2014/07/27(日) 23:55 【 EDIT

【ある侵入者の回想1】 7/27 公開されなかったシーン / 書籍P:205

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 あれは異様な経験だった。
 そもそものきっかけは、1通のメールだった。そこには、私が追っている「スイマ」と呼ばれる何者かの手がかりが、新大阪付近のアパートにあるかもしれないと書かれていた。私は上司を説き伏せ、東京、新大阪間の新幹線チケットを経費で落とさせる必要があった。
 アパートに到着したのは、ちょうど正午ごろだったと記憶している。目的の部屋のドアには鍵がかかっていた。チャイムを鳴らしても、反応はなかった。仕方なく私は、依頼主にメールを送った。「鍵がかかっていて部屋に入れません」と、素直に。できないことをできないと認めるのは恥ずかしいことじゃない。それを無理に隠そうとする精神こそが恥ずかしい。
 珍しくすぐに返信があった。
 ――30分後にもう一度部屋を訪れろ。以降、30分ごとに様子をみろ。
 待っていればいずれ、誰かがこのドアを開けてくれるということだろうか? 詳しい事情を教えて欲しいとさらにメールしてみたけれど、今度は返信がなかった。仕方なく私はドアに背を向けた。ここに突っ立っているのもバカバカしい。周囲の様子をみてこようと思った。

 ※

 うっかりスパイスの匂いにつられてインドカレーを食べてしまったせいで少し遅れたけれど、大目にみればおよそ30分後と呼べる時間に、私はアパートのドアの前に戻った。
 部屋の鍵は開いていた。そして私は、アパートの一室で、不可思議な「彼ら」に出会うことになった。
 私がその部屋を訪れたとき、中にいたのは3人の男女だった。男がひとり、女がふたり。みんなまだ若い。
 男が、はきはきとした口調で私に尋ねたのを覚えている。
「貴女は、ソルですか? スイマですか?」
 正直なところ、何を言っているんだ、と思った。ソルという言葉を聞いたのは、このときがはじめてだった。
 でも依頼主から「スイマという名前は避けろ」と言われていたことを思い出し、私は「ソル」と答えた。
 彼らはとりあえずその答えに満足したようだった。どうやら彼ら自身が「ソル」と名乗る集団のようだ。彼ら――ソルはひとり、またひとりと増えていった。
 そして私は、この部屋と、それから彼らの不可思議さをまざまさとみせつけられることになった。

 ※

 部屋は一見する限りでは、どこか小さな企業のオフィスのようだった。部屋の奥の窓際に、ふたつのデスクが背を向け合うように並んでいた。ありきたりな、灰色のデスクだ。その手前には小型の、赤いサイドワゴンがひとつずつ。さらに手前、左側の壁際にスチール製の大きなファイリングキャビネットがあった。
 目についたのはデスクの上の大量のキャンディ、サイドワゴンに載った将棋セット。将棋の駒は、盤の上に乱雑に積まれている。それから、持ち運びできる小型の黒板に書かれた文字――「玉の動きが鍵となる」。
 ソルたちは当然のように、その部屋を探索した。ゴミ箱の裏と、二重底になっている小物入れからそれぞれ小さな鍵をみつけ出し、鍵のかかった引き出しをあけていく。白い引き戸をひらくと、なぜか大量の丸いカプセルが転げ出し、その中からパズルのピースがみつかった。どうやらカプセルのいくつかには、パズルのピースが入っているようだ。部屋の主は一体なぜ、こんな面倒なことをしたのだろう? 私は仕方なく、丸いカプセルからパズルのピースをみつけだす作業を手伝う。
 共に部屋の探索をしていても、彼らのことはよくわからなかった。彼らは初対面のようだったけれど、そのわりには一体感がある。共通したひとつの目標を持っており、部屋の探索で一喜一憂している。
 やがてパスるのピースが出そろい、それを組み合わせると「おうしょうをかちわれ」という文字が現れた。
 割れそうな王将はすでにみつかっていた。サイドワゴンの鍵のかかっていた引き出しに、陶器製の大きな王将の貯金箱が入っていたのだ。彼らは陶器の王将をタオルでくるみ、消火器で平然と叩き割った。その動作に一切の躊躇いも感じらられないことが、彼らをより不可思議にみせていた。
 割れた王将の中からは、小さな鍵が出てきた。


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