えてきた。
 ――というのは、実は正確ではないらしい。
 世界5分前仮説という思考実験がある。
 5分前に世界が生れたとして、私が持っているそれまでの喜びや悲しみや感動や無関心が、体験と知識と私そのものがすべて5分前にふっと生れたという仮定を、どうしたところで否定できないという仮説だ。
 深く考え始めるとわけがわからなくなってくるけれど、この話で私が伝えたいのは懐疑主義的哲学ではなく、ごく表層のSFチックな物語だ。
 ――久瀬太一はほんの数か月前に、10年前からいなかったことに「なった」。
 それが私の持っている、もっとも信憑性の高い彼の情報だ。
 もちろん簡単には信じられないことだ。でも私は、それを事実として信じることに決めている。
 理由は、いろいろあるけれど、いちばんシンプルに語るとこうなる。
 ――だって、その方が都合がいいから。
 彼が過去改変によって消えたというのなら、それは私にとって、この上なく都合の良い話だった。なぜならこの世界では過去改変が起こり得るということだ。
 小躍りして、鼻歌をうたいたくなるほどの僥倖である。僥倖なんて言葉、生れてはじめて使ったかもしれない。
 でも考えてみて欲しい。
 10年前にいなくなった彼を取り戻したい私にとって、もっとも都合がいいのは、「彼がいなくなった」という事実そのものを消すことだ。あるいはおそらくそのきっかけとなった12年前のあの事故自体を消すことだってできるかもしれない。
 単純に、私は過去改変を望んでいる。
 彼にとって不幸な過去が消え去り、幸福な過去と未来が生まれることを望んでいる。
 ややこしい設定も世界の真理も関係なく。
 私はそんな、奇跡的なプレゼントを、この聖夜に願っている。

       ※

 私はイヴにPCのキーボードを叩く。
 顔も知らない大勢に向かって。
 ――急なメールで申し訳ありません。
 と、まず書き始めた。
 ――皆さんにお願いしたいことがあります。
 このメールが届く人々の中に、きっと私が望む誰かがいるはずだ。
 でも、慌ててはいけない。
 ――ですがその前にまず、こちらの事情を説明をさせていただきたいと思います。
 確実にプレゼントを手に入れるために、私はエントツからおっこちるわけにはいかないのだ。

       ※

【プレゼント作成ご協力のお願い】

 急なメールで申し訳ありません。
 皆さんにお願いしたいことがあります。
 ですがその前にまず、こちらの事情を説明させていただきたいと思います。

 皆さんはすでにご存じかと思いますが、
 私は聖夜協会という、不思議な組織に所存しております。
 この聖夜協会を作ったのは「センセイ」と呼ばれる人物であり、
 彼には極めて特殊な力があります。

 それは、超能力のような、不思議な奇跡を生み出す力です。
 協会内では、センセイが与える奇跡は「プレゼント」と呼ばれます。
 センセイはかつて、クリスマスが訪れるたびにプレゼントを人に与えました。
 このプレゼントの与え方には、ひとつ、決まったルールがあります。
 センセイはひとりの「いい子」を指名しますが、
 そのいい子自身がプレゼントを受け取るわけではありません。
 いい子が願いを込めて贈り物をしたとき、
 その受け取り主が願いに応じたプレゼントを手に入れるのです。

 いい子自身は得をしない、この構造にはセンセイの深い意図があるように思います。
 おそらくセンセイの考えるいい子とは、人の幸福を喜べる人なのでしょう。
 ですからいい子に与えられるのは、プレゼントを贈る権利なのです。
 おそらくは愛する人に、素晴らしいプレゼントを贈るときにこそ、
 本当の幸せを感じられる人を、センセイはいい子と呼んだのでしょう。

 さて、実のところ私がクリスマスカードをお送りしたのは、
 センセイが今年の「いい子」のリストにあげていた方々です。
 つまりこのメールを受け取っている誰かの中に、
 いい子がいるのだと思われます。

 私はある事情で、どうしても「プレゼント」を手に入れなければなりません。
 ですから皆さん、お願いです。
 私と一緒に「いい子」を捜してください。
 それから――「いい子」に選ばれた方は、本当に身勝手なお願いで申し訳ありませんが、
 どうかプレゼントを贈る相手に私を選んでいただけませんでしょうか?
 
       ※

 メールが思わぬ長文になり、私は息を吐き出す。
 センセイの意図に関する部分は省いても良いだろうか?
 でもまあ、おそらく私の予想は正しいし、センセイが考える「いい子」像には納得できるものがある。
 ついでに、私にとってもありがたい話だ。
 ――私はプレゼントを望んでいる。
 欲の深い私は、おそらくセンセイの定義するところの「いい子」ではないのだろう。
 聖夜協会では次のいい子に選ばれるのは私だというのが通説だし、それを積極的に否定するつもりもないが、大きな勘違いだと言わざるを得ない。
 私は私の幸福を望んでいる。
 彼らが考えるような聖人でも、言葉のままのいい子でもない。
 ――センセイが選ぶ「いい子」は、私にプレゼントをくれるだろうか?
 そのことは、もちろん不安だった。
 普通に考えて、こんな怪しいメール、と自分でも思う。
 ――でも、なんにせよ行動しなければならない。
  まずは「いい子」をみつける。ほかにはどうしようもない。
 息を吸って、吐いて。
 メール文の続きを書こうとしたとき、メールの着信があった。
 ――センセイ?
 私はそのメールを開く。

       ※

 Merry Christmas

 よいイヴを迎えているだろうか?
 もちろん君が「いい子」を捜していることは私も知っている。
 君に「いい子」の候補者のリストを贈ったのは私だからね。
 ああ、もちろん、データは外部に漏れないように頼むよ。
 信用問題にかかわることだ。

 ところで、今夜「いい子」に選ばれる誰かの簡単な特徴を、
 5つ用意してみた。
 このメールにはそのうちの2つを添付している。
 でも簡単に伝えてしまっては、誰にとっても面白くないだろう?
 2つのファイルにはそれぞれ鍵をかけておいた。
 なお、答えは仮名にひらいて入力してほしい。
 加えて、この添付ファイルは君の手元から外に漏らさないように。
 適度な時間に、また次のメールを送る。

 また、リストに載っている人たちのうち、
 何人かには、贈り物が届くように手配している。
 贈り物の内訳は下記の通りだ。

 夏のアイテム 1人
 ある偉人の名言 2人
 少女の歌声 2人
 友人が描いた絵 20人(10種×2)

 鍵の手がかりはこの贈り物にある。
 協力し合えば、きっと鍵は開くだろう。
 じっくり考えてみてほしい。

 センセイ

       ※

 メールにはたしかにふたつのファイルが添付されていて、それぞれにパスワードの鍵がかかっている。
 不思議なファイル名だ。
 一方は、長い。謎の数字の羅列だ。

 ファイル1【8/8 5/6 2/9 4/6 5/5 6/8 6/6 3/8 6/9】

 なんだこれ。よくわからない。
 日付けがいくつも並んでいるようにもみえた。
 だが、推測の手がかりはない。
 もう一方のファイル名は、まだしも人間味があった。

 ファイル2【ひとつの石から Primzahl を拾え】

 とはいえ、わけがわからないことには変わりがない。
 ここからファイルのパスワードを読み解けるのだろうか?
 私はため息をついて。
 たった今届いたセンセイからのメール内容を文面に書き添えて、それから。
 願いを込めて送信ボタンを押した。
 ――どうか我儘な私の元にも、サンタクロースは現れますように。
 それは無理な願いなのかもしれない。でも。
 幸福を望むことさえ許されないのなら、私は「いい子」なんかでいたくはない。
 この世界に彼がいないなら、私は彼を取り戻そうとするだけだ。
 プレゼントが生まれるのは、おそらく今夜。
 そのチャンスを、逃すわけにはいかない。

【BAD FLAG-07 不在】


■メリー/12月24日/15時10分

 ――今のところ、メールへの返信はない。
 私の期待とは裏腹に、「いい子の候補者たち」は現状、それぞれのクリスマスイヴを満喫しているのだろうか。
 もちろんたった10分ていどで返信がこないこともあるだろう。でもなんだか奇妙な不安があった。それはそれで仕方がない、とは割り切れなかった。
 今日はまだ9時間ほど残されているが、なんとか彼らと連絡を取る方法をみつけなければならない。
 でも、どうやって?
 ――そうだ。
 ひとつ、試すべき可能性を、私は手にしていた。

       ※

 久瀬くんがほんの数か月前に消えてしまったのだ、と知ったのには、もちろん理由がある。 私はしばしば、特別なバスに乗る。
 そこで、いつも決まってひとりの少女に出会う。
 最後尾の座席に座った少女。
 おそらく彼女は私よりも深く、私の事情を理解している。
 同時に、久瀬くんのことも。きっと私よりもよく知っている。
「これを、渡しておくよ」
 と彼女は言った。
 それは白いスマートフォンだった。
「どうして?」
「いつか必要になるかもしれないから。これは主人公のスマートフォンだよ」
「なに、それ」
 くすりと笑う。
「私が主人公になるの?」
「そうじゃないけど、そこが空席になったから。とりあえず貴女が持ってて」
「空席?」
「だって」
 言葉を濁して、彼女はうつむく。
「そのスマートフォンがあれば、ソルと連絡が取れるんだよ」
 ソル。その名前も、彼女から聞いたものだ。
「貴女が苦手な、ソル?」
「苦手なわけじゃないよ」
「私はソルと連絡を取る必要がある」
「もしかしたら」
 私はそのスマートフォンを受け取って、ホームボタンを押してみた。
 どこにでもある普通のスマートフォンにみえた。特別なものにはみえなかった。
「電波が入ったら、注意してね」
「わかった」
 確かに今は、電波の表示は圏外になっている。
 不安そうに、彼女は言う。
「でも貴女は、私の味方でいてね」
「もちろん」 
 私はほほ笑む。
「だって、私と貴女の目的は同じでしょう?」
 私たちはいわば、運命共同体なのだ。

       ※

 あのバスから物を持ち帰れるなんて考えもしなかったけれど、でも白いスマートフォンは間違いなく私の手元にある。
 私はそのスマートフォンのホームボタンを押してみる。
 電波が、入っていた。


・こっんにっちはー!ざんねん、私は少年くんではありません。臨時のお手伝いさんです。
 でも少年くんと一緒に夏の企画はみてたからだいたいわかるよー。たぶん!私は少年くんのお友達なのです。
 スマートフォンにはいっている連絡先は、2つです!制作者と、主人公です!
 なんかリプライ多すぎて対応できない!とりあえず今は私を少年くんのかわりだと思ってくれたらいいよー。
 そんなわけで、主人公のメアドにメールを送ってみたいと思います。
★★★メリーへ返信。
メリーへ返信→100謎 

 賢明で行動力に溢れる諸君。
 彼女は主要な登場人物になり、100の謎
の影響下に入った。
 残念だが、この方法では連絡は取れない

 別の手段を捜してほしい。

 水曜日のクリスマスには100の謎がある
。83番目の謎は、100の謎はなんのために
用意されたのか? だ。
 水曜日のクリスマスには100の謎がある
。21番目の謎は、彼らはどこにいるのか
? だ。


★★★ゴッホの絵(2枚目)が届く。【ゴッホ/夜のカフェテラス】
ゴッホ1)1518 ゴッホ2 ゴッホ3 夜のカフェテラス
★主人公へ:あなたはメリーさんですか?
 →【メリーからの返信】そうです。メールをいただいてありがとうございます。あなたは?
★メリーへ:メールを受け取った。解読には時間がかかるだろうから待っていてほしい
 →【メリーからの返信】わかりました、ありがとうございます。私は制限時間が、今夜いっぱいだと想定しています。

■メリー/12月24日/15時30分

 スマートフォンが鳴る。
 それはけたたましく。冬の夜に響くジングルベルみたいに、どこか陽気に。
 私はそのメールを開く。
 最初に届いたものから。

『あなたはメリーさんですか?』

 ――そうです。メールをいただいてありがとうございます。あなたは?
 それを送った直後、次のメールが届いた。

『メールを受け取った。解読には時間がかかるだろうから待っていてほしい』

 同じアドレスから。でも、別の人から?
 慌てる。
 ――いや、落ち着け。
 ソル。彼らについて、私は漠然とした知識しか持っていない。
 彼らはおそらく遠い世界にいる。
 私とは違う視点を持った人たち。きっと私たちを俯瞰する人たち。
 漠然とした予感はあった。
 でも、今になって確信した。
 ――センセイは、ソルの中から「いい子」を生むつもりなのか。
 おそらくそういうことなのだろう。

 ともかく私は、ひとつずつメールに返信する。


★メリーへ:あなたは久瀬太一についてどれだけ知っているのですか
 →【メリーからの返信】ひと言で答えるのは難しいです。
 10年前の3月にいなくなってしまった少年、というのが一般的な認識です。
 ですが私は、それが「つい最近になって作られた事実」と考えています。
★メリーへ:あなたのおじいさまについて教えてほしい。今どこで何をされているかご存知か?
 →【制作者からのメール】先ほど送信されたメールは、「100の謎」のトリガーとなる情報が含まれているため、
 彼には届かない。近々、対応する100の謎を公開する。
★メリーへ:あなたは佐倉みさきですか
 →【メリーからの返信】いいえ。
★メリーへ:あなたは悪魔についてはどのような見解でしょうか
 →【制作者からのメール】先ほど送信されたメールは、「100の謎」のトリガーとなる情報が含まれているため、
 彼女には届かない。近々、対応する100の謎を公開する
★メリーへ:了解です。ひとつお伝えします。
 あなたがこうして表舞台に上がったことで、あなたがこれまで使われていたメールアドレスは無効となったようです。
 以降、我々はこの携帯メールを通じてあなたとやりとりします
 →【メリーからの返信】簡単には状況を把握できませんが、
 このほう方法であなたたちと連絡がとれることはわかりました。今はそれだけで充分だと考えています。
★メリーへ:メリーさんはその「作られた事実」というのが誰によって作られたとお考えですか?
 →【メリーからの返信】私が知る限りでそれが可能なのは「センセイ」が生むプレゼントのみです。
 まったく私が知らないプレゼントが存在する可能性もないとはいえません。
 少なくとも今夜、プレゼントを生めれば、彼を本来の形に戻すことは可能だと考えています。
★メリーへ:あなたは佐倉ちえりですか?
 →【制作者からのメール】先ほど送信されたメールは、「100の謎」のトリガーとなる情報が含まれているため、
 彼女には届かない。近々、対応する100の謎を公開する。
★メリーへ:あなたは佐倉みさきでしたか?
 →【制作者からのメール】先ほど送信されたメールは、「100の謎」のトリガーとなる情報が含まれているため、
 彼女には届かない。近々、対応する100の謎を公開する。

■メリー/12月24日/15時45分

 次々に、メールが届く。

『あなたは久瀬太一についてどれだけ知っているのですか』

 それは難しい質問だった。
 私自身、正確に理解していることではないし、推測を交えると、とても大雑把なことしか言えない。
 とりあえず事実だと思える点のみを返信する。

――ひと言で答えるのは難しいです。
  10年前の3月にいなくなってしまった少年、というのが一般的な認識です。
  ですが私は、それが「つい最近になって作られた事実」と考えています。


『あなたは佐倉みさきですか』

 なるほど。
 これもこれで返答が難しい質問ではあったが、素直に答える。

――いいえ。

 シンプルすぎる解答だ。
 でも私は、佐倉みさきではない。


『了解です。ひとつお伝えします。あなたがこうして表舞台に上がったことで、あなたがこれまで使われていたメールアドレスは無効となったようです。以降、我々はこの携帯メールを通じてあなたとやりとりします』

 表舞台?
 どういうことだ?
 私はこうして、部屋にこもってPCの前にいるというのに。
 ――いや、彼らと交信できることがすでに、表舞台か。
 なんにせよ、状況は正確には把握できない。
 ともかく彼らと連絡をとれるだけで今は充分だ、と返信する。


★★★制作者から「小物」が届く。赤い靴下の中にはUSBメモリ。
3D小説USB 
★★★3D小説USB「ミュージックプレイヤー_バックアップ」「きよしこの夜」:DL

■メリー/12月24日/16時

 ふいに、沈黙していたPCにメールが届いた。
 ――センセイ。
 私はそのメールを届く。

       ※

 やあ、謎解きは順調だろうか?
 さてこのメールには、次のファイルを添付しておいた。
 よろしく頼むよ。

 センセイ

       ※
  
 私はセンセイの意図を想像する。
 ――どうして、わざわざ解かれるための謎をつくるんだろう?
 彼は久瀬くんと同時に姿を消した――と、私の記憶ではなっている。ほんの5分前だか、数か月前だかに生れた記憶だ。きっと。
 なんにせよセンセイが姿を消した理由は、明らかではない。
 同時に数人の聖夜協会員が消えている。その辺りになにか手がかりがあるのかもしれないが、確かなことはわからない。
 長い不在のあとで、今月、ふいに私の元にセンセイからのメールが届いた。
 ――君がプレゼントを手に入れるのに協力してもいい。
 とそこには書かれていた。
 そのメールに添付されていた、「いい子」の候補者たちのリストを、私は信じないわけにはいかなかった。
 私はその候補者たちにクリスマスカードを送り、彼らのメールアドレスを手に入れた。なんとなく卑怯なやり方のような気もしたて、嘘は極力避けた。「いい子調査」というのは、あらゆる意味で真実だ。
 ――センセイはどうして、急に私に手を貸す気になったのだろう?
 たとえばこの夏、ふたつのプレゼントが壊れたことに関係しているのだろうか?
 一方は、ニールの足跡。
 もう一方は、ドイルの書き置き。
 それらの出来事の裏には、おそらくセンセイの意図があったのだろう。
 彼に味方して聖夜協会を抜けた会員たちがかかわっているのは間違いがない。
 ――センセイは、プレゼントを壊したがっていた?
 私はそう予想していた。
 理由はわからない。どうして自ら生み出したものを? でも、あるいはこれ以上プレゼントが生まれないように姿を消したのだとすれば、それは――あいだに10年という時間が流れていることを除けば――納得のいくことだった。
 だとすれば、この冬、プレゼントを生み出そうとしていることは矛盾する。
 いったい、センセイの意図はなんだ?
 ――あるいは、センセイ自身の意図ではないところで、なにか動いているのか?
 まったく、イヴの夜になにを考えているんだ、という気分になる。
 非現実的な状況に慣らされすぎていた。聖夜協会内では、プレゼントという、通常では考えられない超常現象が当たり前のように語られる。私はふだん、大学生として生活している自分の方が偽物なのではないかとふと思うことがある。それは、世間的にみて正常ではない。
 ――なんて、そんなことをぐだぐだと考えている場合じゃないのよ。
 私は頭を振って、意識を目の前のPCに戻す。
 いくら非現実的だろうが、イヴにPCから離れられないでいようが、関係ない。
 思えばセンセイの意図もどうでもいいことだ。
 ――私は「いい子」をみつける。
 それでいい。

       ※

 文面の通り、そのメールにはみっつ目のファイルが添付されていた。
 先の2通と同じように、パスワードがかかったファイルだ。

 ファイル3【冬山も素数意識かな】

 また素数。冬山?
 なんだかさみしい文章だな、と思った。


★★★少年ロケットからコローの絵が届く。【コロー/ニンフのダンス】
コロー1 コロー2 コロー3 コロー4 ニンフのダンス
★メリーへ:では彼のもとの状態?を聞きたいんだが…
 →【メリーからの返信】少なくとも、「10年前に消えた」というのは、異常な事態だと考えています。
★★★ファイル2【ひとつの石から Primzahl を拾え】
 ※ドイツ語で「ひとつの石」は「アインシュタイン」、「Primzahl」は「素数」
 【キーのひとつは太陽が照らす文字にある。双子の差が重要だ。】 ※ファーブルの視点
 以上の点より、素数の表題(2、3、5、7、11、13、17、19、23、29、31、37、41、43、47、53、59、61、67、71、73、79、
 83、89、97、101、103、107、109、113、127、131、137、139、149)を抜き出し、太陽の印が押された文字を繋げる。
太陽の印 本「アインシュタイン 150の言葉」には太陽の印が幾つも残されていた。

1番の言葉の「天」「人」 2「は」「っ」「て」 3「な」 4「わ」「た」「し」「の」 5「い」「し」 6「時」 7「い」「る」 8「今」「は」 9「悪」「魔」 10「絆」 11「が」 12「が」「そ」 13「た」「す」 14「は」「友」「人」 15「が」「望」
16「ま」「た」 17「う」 18「う」 19「在」「る」 20「の」 21「と」「が」 22「幸」「い」 23「。」 24「あ」「り」 25「正」 26「同」 27「独」 28「人」「と」 29「ち」 30「た」 31「か」 32「あ」「う」 33「る」「け」 
34「?」 35「先」「が」 36「を」「わ」 37「い」「一」 38「物」 39「は」「人」 40「数」 41「つ」 42「い」 43「の」 44「特」「徴」 45「不」「足」 46「永」「遠」 47「く」 48「る」 49「性」 50「命」
51「放」 52「た」 53「み」「の」 54「抗」 55「う」 56「心」「が」 57「問」「う」 58「な」 59「、」 60「で」「あ」「る」 61「す」 62「に」 63「美」 64「ま」 65「驚」 66「こ」「と」 67「べ」 68「ば」
69「切」「な」 70「い」 71「て」 72「考」 73「で」 74「ず」 75「未」「来」 76「背」「く」 77「と」 78「に」と「1」の間にスタンプ 79「そ」 80「数」 81「つ」 82「個」 83「の」「あ」 84「た」「い」 85「り」
86「が」 87「し」 88「か」 89「い」「た」 90「と」「っ」「て」 91「も」 92「鼻」 93「が」 94「明」 95「る」 96「い」 97「に」 98「か」 
99「お」 100「り」 101「は」 102「え」 103「い」「っ」「て」 104「る」 105「な」 106「い」 107「い」 108「は」 109「る」 110「の」 111「は」 112「な」「き」 113「た」「い」 114「と」 115「き」
116「人」 117「の」 118「道」 119「が」 120「信」「念」 121「に」「な」 122「る」 123「よ」「い」 124「こ」 125「に」「な」 126「る」 127「よ」「う」 128「三」 129「つ」「の」 130「あ」 131「を」
132「め」 133「常」 134「に」「口」 135「に」  136「入」「れ」 137「ヨ」 138「な」 139「め」 140「ク」 141「た」「味」 142「は」 143「心」「の」 144「中」「に」 145「ベ」 146「の」「思」
147「い」「で」 148「読」「者」 149「。」 150「に」

 →はってないしいるがたすう在る。ちかい一つのくみの、すべてでそのあいたにはいっているたいようをヨめ。

天人はってなわた「し」のいし時いる今は悪魔絆ががそたすは友人が望
またうう在るのとが幸い。あり正同独人とちたかあうるけ?先がをわい「二」物は人数つい
の特徴不足永遠くる性命放たみの抗う心が問うな、であるすに
美ま驚ことべば切ないて考でず未来背くと1そ数つ個のあたいりがしかい「だ」
とっても鼻が明るいにかおりはえいってる
ないいはるのはなきたいとき
人の道が信念になるよいこになるよう三つのあ
をめ常に口に入れヨなめクた味は心の中にベ「ル」の思いで読者。に ※「」内が1冊目と異なる部分

 →はってないしいるがたすう在る。ちかい「二」つのくみの、
 すべてでそのあい「だ」にはいっているたいようを「(137、139なし)」。 ※「」内は1冊目と異なる部分
 17-19:シールa シールのページa →18「う」
 59-61:シールb シールのページb →60「である」
 137-139:シールc シールのページc →138「な」
 1つしかないシール:片方1 片方2
 貼ってあるシールより双子素数(差が2である2つの素数の組)と推測。
 (3,5)(5,7)(11,13)(17,19)(29,31)(41,43)(59,61)(71,73)(101,103)(107,109)(137,139)(149,151)
 に挟まれた表題において、該当する文字を繋ぐ。
 4、6、12、18、30、42、60、72、102、108、138、150→わたしの時がそうたいである考えはなに
 →【回答】相対性理論(そうたいせいりろん)
★メリーへ:ファイル2の答え「相対性理論」の可能性があります。試してください。
 →【メリーからの返信】2番のファイル開きました、ありがとうございます!
 今回の「いい子」は、イヴの夜を自宅で過ごすそうです。

■メリー/12月24日/16時10分

『ファイル2の答え「相対性理論」の可能性があります。試してください。』

 ――きた。
正解?
 わからないが、信じて打ち込んでみるしかない。
 センセイのメールには「仮名にひらいて」と注釈があった。
 私はファイル2、【ひとつの石から Primzahl を拾え】に、「そうたいせいりろん」と打ち込む。
 ――開いた!
 それは、あっけなく。
 シンプルな、たった1行だけのテキストが表示される。

       ※

 今回の「いい子」は、イヴの夜を自宅で過ごす。

       ※

 なんだ?。
 私が送ったアンケートをあさればある程度、いい子の候補を絞れるかもしれないけれど。
 メールの対応をしながらそんなことはしていられない。
 まあいい。
 とりあえず私は、ソルに返信する。

『2番のファイル開きました、ありがとうございます!
 今回の「いい子」は、イヴの夜を自宅で過ごすそうです』

 手元にあるファイルは、あとふたつ。
 でも、たぶん追加でさらにふたつ。
 すべて開かないといけないのだろうか?


★メリーへ:あなたは今恋をしていますか?
 →【メリーからの返信】はい。
★メリーへ:我々は二つのプレゼントが破壊される経緯を知っているが、あなたはその経緯を知らないのか?
 →【メリーからの返信】正確には把握していません。
 また、私の記憶とあなたの記憶では、過程が異なっている可能性が高いと予想しています。
 おそらく私の記憶の方が誤っているのでしょう。
★メリーへ:あなたはいい子からどんなプレゼンを貰うつもりなんだ?
 →【メリーからの返信】 過去を変えることができるプレゼントを。
 彼が消えてしまった以上、そのプレゼントを生み出すほかに、現状を打開する方法はないと考えています。
★メリーへ:あなたは今晩どこで過ごすつもりでいますか?
 →【メリーからの返信】自宅です。

■メリー/12月24日/16時25分

『あなたは今恋をしていますか?』

 そのメールを開いて、びっくりする。
 イヴにPCを相手に過ごしている私に、なんてことを聞くんだ、という気もした。
 とはいえ隠すことでもない。
 私は「はい」と返信する。


『我々は二つのプレゼントが破壊される経緯を知っているが、あなたはその経緯を知らないのか?』

 あの、ふたつのプレゼントが壊れた経緯。
 私はそれらを正確に把握しているわけではない。
 少なくともリュミエール、グーテンベルクはそれに関与していた。
 アルベルトに関しては、わからない。
 なんにせよセンセイがプレゼントを壊すことを望んだのだとすれば、それは叶うだろう。
 プレゼントの壊し方自体は、私も知っている。
 ――とはいえ。
 結果がどうであれ、過程に関しては確信をもてない。
 私は今、私の記憶を信頼していない。


『あなたはいい子からどんなプレゼンを貰うつもりなんだ?』

 正確に答えることは、少しだけ躊躇われた。
 私は過去を変えたいと望んでいる。
 でも過去改変に関しては、倫理観から否定的なひともいるだろう。
「いい子」がそれを否定することもあるように思えた。
 でも、ごまかしても仕方のないことだ。
 この世界の過去が改変されているだとしたら、それをもう一度改変し直すことに、どんな罪があるというのだろう?
 ――過去を変えることができるプレゼントを。
 と私は答える。


★メリーへ:これも取材、ですか?
 →【メリーからの返信】いいえ。これは取材ではありません。そんな言い訳は必要なく、私が望んでいることです。
★メリーへ:今は西暦何年ですか?
 →【制作者からのメール】先ほど送信されたメールは、「100の謎」のトリガーとなる情報が含まれているため、
 彼女には届かない。その謎はすでに公開されている。58番目の謎は、彼らの世界は「いつ」なのか、だ。
・あー!電波きれちゃいました!ざんねん!あんまり送れなくてごめんなさい!
 みなさんにリンちゃんという名前をつけてもらったので、
 このツイッターの名前を【少年(臨時代理!リンちゃん)】に変えておきました!

■メリー/12月24日/16時30分

 ――え?
 と、思わずつぶやく。
 スマートフォンの左上に表示された電波状態が、「圏外」になっている。
 ――なんだ、これ。
 そんなことあり得るのか?
 窓辺まで移動してみるが、やっぱり電波はない。
 これでは、彼らからのメールを受け取れない。

       ※

 電波。
 ――いったい、この電波はどことどこを繋いでいたのだろう?
 ソルと呼ばれる彼らと、電波のやり取りができることが、そもそも不思議だった。
 このスマートフォン自体が誰かの「プレゼント」なのだろうか。
 だが、こんなプレゼントに関する知識はなかった。
 まるでプレゼントのようで、でも私の知らない現象。
 それはこのスマートフォンでふたつ目だ。
 スマートフォンのほかは、あのバスだけだ。
 私は推測する。
 ――おそらくスマートフォンにも、バスにも、センセイは関わっているはずだ。
 そうだ。
 なぜだか今まで一度も、きちんと考えたことはなかったけれど。
 ――センセイはいったい、どんな力を持っているのだろう?
 プレゼントを人に与える力。
 そのプレゼントの効果は、常識を捻じ曲げてどんな不思議な出来事だって発生させる。
 それは、なにかルールがなければ、全能と言ってもいい力に思えた。
 プレゼントを生み出すセンセイに、いったいどんな目的があるというのだろう?


★★★コローの絵が届く(2人目)。【コロー/ニンフのダンス】
コロー2-1 コロー2-2 コロー2-3 ニンフのダンス

■山本美優/12月24日/17時

 イヴにひとり長距離を移動するのは、なかなか切ないものだな、というのが正直な感想だった。
 八千代さんは私をパーティ会場まで送ってくれるつもりだったようだけど、色々と忙しいようなので、申し訳なくてそのお誘いは断った。
 家を出たころはそのことを後悔していた。
 昨日の、あの眼鏡のような人が現れないのか、不安だったのだ。八千代さんのことはよく知らないし、正直なところ完全に信用したわけでもないけれど、独りきりよりはずっと安心できたように思う。
 でも新幹線に乗っているあいだに、その不安は、知らない人ばかりのクリスマス懇親会なるものに参加することに移り変わっていた。
 私は知らない人に会うのが苦手だ。――苦手なことばかりだな、と、自分でも苦笑いしてしまう。
 切符に書かれている通りの駅で新幹線を下り、普通電車に乗り継いでさらに移動した。自分が日本地図上のどこにいるのかよくわからなくて、繰り返し乗り換え検索の画面を確認した。
 目的の駅は昨日、八千代さんから聞いた。移動のチケットまで渡してくれた。
 センセイと呼ばれる人に、参加を伝える旨をメールしたのはそのあとのことだ。
 メールはすぐに返ってきた。
 ――参加を決めてくれてありがとう。お会いできるのを楽しみに待っています。
 だいたいが、そんな内容のメールだった。
 私はもちろん「久瀬くんの居場所を知っているんですか?」とメールしてみた。少なくとも、彼が無事なのかだけでも確認したかった。
 でもそのメールへの返信は、不思議なものだった。

       ※

 彼の居場所はわかりません。
 誰にもわからないのです。
 ですが、貴女が懇親会にいらしてくれるのでしたら、おそらくは近々、彼との再会が叶うでしょう。
 いまのところ、22時ごろに、貴女にお会いできる予定です。
 その余裕がありましたら、そのときに詳しくお話しましょう。
 それでは、よいクリスマスを。

       ※

 彼の居場所はわからない、と言いながら、再会は叶うでしょう、と言っている。
 わけがわからなくて、矛盾しているようで、その辺りのことを尋ねるメールを送ってみたけれどもう返事はなかった。
 ――きちんと顔を合わせたなら、詳しいひとを教えてくれるのだろうか?
 わからないが、信じるしかない。
 22時という遅い時間も気になっていた。
 少なくとも八千代さんからは、17時に駅の出口で他の参加者と待ち合わせるように言われていた。

       ※

「貴女が、山本美優さんですか?」
 と声をかけたれたのは、ちょうど17時になったときだった。
「はい」
 と答えて、私は振り返る。
 そこに立っていたのは顔に笑顔を張りつけた、恰幅の良い男だった。
「ふむ」
 値踏みするように、その男は私を、足元から頭の先まで見回す。なんだか気持ちが悪かった。
「山本さん。懇親会に参加されるご予定でしたら、合言葉を」
「合言葉?」
「ええ。まずは合言葉をお尋ねするように、と賜っております」
「いや、合言葉なんて――」
 知らない、と答えようとして、思い当たった。
 センセイから届いたあのメールには、なにか奇妙な文章の、招待状と書かれた画像が添付されていた。その画像に、合言葉という文字があった気がする。

招待状

「おや、おわかりになりませんか?」
 と、恰幅のいい男は、得意げな笑みを浮かべたまま首を傾げた。


★★★梯子の端と文字の重なる部分を繋げて読む。→【回答】よきねむりを
★メリーへ:あなたはメリー?それとも山本美優?
 →【メリーからの返信】私はメリーです。
★メリーへ:制作者に「山本美優さんに『合言葉は よきねむりを です』と送ってください」と伝えて!
 →【山本からの返信】ありがとうございます。とても助かりました。あなたはセンセイですか?

■山本美優/12月24日/17時20分

 混乱していた。

 ――合言葉ってなんだ?

 どうしてそんなものが必要なんだ?

 私はセンセイからのメールに添付されていた画像を開く。

「はしを、よめ?」

 合言葉は、はしをよめ。確かにそう書かれている。

 ほほう、と恰幅のよい男が笑う。

「はしをよめ? それが、合言葉ですか?」

「いや……」

 おそらく暗号のようなものなのだろう、ということはわかる。

 たぶんシンプルなものだ。でも、ぱっとは答えが出ない。

 はし? 清す思か? ――だめだ、言葉になっていない。

 と、そのとき。

 スマートフォンが震えた。

 ――メール?

 センセイから、だろうか?

 だがメールアドレスが違う。よくわからなかったが、私はともかく、そのメールを開く。


       ※


「山本美優さんに『合言葉は よきねむりを です』と送ってください」


       ※ 


 え、私に送れ?

 不思議な文章だけど、まあいい。

「よきねむりを」

 と、私はおそるおそる口にする。

 ふ、と恰幅の良い男は息を吐き出した。

「なんだ。ご存じじゃあありませんか」

 いや。私は届いたメールをそのまま読み上げただけだ。

「私はファーブルと申します。聖夜協会の会員のひとりです。以降、お見知りおきを」

「はあ、山本です」

 なんだったんだ、今のメールは。

 センセイから? それもおかしい気がした。

 だとすればあんな暗号じみたものは作らず、始めから「合言葉」とやらを書いてかいてくれればいいじゃないか。そもそも今の時代に、合言葉を使うってどうなんだ。このメール画像を提示してください、くらいにして欲しい。

「参りましょう。車を用意しています」

 と恰幅のよい男――とファーブルは言う。

「会場は、この近くじゃないんですか?」

「ええ。1時間30分ほどかかります」

 長い。

「どうして」

 そんな、中途半端なところで電車を下ろすのだろう? それともこれから、電車も走っていないようなところに踏み入っていくのだろうか。それは不安だ。

「貴女と少し、お話をしたかったのですよ。山本さん」

「話、ですか?」

「ええ。聖夜協会というのがどういうものなのか、簡単にでもご説明しておいた方が良いでしょう?」

 それは、まあ、そうかもしれないけれど。

「それに私も、貴女に興味があります。どうしてセンセイは今夜の懇親会に、貴女を呼んだのでしょうね?」

「わかりません。急にメールが届いて」

「ですが、なんらかの理由があるはずなんですよ。センセイは明らかに、貴女を特別に扱っている」

「特別、ですか」

 ファーブルは、自分で言ったことなのに、不機嫌そうに鼻を鳴らした。

「まあ会員よりは外部の方を優先するのは当然です。さぁ、こちらへ」

 ファーブルが歩き出したから、私は仕方なく、それに続いた。


★メリーへ:今日、センセイ主催のクリスマス懇親会が行われることをご存知ですか?
 →【メリーからの返信】はい、知っています。
★★★レンブラントの絵が届く(2人目)。【レンブラント/聖家族】
レンブラント1 レンブラント2 レンブラント3 レンブラント4天使のいる聖家族
★山本へ:こんばんは、山本先輩。私たちは、ソル、SOL、です。久瀬先輩の味方、です
 →【山本からの返信】ソルさんたち、ですね。わかりました。久瀬くんのお知り合いなんですね。安心しました。
 助けてくださってありがとうございました!

■山本美優/12月24日/17時30分

  クッションのきいた、いかにも高級そうなセダンの後部座席に、私は乗せられていた。
 なんとなく意外だけれど、運転はファーブル自身がしている。他の乗客はいない。
 ファーブルはルームミラー越しにこちらをみながら、なにか話しかけているようだったけれど、私はそれには生返事を返すだけだ。
 先ほど、答えを教えてくれたアドレスに返信する。
 さらに返信がある。
 その人は、私たちはソル、と言った。
 そして、久瀬くんの味方だとも。
 と、ふいに、メールが途切れた。
 ――どうして?
 よくみると、電波状況が圏外になっている。
 車は特別、田舎を走っているということもない。
 電波がないというのは違和感があった。
「他人の話を聞かずにメールばかりというのは、感心しませんね」
 と、ファーブルが不機嫌そうにつぶやいた。


★★★ビアスタットの絵が届く。【ビアスタット/ルツェルン湖】
ビアスタット1 ビアスタット2 ビアスタット3 アルバート-ビアスタット-ルツェルン湖

■メリー/12月24日/18時

 先ほどから、電波が不安定だ。
 入ったり入らなかったりを繰り返しているようだった。
 そんな中、PCの方に、また新たにセンセイからのメールが届いた。

       ※

 遅くなってすまないね。私もなかなか、手を離せないんだ。
 さて、このメールにもやはり、「いい子」の特徴を示すファイルを添付しておいた。
 これで4つ目だ。あと、ひとつだけ。
 最後までぜひ頑張って欲しい。

       ※

 そのメールには、やはりパスワードつきのファイルがついている。
 そのファイル名をみて、思わずため息が漏れた。

 ファイル4【♪】

 音符ひとつ。
 ずいぶん大雑把なファイル名だ。


★メリーへ:あなたが動かせるor頼れる人はいますか?その中にニールとドイルはいますか?
 →【メリーからの返信】頼れる人は多くありません。
 動かせるというと言葉が悪いですが、ニールとドイルには連絡を取ることが可能です。
 ですが、今夜のニールの予定は邪魔したくありません。
★メリーへ:ファイル4は『きよしこの夜』です
 →【メリーからの返信】「きよしこのよる」で入力してみましたが、ファイル4は開きませんでした。
 他の回答の可能性は、ありませんでしょうか?
★山本へ:私たちの知ってる050-3159-7456 久瀬の携帯番号
 八千代さんの電話番号とメールアドレス050-3159-5668  candy.music.777@gmail.com
 →【制作者からのメール】
 先ほど送信されたメールは、「100の謎」のトリガーとなる情報が含まれているため、
 彼女には届かない。近々、対応する100の謎を公開する。
★★★ゴッホの絵が届いた(2人目)。【ゴッホ/星月夜】
ゴッホ1 ゴッホ2 ゴッホ3 ゴッホ6星月夜The Starry Night
★メリーへ:あなたはルールについて何か知っていますか?
 →【メリーからの返信】ルール? 思い当たりません。
★メリーへ:バスがくるスケジュールを教えてください
 →【メリーからの返信】スケジュールは把握していません。
★山本:小学生の頃、タイムカプセルを埋めた覚えはありますか?その時見知らぬ男に声をかけられましたか?
 →【山本からの返信】小学生の頃、タイムカプセルを埋めた覚えはあります。男性にも、声をかけられました。
★山本へ:ファーブルという人物には細心の注意を払ってほしい
 →【山本からの返信】わかりました。注意します、ありがとうございます。
★メリーへ:あなたは『ヒーローバッチ』という物をご存知か?
→【メリーからの返信】はい、知っています。ですが、今どこにあるのかまでは把握していません。
★★★赤い靴下と青い南京錠形のUSBメモリが届く(2人目)。
靴下と南京錠
★★★3D「ミュージックプレイヤー_バックアップ」「きよしこの夜」:DL ※パスは「sol」
★★★モネの絵が届く。【モネ/ひまわり】
少年ロケット モネ1 モネ2 モネ3 モネ4
★★★ミレーの絵が届く。【ミレー/子供に食事を与える農婦】
ミレー1 ミレー2 子供に食事を与える農婦

■メリー/12月24日/18時55分

 スマートフォンの方にばかり気を取られていた。
 気がつけばPCに、新着メールが届いていた。
 センセイからの、最後のメールだ。

       ※

 やあ、調子はいかがかな?
 君にとって、こんなにも大勢の人と過ごすイヴは初めてではないだろうか?
 滅多に経験できることではないから、この時間を大切にしてほしい。
 さて、いつつ目のファイルを添付しておこう。
 聖夜に、すべてのいい子が素敵な夢をみられることを祈って。

       ※

 私はいつつ目のファイル名を確認する。

 ファイル5 【名画→名】

 これは、シンプルなタイトルだ。
 私はスマートフォンを握り締める。
 電波はまだない。


■山本美優/12月24日/19時

 その洋館は、住宅街から、山にほんの少しだけ入ったところにあった。
 三角屋根のお洒落な木造の建物で、暗いなかにぽんとあるとまるで、ミニチュアが置かれているようだった。
「思い描いていたのと、少し違いました」
 と私はファーブルに声をかける。
 なにかホテルのパーティ会場のようなところを想像していたけれど、こちらの方が居心地はよさそうだ。懇親会というのがどんなことをする会なのかは知らないけれど、これなら肩肘を張らずに済むかもしれない。
「センセイはアットホームな会もお好きでしたから。とはいえ、今回はそれだけではないようですよ」
 ファーブルは玄関のドアに近づき、軽くノックをした。
 中から「はい」と男性の声が聞こえて、ドアが開いた。
 優しい顔立ちだが意外と体格の良い、スーツを着た青年だ。
「貴女が、山本さんですね。お待ちしていました、中へ」
 はい、と頷いて、私は部屋の中に入る。
 玄関ホール? というのだろうか。それなりの広さがある部屋になっている。
 テーブルがひとつと、椅子が6脚あった。
 だが、そんなものよりもずっと気になるものがあった。
 ――棚?
 正面の壁一面が、巨大な棚になっている。
 たてに5段。横に10行程度の、どちらかといえば無個性な棚。
 その半分ほどは埋まっていた。
 ある棚には和風の仮面が。別の棚には、ヌー? ともかく木彫りの哺乳類が。さらに別の棚には食品サンプルだろうか、ただ皿に盛られたごはんみみえるものもある。
 ――なんだ、これ。
 あまりにとりとめがなさすぎる。
「コートはお脱ぎになりますか?」
 と声をかけられて、私は首をふる。
「いえ、大丈夫です」
「そう。僕のことはワーグナーと呼んでください。そちらのファーブルと同じ、会員のひとりです。聖夜協会についてはご存知ですか?」
「ええ、はい。来る途中に」
 ワーグナーは朗らかに笑う。
「よかった。ワーグナーなんて大げさな名前、聖夜協会のことを知っている人にしか名乗れませんからね」
 どうやら話しやすそうな人でよかった。
 私は、正面の棚を指さして聞いてみる。
「これ、なんですか?」
 でも答えは別の方向から帰ってきた。
「まったくわからないわ」
 私と同じくらいの歳の女性だ。
 今この部屋にいるのは、私のほかには、ファーブル、ワーグナー、そしてこの女性の3人だけだった。
 彼女は明るい笑みを浮かべる。
「よかったわ、同じくらいの歳の人がいて。私はベートーヴェン。まだ聖夜協会に入ったばかりよ。よろしく」
 私も、同性で歳の近い相手がいてよかった。
「はい、よろしくお願いします。ええと、ベートーヴェン、さん?」
「なんかこの集団では、偉人の名前で互いを呼び合うのが通例みたいなのよね。山本さんは、どうしてこの懇親会に?」
「センセイという人からメールを貰って」
 ほう、とベートーヴェンは呟く。
「メールね。私たちは手紙だったけれど。ともかく今夜の主賓は、あなただって噂よ」
 それは意外だ。
「どうして? メールよりも手紙の方が丁寧じゃないですか?」
「わからないけどね。私たちの招待状にも、いちいち貴女をよろしくって書かれていたもの。それに――」
 ベートーヴェンが視線で、テーブルの上を指す。
 そこには小さな白いメモが載っていた。
 ファーブルがいかにも作り物の笑顔を浮かべて、そのメモを手に取る。
「ここにはね、22時にセンセイへの部屋の扉が開くと書いてあります。そのとき、まずは山本さん、貴女ひとりだけで部屋に入るように、ともね」
 なんだ、それ――。
 でも。
「メールでも受け取りました。22時に会おうって」
 ふん、とファーブルが鼻を鳴らす。
「それまでに貴女が、センセイの元に辿り着ければいいですがね」
「どういう意味ですか?」
 この洋館はそれほど広くはなさそうだ。辿り着くのが大変、とは思えなかったけれど。
「左右に扉があるでしょう?」
 とベートーヴェンが言う。
「どちらも今のところ、鍵がかかってるわ」
 試してみたら? と言われて、私は右手の扉に歩み寄る。
 だが、ドアノブを引いても、押しても、確かにその扉は開かなかった。
 かわりに扉には、なんだかきらきらと輝く文字が並んでいる。

       ※

 「や」のついた
 たなのもののな
 ならばせ
 せんたーをよめ

(この扉は19時45分まで開かない)

       ※

「こっちは19時45分。もう片方は、20時30分まではひらかないそうよ」
 なるほど。
「でも、なら待っていたらいいだけじゃないんですか?」
「ううん。なんか、特別なことをしないと扉は開かないんだって」
 ほら、とベートーヴェンがまた扉を指す。
「あの、『や』のついた棚のものがなんとか、っていうのをどうにかしないとけいないみたい」
 なんだ、それ。どういうことだ。
「センセイは、こういったイベントがお好きなんですよ」
 とファーブルは笑う。
「どうやら今夜は貴女が主賓のようですから、謎解きはお任せいたしますよ」
 と、そう言って、ファーブルは席についた。


★★★ミレーの絵が届く(2人目)。【ミレー/子供に食事を与える農婦】 
ミレー  子供に食事を与える農婦

■山本美優/12月24日/19時10分

 問題を解かないと、先に進めない?
 ――どうして、そんなややこしいことを。
 センセイは私に会いたいのか会いたくないのか、はっきりして欲しかった。
 ともかく扉に書かれた問題にある「棚」というのはこれのことだろう、と部屋の一方の壁を埋めている大きな棚の前に立つ。
 ベートーヴェンが、隣に立って補足してくれた。
「棚は5段が11行。空の棚もあるし、なにかが置かれている棚もあるわ。それから――」
 と、ベートーヴェンは、いちばん右の行の、真ん中の段に置かれていた、老人の顔を模したものだろう古風な仮面を手にとる。
「並んでいるアイテムには、なんかへんな名札がついてるわ」
 名札?
 みるとたしかに、その仮面にはラベルシールが貼られていた。
 ――すぐよこやりをいれるおきな。
 なんだそれ。
 でもよくみると、その仮面は確かに意地が悪そうで、すぐによこやりをいれてきそうではあった。
「ちょうど今、名前シールの一覧を作ろうとしてたのよ。みる?」
 とベートーヴェンは、大学ノートをひらいてこちらにみせてくれる。

名前シール一覧

 なかなかユニークな名前が並んでいる。
 それにベートーヴェンの表にある通り、この棚には、右端に「あ」から「お」が降られていた。
 とはいえ、突飛な名前ばかりで、素直にあいうえお順に並んでいるわけでもなさそうだった。
「どうしたら扉が開くんでしょう?」
「まったく不明よ」
 私はちらりとファーブルに視線を向ける。
 だが、彼は棚にあるアイテムのひとつ――「えらばれしもののちえのわ」に夢中になっているようだった。
「どうしましょう?」
「まあ、考えるしかないんじゃないかしら」
 そりゃそうだけど。簡単にいわれても困る。

 ――と、そのとき。
 入口の扉が、開いた。


■山本美優/12月24日/19時20分

 入ってきたのは、シックなスーツを着た、色の白い女性だった。
「アルベルト」
 と、知恵の輪にはみえない知恵の輪をいじっていたファーブルが言う。
「本当にいらしたんですね」
 彼女は、こくんと頷き、椅子に腰を下ろす。
「様子をみにきただけ。気にしないで」
 と、どこか眠たげな口調で、彼女はそう言った。
「貴女が、アルベルトなんですね?」
 とベートーヴェンが、彼女に歩み寄る。
「それが?」
「いくつかお話をお聞きしたいことが――」
 相手をしてくれていたベートーヴェンまでいなくなってしまった。
 仕方なく私は、棚に並ぶアイテムたちをにらみつける。
 ――でも。
 いったい、どうすればいいのだろう?


★★★ファイル4【♪】
 届いたUSBの中身:「きよしこの夜.mp3」「アイ_1年目.WAV」「アイ_1年目_ボツ.WAV」「アイ_2年目.WAV」
 【鏡に映った左右の少女。ぴったり形を重ねたときに、合わない所にキーがある。】 ※ニールの視点
 以上の点より、
 「きよしこの夜.mp3」と「アイ_1年目_ボツ.WAV」を同時に流し、声が重なって聞こえる部分の歌詞を抜き出す。

しこのよる 星はひかり
すくいのみ子は まぶねの中に
ねむりたもう いとやすく

よしこのよる み告げうけし
ひつじかいらは み子のみ前に
ぬかずきぬ かしこみて

きよしこのよる み子笑みに
めぐみのみ代の あしたのひかり
やけり ほがら

 →「よきひつじかいのがか」→【回答】ムリーリョ
★★★きよしこの夜(を重ねたwav):DL
★メリーへ:ファイル4のパスワードは「ムリーリョ」もしくは「よきひつじかいのがか」です
 →【メリーからの返信】4番のファイル開きました、ありがとうございます!
 今回の「いい子」は、郵便番号の上3桁が偶数らしいです。あと3つ、頑張りましょう。
★★★ビアスタットの絵が届く(2人目)。【ビアスタット/ルツェルン湖】
ビアスタット1 ビアスタット2 ビアスタット3 アルバート-ビアスタット-ルツェルン湖

■メリー/12月24日/19時35分

『ファイル4のパスワードは「ムリーリョ」もしくは「よきひつじかいのがか」です』

 電波が通ったとたん、
 私は急いで、ファイル4、【♪】のファイルにその答えを打ち込む。
 いったいどんな問題だったのかもよくわからないが、きっとあっているのだと素直に信じられた。なんだかいかにも正解っぽい言葉でもあった。
 まずは「むりーりょ」と打ち込む。
 やっぱり。ファイルがひらく。

       ※

 今回の「いい子」は、郵便番号の上3桁が偶数である。

       ※

 なんだそれ。でもとにかく、ざっくり考えて半分ほどには候補を絞れそうだ。
 私はお礼のメールを書き、「あと3つ、頑張りましょう」と書き足す。
 外はもうまっくらだ。今日が、終わりに近づいている。
 なんとか「いい子」を、みつけ出さなければならない。


★★★問題文がしりとりになっている事からアイテムの名前も同様に並び替え、中央の文字を繋げる。
 【問】「や」のついた → たなのもののな → ならばせ → せんたーをよめ

  みかさやまのんしょううお
     おやおものいわな
  なつやすみのとうちぐるめ
       めしやらいす
   すぐよこやりいれるおきな
なまけぐせのあるやまからすあげは
    はきやすいっかぼっか
      かおりたやりいか
       かがやるたけ
    けのつやがいねこみみ

 →「さいごのをみにつけよ」→最後のアイテム「けのつやがよいねこみみ」を身に着けよ。
★山本へ:毛のツヤの良い猫耳をつければいいみたいです(扉の件は)
 後私情になりますが猫耳をつけた写真を送ってほしい方がいるので出来れば送っていただきたい
 →【山本からの返信】ありがとうございます! 45分になったらやってみます。
 ちなみに、どうやって解いたんですか?写メは、いちおう添付します。でも、こんなのでいいでしょうか……。
 ※添付されている画像が真っ黒で見えません!
★★★ドーソンの絵が届く(2人目)。【ドーソン/カティサーク号】 ※既出のため、画像は省略。

■山本美優/12月24日/19時50分

 スマートフォンが、震えた。
 ――ソル。
 久瀬くんの味方を名乗った、大勢。
 ふと、疑問に思った。
 ――もしかして、この人たちは、久瀬くんの居場所を知っているんじゃないか?
 ともかく私は、メールを開く。

『毛のツヤの良い猫耳をつければいいみたいです』

 はぁ? 猫耳?
 どうしてネコミミなんだ?
 ――わからない。
 し、つけたくない。
 が、久瀬くんのことがある以上、そんな我儘も言っていられなかった。

『(扉の件は)後私情になりますが猫耳をつけた写真を送ってほしい方がいるので出来れば送っていただきたい』

 なんだそれ!
 どうしてそんなものが必要なんだ。
 ――でもまあ、背に腹は代えられない。
 私は猫耳をつけて、写メを取る。
 すぐはずずつもりだった。だが。
「へぇ。なかなか似合ってますよ」
 と、ワーグナーが笑いながら言った。
 見られていた!
「赤い猫耳というのは、少し珍しいですね」
 とファーブルまでよってくる。
「私はこっちの方がかわいいと思うけど」
 ベートーヴェンは、なぜだかロボットみたいなお面をつけていた。
 たしかに、なかなかかわいいお面ではある。
「好きでつけてるわけじゃありません。これで扉がひらくはずなんです!」
 ――と、話しているあいだに、19時45分になっていた。
 私は扉の前に立つ。
 ――が、ひらかない。
 いったい、どういうことだ?
「あ」
 と、ベートーヴェンが声を上げる。
「これ、リストに入れ忘れてたわ」
 みると、彼女が被っていた仮面には、「みやげのメカかめん」と書かれていた。


★山本へ:「や」のつくものを順にしりとりで並べ替えた後、それぞれの言葉の真ん中の文字を繋げて読んだとき
 「最後のを身につけよ」となり、さいごにきたものが「けのつやのよいねこみみ」だったので、
 これを着用するのが正解だということです。
 →【山本からの返信】ちょっとトラブルがありましたが、開きました。ありがとうございます!

■山本美優/12月24日/19時55分

 ソルからの、新しいメールが届いた。

『「や」のつくものを順にしりとりで並べ替えた後、それぞれの言葉の真ん中の文字を繋げて読んだとき「最後のを身につけよ」となり、さいごにきたものが「けのつやのよいねこみみ」だったので、これを着用するのが正解だということです』

 なるほど。これで、扉がひらかなかった理由がはっきりした。
 ベートーヴェンが持っていた仮面。
 デザインは、有名な変身ヒーローの顔に似ている。銀色の体で、巨大化して怪獣と戦う。けれど、細部が微妙にことなっていて、単に素人がまねて作っただけのようにも思える。
 仮面の額に貼られたラベルシールには、確かにこう書かれている。
「みやげのメカかめん」
 土産? どこのだ。いや、それよりも。
 確かに、名前に「や」がついている。
 つい叫ぶ。
「どうして隠し持ってるんですか!」
「隠していたわけじゃないわ。なんか仕掛けがありそうだったから気になったのよ」
「みせてもらったメモにも載ってなかったし」
 彼女はしばらく沈黙していたが、それから、
「順序なんて関係ないの。答えがあっていればそれは正解なの。ほら」
 彼女はメカかめんをかぶる。ガラスのような目から、こちらを嬉しげに見る。
「こめかみのあたりにスイッチがあってね。押すと、ガラス越しに見える景色がキラキラ光るのよ。どういう仕掛けなのかしら」
 知ったことではない。私は呆れる。
「勝手に館のものを盗んじゃいけないでしょう」
「返すつもりだったわよ。っていうかそもそも調べてただけよ」
 ファーブルが割って入る。
「まあまあ、おふたりとも落ち着いてください。センセイの清きお屋敷ですよ? 仲たがいは美しくありません。それより今は、新たに見つかったこのアイテムを有効活用することを考えましょう」
 確かに。その点においては、ファーブルの言葉が正しい。
 みやげのメカかめんを、さきほどの10個のアイテムと並べて考える。しりとりの順に並べるのなら、置く場所は明白だ。
 ねこみみの次。最後だ。
 改めて、並んだアイテムの真ん中の文字を読む。
 ――さいごのをみにつけよめ。
「最後のを身につけ、というのは、メカかめんのことでしょうね」
「でも、読めっていうのは?」
「あれじゃない?」
 メカ仮面をかぶったベートーヴェンが、扉を指さす。
「出題文。光ってる」
「え」
「仮面のスイッチを押すと、文字が順番に浮かび上がる仕掛けみたいね」
「貸してもらっていいですか?」
 ベートーヴェンは、こちらを疑わしげな目でみる。
「ちょっとだけよ」
「盗りませんよ。というか、あなたのじゃないでしょう」
 メカ仮面を受け取り、頭につけた。これも恥ずかしくはあったけれど、猫耳よりはましだ。扉を見つめ、スイッチを押す。出題文から、2秒間隔くらいで浮かびあがる文字を、読み上げる。
「せ、い、や、の、ば、ら」
 聖夜の薔薇? それがどういったものなのか知らなかった。
 けれど、どうやら今の声を、この館は正解と認識したらしい。
 がちゃり、と扉の内部で機械音がした。


★★★ファイル5【名画→名】
 【キーのひとつは、絵画が語る。ミレー・ルノワール・ビアスタット・レンブラント・ゴッホ・コロー・モネ・ドーソン・
 シスレー・ゴッホ。世界の偉大な画家たちに感謝を。】 ※ベートーヴェンの視点
 以上の点より 「ミレー・ルノワール・ビアスタット・レンブラント・ゴッホ・コロー・モネ・ドーソン・シスレー・ゴッホ」
 の順に絵画を並べ、名称のひと文字目を繋げる。

子【ミレー/子供に食事を与える農婦】
眠【ルノワール/眠る裸婦】
ル【ビアスタット/ルツェルン湖】
聖【レンブラント/聖家族】
夜【ゴッホ/夜のカフェテラス】
ニ【コロー/ニンフのダンス】
ひ【モネ/ひまわり】
カ【ドーソン/カティサーク号】
ル【シスレー/ルーヴシエンヌの道】
星【ゴッホ/星月夜】

 →子眠る聖夜に光る星→【回答】ベツレヘムの星
★メリーへ:ファイル5は『ベツレヘムの星』だと思われます
 →(電波切れのためか返信なし)
★★★制作者よりキーホルダーが届いた。
制作者 キーホルダー キーホルダー2

■メリー/12月24日/20時03分

『ファイル5は「ベツレヘムの星」だと思われます』

 また、答えがきた。今回は間隔が短い。
 私は口をつけていたペットボトルのミルクティをたんとテーブルに置いて、ファイル5【名画→名】のファイルにその解答を入力する。

       ※

 今回の「いい子」は、氏名に「う段」の文字が含まれる。

       ※

 すごい、また開いた。
 それにこれはだいぶ候補が絞られそうだ。
 ――鍵は、あと2つ。
 私はお礼のメールを書く。

 ――本当にありがとうございます。かなり「いい子」が絞れてきたように思います。
   あと少しです。どうか、よろしくお願いいたします。

 送信する、が。
 ――エラー?
 メールが届かない。
 気がつけばまた、電波が切れていた。
 私ははぁと息を吐き出し、とりあえずミルクティに口をつけた。


■山本美優/12月24日/20時12分

 扉を開いたのはファーブルだった。
 彼は部屋に駆け込み、なにかつかみ上げる。
 巨大な白い布袋だった。口が赤いリボンで結ばれている。
 あれは、どうみても――
「プレゼント?」
 とファーブルが呟いた。
 彼はどこか乱雑な手つきでリボンをはずし、そっと袋の中を覗き込んだ。
「なにが入ってるんですか」
 と、私も隣に立ってのぞき込む。
 ファーブルは丁寧なてつきで、中身を床に並べた。
 小道具がたくさん。すべてに、名前のラベルシールがはってある。
「どうやら、先ほどのホールの棚に並べるべきアイテムのようですね」
 
・あますぎるわたあめ
・イミテーションのプリン
・こうかなちょうつがい
・これしかないよりみち
・しんしようくつした
・つけたことのないリップクリーム
・ぬいかけのマフラー
・へんなさびおとし
・れきしあるモンスター
・んなわけないだろとつっこまれるンゴロンゴロ

 合計、10個。
 んなわけないだろとつっこまれるンゴロンゴロってなによ、とつい呟いた。



 部屋でみつかったものはそれだけではなかった。
 左に進むと、奥の壁には、額に入った絵がいくつもかかっている。といっても絵画ではない。シンプルなイラストが多い。林檎や、地球といった。写真っぽいものや、文字もある。
 部屋の中心には向かい合わせにソファとローテーブルが置かれており、談話室かなにか、そんな雰囲気だった。
 ベートーヴェンが、壁にかかった絵のうちの1枚、漫画のラフのような絵に歩み寄り、額ごと壁から外す。
「ちょっと」
 私はつい、声をかけていた。不用意に触るのは危ないかもしれない。それに、額入りのイラストは、鞄に入るようなサイズではなかったけれど、この人なら平気で持ちかえろうとするんじゃないか、と不安になったのだ。
「なによ。単に調べようとしてるだけでしょ――ほら」
 現れた壁には、黒いペンキで「Lud」と書かれている。
「あ。これも、謎解きなんでしょうか」
 疑ってしまってすみません、と私は彼女に頭を下げる。
「いいわよ。それより、他の絵も外してみましょう」
 私たちは手分けして、すべての絵を外した。
 それぞれ、壁に書かれていた文字と見比べる。

 Alb            Ale            Gal             Isa
Alb.jpg Ale.jpg Gal.jpg Isa.jpg
 Jea            Joh            Lud            Mic 
Jea.jpg Joh.jpg Lud.jpg Mic.jpg
 Tez            Tho            Wil&Orv
Tez.jpg Tho.jpg WilOrv.jpg
 
 謎かけなのだろうが、さっぱりわからない。
 私たちは、床に並べた絵と、壁を見比べながら頭を悩ますこととなった。


★★★ルノワールの絵が届く(2人目)。【ルノワール/眠る裸婦】
ルノワール ルノワール10眠る裸婦

■山本美優/12月24日/20時15分

 20時15分に、新たな招待客が現れた。
「おいおい、これのどこが懇親会なんだ?」
 ニールだ。
「あの」
 と私は声をかける。
「こんばんは。昨日は、助けていただいてありがとうございました」
 彼は私には返事をしなかった。
 部屋の中を一瞥した。
「ずいぶん散らかってんな」
 床には、壁にかけられていた絵が散らかっている。
「ちょうど今、整理中なんですよ」
 とワーグナーが答えた。
 ニールは舌打ちする。
「おい、センセイセンセイはどこにいる?」
 ファーブルが朗らかにほほ笑む。
「おそらく、閉ざされた扉をすべて開くとみつかるのでしょう。共に考え、共に先へと進む。すばらしい形の懇親会ではありませんか」
「あん? 扉?」
「センセイが用意してくださった謎を解けば、扉が開く構造なのですよ」
「そんなだりぃことやってられるかよ。メシは?」
「食事はセンセイにお会いしてからの方がいいでしょう」
「腹減ってんだよ、くそ」
 ニールは「寝る」と告げて、ソファに横たわった。


★山本へ:050-3171-7100 この電話番号にかかるか試してほしいかかったら誰か聞いてほしいです
 →【制作者からのメール】 先ほど送信されたメールは、「100の謎」のトリガーとなる情報が含まれているため、
 彼には届かない。 その謎はすでに公開されている。21番目の謎は、 彼らはどこにいるのか、だ。
★★★アルファベットは人名の略。人物と絵を対応させる。

Alb アルベルト・アインシュタイン
Ale アレクサンドル・ギュスターヴ・エッフェル
Gal ガリレオ・ガリレイ
Isa アイザック・ニュートン
Jea ジャン・アンリ・デュナン
Joh ジョン・フォン・ノイマン
Lud ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン
Mic ミケランジェロ
Tez 手塚治虫
Tho トーマス・エジソン
Wil&Orv ウィルバー&オービル・ライト

★山本へ:
 alb E=mc2
 Ale ガーター
 Gal 惑星
 Isa りんご
 Jea 赤十字
 Joh コンピュータ
 Lud 楽譜
 Mic ダビデ像
 Tez マンガ
 Tho 電球
 Wilorb 飛行機 この順に並べて絵をかけて
 →【山本からの返信】やってみます。ありがとうございます!

■山本美優/12月24日/20時45分

『alb E=mc2
Ale ガーター
Gal 惑星
Isa りんご
Jea 赤十字
Joh コンピュータ
Lud 楽譜
Mic ダビデ像
Tez マンガ
Tho 電球
Wilorb 飛行機 この順に並べて絵をかけて』

       ※

 この謎に関しては、私も、なんとなく理解できた。
 わかるのはほんの少しだけど、たぶんアルファベット3文字は、それぞれ偉人のファーストネームを指しているのだろう。
 それぞれの偉人名と、対応する絵を組み合わせればいいのだ。
 私はソルにお礼のメールを出し、ベートーヴェンやワーグナー、ファーブルと共に絵を並び替える。
 ――ロビー左手の扉にあった文章は、「偉人の部屋にて正せ」だった。
 きっと偉人の部屋というのが、この部屋のことなのだろう。
 私たちはそのまま、急いでロビーに移動する。

       ※

 閉めたばかりの扉が開いて、ニールが現れた。
 寝る、といっていたのに、もう起きたのだろうか?
 ニールは私たちをちらりとみて、言った。
「センセイは?」
 小さなため息をついて、ワーグナーが答える。
「まだみつかっていません。でも、今、新しい扉が開いたとろですよ」
「へぇ」
 特に興味もなさそうに、ニールは出口の方向へと向かって歩く。
「どこにいくのですか?」
 と、言ったのはファーブルだった。
「せっかくセンセイが用意してくださった懇親会ですよ。貴方ばかりが勝手なことをされては困ります。こうしてみんなで一丸となってセンセイの元を目指す、素晴らしい聖夜のイベントだとは思いませんか?」
 まくしたてるようなファーブルの言葉に、ニールはたった2文字で答える。
「めし」
 そして彼は扉を開けて、「うー、さみぃ」と呟いてこの洋館を出ていった。
 ばたん、と扉がしまって、それから「ふむ」とベートーヴェンが呟く。
「私もごはん食べてきます!」
 そう言って、彼女も駆け出してしまった。
「まったく、協調性がないのは感心しませんね」
 とファーブルがぼやく。
 その声を聞きながら、私たちは次の扉をひらいた。


★山本へ:みやげのメカかめんが棚のどこにあったのか
 →【山本からの返信】ま行の、上から2番目にあったと、ベートーヴェンさんは言っています。

■山本美優/12月24日/20時50分

「また、プレゼントですね」
 とワーグナーが言った。
 扉を開いた真正面に、リボンのかかった白い袋が置かれている。
「中を改めましょう。センセイが用意したものなのだから、無意味だ、ということはないはずです」
 私たちはまた、ひとつひとつ、袋の中身を取り出していく。

・さいせんたんのらじお
・はんおんたかいホルン
・いっぱいあるあめだま
・いみありげなにんぎょう
・へびつかいのふえ
・ふくめんのこけし
・すぐにはがれそうなステッカー
・おおきなはな
・おもしろいわらにんぎょう
・おごそかなライト

 ここでも10個だ。
 出来心で「ふくめんのこけし」の覆面をずらしてみると、にやりと笑った表情がみえた。

       ※

 この部屋はがらんとしていた。
 部屋の奥――右手の方向に、ぽつんとひとつ扉がある。
 この部屋を回り込み、ロビーの隣室の位置に、もうひと部屋あるようだった。
 扉には1枚のメモが貼られている。
 ファーブルが巨体をゆらし、そのメモに駆け寄る。
『これが最後の扉だ。この扉は、山本美優さん、まずは貴女にくぐって欲しい。他の方々は待たせてすまないが、偉人たちの部屋ででもゆっくりしていてくれ。あの部屋のソファはお気に入りなんだ』
 ファーブルは、喜んでいるような、悲しんでいるような、深い息を吐き出した。
 それから彼は3回、扉をノックする。
「センセイ。そこにいらっしゃるのですね?」
 返事はない。
「貴方のおっしゃる通りにいたします。お会いできるのを、楽しみにしております」
 と、その横から、ワーグナーが手を伸ばす。
 彼はぴしりと音をたてて、そのメモをはがした。
 あ、とファーブルが声をあげる。
「こら、なにをするんですか!」
「なにかありますよ、ファーブル」
 確かにメモの下には、マス目のようなものがあった。
 そこにぽつぽつと、数字が埋まっている。

マス目

 ――これは?
 その画像の下には、「この扉は22時まで開かない」と書かれていた。


★山本へ:タイムカプセルを埋めたときの男性は、自分のことを悪い人と自己紹介しましたか?
 →【山本からの返信】言っていたと思います。
★★★アイテムの名前は「1文字目の母音+名詞の子音」で表すと、50音表に対応している。
 例)「ただされた」「しんぶん」→「A」「S」→逆にすると「SA」
 本編にて登場した名前シールの一覧に追加されたアイテムを反映し、マス目の数字に該当する言葉を抜き出す。
名前シール

さいせんたんのらじお(1)→さ
へんなさびおとし(2)→ん
つけたことのないリップクリーム(3)→た
すぐにはがれそうなステッカー(4)→は
おもしろいわらにんぎょう(5)→い
いみありげなにんぎょう(6)→な
おごそかなライト(7)→い

 →【回答】さんたはいない
★山本へ:さんたはいないが合言葉だと思われる
 →【山本からの返信】ありがとうございます。22時になったらやってみます。

■山本美優/12月24日/21時23分

 また、メールが届いた。

     ※

『さんたはいないが合言葉だと思われる』


       ※


 サンタは、いない?

 そう言ったら、センセイが扉をあけてくれるのだろうか?

 どういう意味かはわからなかったけれど、ソルの答えは正しいのだろう。これまでの部屋でもそうだったように。

 ――とにかく、22時だ。

 22時になったらあの扉の前で、「サンタはいない」と言ってみよう。


★★★ファイル1【8/8 5/6 2/9 4/6 5/5 6/8 6/6 3/8 6/9】
 【四つの答えが、五つ目の答えを導く】 ※アルベルトの視点
 以上の点より、 各ファイルの文字数を分母、先頭からの文字数を分子としてファイル1を置き換える。
 ファイル2【そうたいせいりろん】:9文字
 ファイル3【でんしじょう】:6文字
 ファイル4【むりーりょ】:5文字
 ファイル5【べつれへむのほし】:8文字

8/8 → べつれへむのほ「し」 
5/6 → でんしじ「ょ」う
2/9 → そ「う」たいせいりろん
4/6 → でんし「じ」ょう
5/5 → むりーり「ょ」
6/8 → べつれへむ「の」ほし
6/6 → でんしじょ「う」
3/8 → べつ「れ」へむのほし
6/9 → でんしじょ「う」

 →【回答】しょうじょのうれい
★メリーへ:一つ目のファイルの回答として、「しょうじょのうれい」を試してみてください
 →【メリーからのメール】ありがとうございました。
 裏に「くぜたいち」と書かれたキーホルダーを受け取った方が、「いい子」です。
 皆さんの中に、該当するキーホルダーをお持ちの方はいらっしゃいますか?

■メリー/12月24日/21時27分

『一つ目のファイルの回答として、「しょうじょのうれい」を試してみてください』

 新しい答えが届いた。
 ――ひとつ目?
 あの、わけがわからない数字の羅列があったファイルだ。
 しょうじょのうれい――少女の憂い。
 心にひっかかる言葉だ。
 私は、それを打ち込む。
 ――ひらいた。
 そこには、決定的な情報が書かれていた。

       ※

「いい子」は裏に「くぜたいち」と書かれたキーホルダーを持っている。

       ※

 ファイルはまだひとつ残っているが、だと言っていいだろう。
 ――ありがとうございました。
 と、私はメールを打つ。
 ――裏に「くぜたいち」と書かれたキーホルダーを受け取った方が、「いい子」です。
 今までずっとぼやけていた希望の輪郭がみえたからだろうか?
 不安で、指が震えた。
 あとは、「いい子」の判断次第だ。
 私は胸の中で祈る。
 どうかいい子が、私に味方してくれますように。


★メリーへ:良い子が見つかりました
 →【メリーからの返信】ありがとうございます。
 申し訳ありませんが、その方をご紹介していただけますか?
 あだ名のようなものでも、教えていただけますと幸いです。
★メリーへ:さて…いい子が見つかったわけですがあなたは自分さえよければいいのでしょうか?
 それとも久瀬君さえよければいいのでしょうか?たとえ久瀬君がそれを望まなくとも
 →【メリーからの返信】私が望んでいるのは、彼の幸福と、私自身の幸福です。
 消えたままであれば、彼はなにかを望むこともできません。
★メリーへ:はじめまして、リコリスといいます。
 私が「いい子」に選ばれたようです。プレゼントに関しては、もう少し考えさせてください
 →【メリーからの返信】リコリスさん、ご連絡いただきまして、ありがとうございます。
 もちろん、「プレゼント」に関する決定権は、すべて「いい子」にあります。
 言い換えれば、プレゼントは貴女が望む形で出現します。
 なにもかもが可能とはいいきれませんが……。

■山本美優/12月24日/22時

 22時になる10分ほど前に、私は偉人たちの部屋をあとにして、最後の扉の前に移動した。
 それからの10分間は、奇妙に長く感じた。
 私はじっと、そのときがくるのを待って、そして。
 22時ちょうどに、扉の前で、言った。
「サンタはいない」
 口に出すと、想像よりも悲しい言葉だな、と感じた。
 サンタクロースがいないことなんて、ずいぶん前から知っていたはずなのに。
 私は心のどこかで、サンタクロースの存在を信じていたのかもしれない。
 かちり、と小さな音をたてて、扉が開く。

       ※

 まずみえたのは、サンタクロースの後姿だった。
 ――この人が、センセイ?
 久瀬くんの手がかりを持っている人。
 彼はサンタクロースの上着を着て、帽子をかぶり、部屋の奥のデスクに向かって、座っていた。
「座らないのか?」
 と、くぐもった声が聞こえた。
 部屋には赤と白のクロスがかかった丸いテーブルがある。その上には銀色のトレイにのった、ティーカップがふたつ。それと、白いカプセルがあった。
「失礼します」
 私はそう答えて、椅子に腰を下ろす。
「よくきたね。君を待っていた」
「どうして、私を?」
「前に会ってからずいぶん経つけれど、元気にしていただろうか」
「まあ、それなりに」
「私からのプレゼントを君はまだ持っているかな」
「プレゼントってあのスマートフォンですか?」
「そうだ」
 なんだか会話が、もどかしかった。
 私は久瀬くんのことを尋ねたいのだ、ストレートに。
 でも、センセイは呑気に言う。
「すまないが、紅茶に薬を入れてくれないか。カプセルを飲むのはどうも苦手だ」
「え、はい」
 私はテーブルの上にあったカプセルを手にとり、開く。
 中の粉末が、紅茶におちて、じわりと解けた。
「ああ、薬は棚の中にある」
 え?
「これじゃなかったんですか?」
 たいへんだ。間違った薬を入れてしまったのだろうか。
 私は慌てて、右手にある、白い棚を開く。
「白いカプセルの……」
 と、センセイがいった。
「やっぱりこれじゃないですか?」
 なんだか、すれ違いを感じる。
 私は紅茶を手に取り、センセイのデスクの隣にあったサイドテーブルに運ぶ。
「そう、ありがとう。紅茶をこちらに」
 少し遅れて、センセイはそう言った。
 センセイはずいぶん疲れているようだった。
 意識が、朦朧としているのだろうか?
「よければ、君も紅茶を
「……ありがとうございます」
 センセイに勧められて、紅茶に口をつける。
 冷めていた。味は、よくわからない。少し苦すぎるような気もする。
 私は意を決して、久瀬くんのことを尋ねようとして、そのとき。
「君はまだ久瀬くんを捜しているのだろうか?」
 勢いよく答える。
「もちろんです」
 そのために、ここに来たのだ。
「残念だが、彼はもうどこにもいない」
「……どういう意味ですか?」
「君からみれば、私がすべての元凶にみえるだろうね」
 どうして?
 このひとが、どうして悪いことになるんだ。
 長時間緊張していたせいだろうか、ふ、と平衡感覚がなくなった。
 眠気? これは――
 その直後。
 どこかから、なにか、小さな声が聞こえたような気がした。


★メリーへ:あなたがバスで話すことが出来る少女のことについて、詳しく教えていただけませんか?
 →【制作者からのメール】先ほど送信されたメールは、「100の謎」のトリガーとなる情報が含まれているため、
 彼には届かない。近々、対応する100の謎を公開する。
★メリーへ:我々が望むのは問答無用のハッピーエンドだ。誰一人不幸にならない未来を求めている。
 もし君が誰かを犠牲とする方法を取ろうとするなら君に力を貸せない。
 →【メリーからの返信】実のところ、本当に私の望みが叶うのであれば、
 12年前の事故から改変したいと考えています。
 それはつまり、彼が彼女を救わなかった世界を作る、ということです。
 ですが、プレゼントに込められた願いによっては、その改変はできないでしょう。
★★★裏の名前欄が空欄のキーホルダーが届く。
キーホルダー2 キーホルダー1 キーホルダー3
・このメールが、リコリスさんに届きました!
 【メリーからのメール】「嫌な過去を消し去りたい」、「純粋に彼を連れ戻したい」、
 あるいは「幸福な結末への道をつくりたい」。なんでもかまいません。
 あなたの素直な願いを、教えてもらえませんか?
★★★フリック南京錠が届く。
南京錠
★メリーへ:事故そのものをなかったように改変することはできないのか?
 →【メリーからの返信】わかりません。試してみなければ。
 プレゼントに関する詳細を知っているのは、センセイだけです。
★メリーへ:あなたは何でそんなにも彼女を救いたくないのですか?彼女が悪魔だからですか?
 →【メリーからの返信】私には、誰かを救いたくない、という意志はありません。
 私自身は、可能であれば全員が救われる結末を望んでいます。
・【メリーからのメール】リコリスさん。もうあまり時間がありません。お返事をいただけませんか?
 あなたが素直に願うことを、お教えください。
★メリーへ:焦らせてごめんなさい、
 私の今の願いは、「この物語に関わる人全てが納得するかたちの幸せな世界」を望みます。
 →【メリーからの返信】わかりました。ありがとうございます。
 →【メリーからの返信】こんな時間に申し訳ありません。
 今夜中に、どうしてもプレゼントを受け取りたいと考えています。
 キーホルダーを持って、少しだけ家から出てきていただくことは可能ですか?
★メリーへ:大丈夫です。
 →【メリーからの返信】わかりました。それでは、今すぐ家の前までプレゼントをお持ちください。
★★★いい子「リコリス」より:
 「サンタ帽とひげつきのセミロングの女性がうちの前まで来た!プレゼント受け取って去っていった!」
★★★ファイル3【冬山も素数意識かな】
 【キーのひとつは錠にある。文字は点でも、言葉は線だ】 ※【第2部】ワーグナーの視点
 以上の点より、【冬山も素数意識かな】を50音表で辿る。
 でんしじょう 例)「ふ」→「ゆ」は左、「ゆ」→「や」は上、「や」→「ま」は右。
 →左上右下右上右上左右上左
 →錠の本体に隠れる部分に小さな紙が貼ってあり、「でんしじょう」と書かれていた。→【回答】でんしじょう

■メリー/12月24日/22時45分

 スマートフォンが鳴った。
 ソルと繋がるスマートフォンではない。あくまで私のものだ。
 登録名は、ドイル。
 私は応答する。
「やあ、メリークリスマス」
 と落ち着いた声で、ドイルは言った。
 どんなときにでも無理に強がろうとする彼は、嫌いではない。
「状況は?」
 と私は尋ねる。
「キーホルダーを回収した」
 よし、と思わず拳を握りしめる。
 これで、彼はこの世界に戻ってくる。

【BREAK!!/BAD FLAG-07 不在 回避成功!】


■八千代雄吾/12月24日/22時48分

 プレゼントを欲しがっていたのは、メリー。
 そのメリーが唯一仲間に引き込んだのが、オレだった。
 理由はきっと、単純だ。
「過去を書き換えられる」
 その言葉にいちばん素直に飛びつく聖夜協会員がオレだったってだけだろう。
 都合よく聖夜協会員たちの視線は、クリスマス懇親会に向いていた。
 誰かに邪魔されることなく、オレたちはプレゼントを生み出す手順を踏めた。
 ――センセイは、オレたちの味方だったのだろうか?
 それはわからない。
 でもとにかく、彼が山本という少女にこだわってくれたおかげで、こちらの作業はスムーズだった。
 よほど状況が整わなければ、イヴの夜に、メリーがこんなにも自由に動けるなんてあり得ない。

       ※

「キーホルダーを回収した」
 とオレが告げたあと、まず聞こえたのは沈黙だった。
 そうそう聞けない種類の沈黙だ。
 感激で息が詰まる音。
 それだけでもクリスマスプレゼントしては充分だが、今夜の目的はそんなものじゃない。
 改めて。
「これでプレゼントは、オレたちのものだ」
 そう告げる。
 隣の席で、ノイマンがスマートフォンをのぞき込みながら、呟く。
「こんなことでいちいち私を呼び出さないでよ。貴方ひとりでできるでしょ」
 オレはメリーに、「すぐに戻る」と告げて電話を切る。
 それから、ノイマンに答えた。
「仕方ないだろ。メリーからの指示だ。もし相手が女性だったなら、オレひとりで押しかけさせるわけにはいかない」
 ノイマンはため息をつく。
「はやく送ってね。今夜中に用意しないといけない映像、まだできてないの」
「へぇ、なにかトラブルでも?」
「紙吹雪。なかなか気に入るのがなくって」
 結局、好みじゃないものしか手に入らなかったわ、と、ノイマンは言った。


       ※

 ノイマンに言われるまでもなく、オレはアクセルを踏み込む。
 珍しく旨が高鳴っていた。
 興奮というよりも緊張だ。
 ――だれかの願いがこもった、ちっぽけなキーホルダー。
 そんなアイテムひとつと、聖夜の奇跡とだけで。
 死んだ少女を取り戻すことは、できるだろうか?


■山本美優/12月24日/22時50分

「おい」
 と声をかけられて、私は目を開く。
 目の前に、ニールがいた。
 彼は疲れた風にため息をつく。
「面倒なことになったな」
 え、と私は顔をあげた。
 それで初めて、テーブルに突っ伏して寝ていたことに気づいた。
 部屋には、ニール、ファーブル、ワーグナー、アルベルト。
 それから――
 ほら、とニールが、部屋の前方を指さす。
 そこには。
 脇腹の辺りから大量の血を流す、センセイの姿があった。


★★★モネの絵が届く(2人目)。
モネ1 モネ4

■メリー/12月24日/23時55分

 呼び鈴が鳴った。
 扉をひらくとそこにはみさきが、緊張したような面持ちで立っていた。ケーキの箱を持っている。
「こんばんは」
 と彼女は言う。
「こんばんは」
 と私は答える。
「入って」
 私は彼女を、部屋の中に招き入れる。
 12月25日がやってくる前に。
 すべてを終わらせてしまおうと決めていた。

       ※

 マグカップにそそいだインスタントコーヒーを、なんだか大切そうに両手で持ったまま、みさきは上目づかいで私をみた。
「みんな上手くいったの? お姉ちゃん」
「予定通りに、って感じじゃないかな。でも大枠では」
「つまりは?」
「つまりは、たぶん私たちは消えない」
 プレゼントが壊れるのは、たったひとつのシチュエーションに限られる。
 プレゼントの使用者が、「プレゼントを持っていない自分」を思い出したとき。
 つまり、プレゼントの持ち主だけが、そのプレゼントを壊せるともいえる。
 その意味では、過去改変のついでに自分が消えてしまうというのが、もっとも都合のよい展開ではあった。プレゼントを壊せる人間がいなくなってしまうのだから、そのプレゼントの効果はほとんど永続だ。
 ――でも、それは許されなかった。
 まあ、仕方がない。
 本当にプレゼントが手に入っただけで、これ以上なく、幸福な展開ではある。
「どんなプレゼントが生まれたの?」
 とみさきは言う。
 私は彼女が買ってきたホールケーキのイチゴをフォークで突き刺しながら、答える。
「この物語に関わる人全てが納得するかたちの幸せな世界」
「物語?」
「まあ、比喩的表現だと思っていましょう」
「うん。すごいじゃん。みんなの幸せ」
「もちろん、だからここでハッピーエンドです、とはならないと思うけれどね」
 残念ながら、センセイのプレゼントが、この世界でもっとも強いわけではない。
 ――いや。この世界に限ってしまえば、いちばん強いのかもしれないけれど。
 なんにせよ、ただ願えば叶う、というわけじゃない。
「そのプレゼント、使ったらどうなるの?」
 とみさきが言う。
「さあ? いろいろなせめぎ合いがあるんだと思うけど」
「でも、久瀬くんは帰ってくる」
「そうでなきゃ、またやり直しよ」
「ま、試してみるしかないか」
「うん。そういうこと」
「じゃあ」
 私たちは声をそろえて言う。

 ――メリークリスマス。


■久瀬太一/12月24日/24時

 光――緑がかった、あまり強くはない光。
 それに照らされて、オレは目をひらく。
「よう」
 と、でかい人影がいった。
 ――だれだよ?
 意識が、はっきりとしない。
 なんだ。きぐるみ。馬鹿みたいに笑った顔の、だがあちこち傷んでぼろぼろだ。
「お前、誰だ?」
「だれだっていいじゃん。それよりも、たいへんなんだよ」
「なにが?」
「いろいろあって、みんな幸せにならないといけないんだよ」
「どういうことだよ」
「そういうプレゼントを貰ったの。オレたちが」
「意味わからねぇよ」
 オレはため息をつく。
「つまりさ、女の子を助けようって話なんだけど」
 なんだ。
「わかりやすい話じゃないか。それで?」

       ※

「どうせ今のお前に言っても覚えてないと思うから、ざっくりいうけどさ。お前がやらないといけないことはふたつだ」
「ふたつ?」
「ひとつは、あの夏を思い出すこと」
「あの夏ってなんだよ?」
「ほんの4か月前だよ」
 ぴんとこない。
「オレはなにか忘れているのか?」
「ソルってわかるか?」
「どっかの国の言葉で、太陽」
「ほかには?」
「ほかになにかあったか?」
「ほら、忘れてるだろ」
 そういわれてもわからない。
 きっとこれは夢なんだろうけれど、難しい夢だ。
「とにかくさ、お前はさっさと記憶を取り戻すところからだ。あんまり時間をかけていられないから、さっさとやる」
 それから、ときぐるみは言った。
「それから、まだ名前のないキーホルダーを受け取る」
 キーホルダー?
「誰から?」
「まあ、ソルじゃないか?」
 ソルって誰だよ。
「どこで?」
「関東?」
「広いよ」
 どんな指示だよ。
「まあ細かいことはそのうちわかるよ。お前は色々思い出して、キーホルダーをみつけるの。とりあえずそれを目指せ」
 あまりに大雑把だ。
「とりあえず思い出せ。話はそこからだ」
 思い出したらこれを渡してやる、と、きぐるみは丸っこい手でスマートフォンを掲げてみせた。

       ※

 どこかでベルの音が聞こえたような気がして、オレは目を覚ます。
 ――携帯の着信ベル?
 たしかに、聞こえたような気がしたけれど。
 それは空耳だったみたいで、スマートフォンをみてみても、なんの痕跡もありはしなかった。

――To be continued


12月23日(火) ← 3D小説「bell」 → 12月25日(木)
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